ヘヴンズデビル

ナカシマハルカ
ナカシマハルカ

第九話

公開日時: 2020年9月3日(木) 14:00
文字数:7,620

 愛留に指定された場所は、南口を少し言った先にあるエリア。周りにはパチンコ店や場外馬券場、飲み屋が所狭しと並んでいる。


 日は落ちかけ、けばけばしい色合いの看板達に光が灯っている。


 バイクを路駐し、小柄な花凜の後を追っていく。


 店の前に立ち始めた黒服や、派手な服をまとった女の人たちが花凜を見ると、道を開けていく。


 彼女が突然、寂れたビルの前で立ち止まる。


目の前には地下に向かう急な階段。疲れたように明滅する蛍光灯が、落書きで溢れた壁を照らしていた。


 花凛は躊躇なく下り初める。一段降りた瞬間、彼女の肩を掴んでいた。


「んだよ、いってーな」


「待ってよ。いきなり中に入っていくの? 中にどれだけ敵が居るかもわからないのに」


「さっきの画像見た限りじゃ五人くらいだったろ。別にどうって事ない……もしかしてお前、ビビってんのか?」


「……そういうわけじゃないけど、さっきと違って僕たち二人しか居ないんだ。囲まれたらやばいって」


「馬鹿、舐めんなよ。十人くらいなら相手できる。それに相手は俺らを騙ってナンパするようなクズどもだ。たかが知れてる」


 腕を勢いよく振って、僕の手を振り払いさっさと降りていってしまう。


花凛はが扉を開けた途端、電子音が洪水のように流れ出てくる。


 照明が絞られた店内には、いくつものアーケードゲームやUFOキャッチャー、プリクラが並び、遊戯している人たちを妖しく照らしていた。


 そんな薄暗い筐体の森の中を、気にすることなく進んでいく小柄な後ろ姿。


 ふと、ゲーム音を遮るように大きな笑い声が聞こえてくる。


 そこには、画像に写っていたロゴマークをつけた連中と、愛想笑いをしている女の子が自販機の前のベンチでたむろしていた

 くるりと花凜が僕に振り返る。


「いいか、俺の邪魔すんなよ。お前には一ミリも期待してねえからな。わかったか?」


「う、うん……」


 僕が頷くのを見届け、花凜はその集団に近づいていく。そして、一番手前に居る背を向けたドレッドヘアの男の肩を叩いた。


「あ、なんだ?」


「おらぁっ!」


 なんの警告もなく花凜の拳が、男の頬へと吸い込まれていく。


 拳を食らった男は一回転して自販機に身体をぶつけると、そのまま倒れる。


ピクリとも動かず、白目を向いて泡を吹いていた。


 花凛はその男に近づくと、胸に縫い付けられていたパッチを勢いよく剥がし、僕に放り投げてきた。


「おい、ちゃんと持ってろよ。大事な証拠だ」


 その瞬間、周囲の男たちが喚きながら立ち上がった。


「な、なんだ、おい!」


「この野郎ふざけやがって! ぶっ殺す!」


「死にてーのかコラぁ!」


「……何がぶっ殺すだ、死にてーのか、だ。このボケども。許可なく俺らのチーム騙りやがって。覚悟はできてんだろうな、あぁ?」


「てめぇ……ヘヴンズデビル! 上等じゃねえか! ここでどっちか強えか思い知らせてやらぁ!」


「ったく……デート中ってんなら素直に謝れば、一発殴るくらいで許してやろうと思ったけどよ、やるんならやってやるぜ? 死ぬ気で来いよ」


 花凜はファイティングポーズを取る。すると男たちは声を上げながら、それぞれ花凜に殴りかかってくる。


それを交わしながら次々と拳や足を腹や顔に打ち込んでいく。


 赤子の手をひねるように、次々と自分よりも大柄な男たちを倒していく花凜。


 その姿は赤い髪も相まって、まるで鬼のようだった。


 ふと見ると、男たちに付き合わされていた女の子達が抱き合って床に座り込んでいた。咄嗟に僕は彼女たちへ近づく。


「こ、ここは危ないから早く外に出て! 巻き込まれちゃうよ!」


「で。でも、あの……」


 怯えた顔で動こうとしない。眼の前で繰り広げられる一方的な暴力に腰が抜けているようだった。


「……仕方ない……!」


 僕は一人を無理やり立たせ、もう一人には肩を貸す。


 蜂の巣をつついたような店内の中を、二人の女の子を連れて入り口に向かう。


 なんとか急な階段を登りきり、彼女たちを降ろした。


 その時、通りの向こうから大声を上げて走り寄ってくる一団が見える。


明らかにガラの悪そうな連中が手にナイフや釘バットを持って、こちらに向かって走ってきていた。


「くそ、増援か!? ほら、早く逃げて! ここに居ると本当に危ないからっ!」


 女の子達は頷くと、男たちとは反対の方向に逃げていった。


 僕は即座に店内に戻ると、急いで花凛の元へと戻る。


 すると、彼女は倒れ込んだ男に馬乗りになって両手の拳を何度も振り下ろす。


パンパンに顔が腫れた男は泣いて許しを請っていたが、彼女の目は血走り、全く耳に届いていなかった。


「おい、花凜、止め……」


 止めようとした瞬間、筐体の影からスキンヘッドの大男が椅子を振り上げて花凜に近づく。


彼女は制裁を加えるのに夢中で気がついていない。


「危ないっ!」


 僕は咄嗟に、そいつに体当りする。すると、大男はもんどり打って筐体に突っ込むとそのまま動かなくなった。


「……こ、殺してないよな……?」


 覗き込むと、とりあえず息はしていた。僕はほっと胸を撫で下ろした時、入り口の方から怒声が聞こえてきた。


 僕は即座に立ち上がり、周囲で伸びている連中の胸からパッチを奪う。雑に縫い付けられたパッチは、力を入れると簡単に取れた。


「花凜! もう良いだろ! パッチ回収して逃げるぞ!」


 僕が声をかけても一向に殴るのを止めない。殴られている男はすでに意識を失っていた。


 最後の一人からパッチを回収すると、花凛に近づく。


「だからもう止めろ、死ぬぞ!」


 花凛の背後に周り、身体を押さえる。すると、僕の両手が柔らかな物二つを握った。


「きゃあああ!」


「うおあっ!」


 それが彼女の胸だとわかった瞬間、花凛がまるで女の子みたいな悲鳴を上げる。


 僕の手を振り払うと、自販機を背にしてこちらを睨んでいる。その目には涙を浮かべていた。


「……な、なんだよ急に触ったりしやがって! この変態!」


「あ、謝るけどそんなこと言ってる場合かって! 他の仲間達が来るからさっさと逃げるぞ!」


「なんだと? 上等じゃねえか、全員ぶっ殺してやるよ!」


 段々怒声が近づいてくる。僕は咄嗟に彼女の手を取って走り出した。


「と、とにかくこっちだ!」


「お、おい、離せって! どこ行くつもりだよ!」


「非常口だよ、こういうところならあるだろ!?」


「おい、俺は逃げたくねえ! あの舐めた奴ら全員ぶっ殺してやる!」


「駄目だって! 今度は武器持ってるのに素手で立ち向かったら殺されるぞ」


「うるせえ、俺は戦って死ぬんなら本望だ。良いから離せ!」


「嫌だ! やり方ともかく、君は正しいことをしているんだ。そんな君をむざむざ犬死させるなんて僕には出来ない! 良いから従えこの大馬鹿女!」


「なっ……」


 突然静かになった花凛を連れ、幾つもの格ゲーの筐体をすり抜ける。


 店の突き当りに緑色の光を放った非常口の看板が見えた。


 僕は体当りするようにその扉を開ける。そこには螺旋階段。微かに通行人の雑踏が聞こえてきた。


 僕は階段を勢い良く駆け上がる。金属の軋む音が、周りの建物に響いた。


 登り切った先は路地。今自分がどこにいるのかわからないほど入り組んでいた。


「くっそ……どっちだ……」


 辺りを見回すと、階段下から勢い良く扉の開く音。


「おい、いたぞ! 上だっ! さっさと回り込んで追い詰めろ!」


「ちっ! もう来たのか、とにかく行くぞ!」


 再び花凛を引っ張って走り始めたその瞬間、彼女は無造作に置かれたゴミ袋に足をかけ盛大に転んでしまった。


「だ、大丈夫か?」


「だいじょうぶだ……ほら、行くぞ」


「あ、ああ!」


 苦悶の表情を浮かべながら立ち上がる花凛をもう一度引っ張って走る。


 薄汚れたポリバケツや中身の残った缶を蹴り、排水管から漏れ出た水たまりを踏みつけ、路地を駆け抜けていく。


 何かに気がついた花凛が足を止め、僕を制してくる。


「……待て!」


「なんだよ、早く逃げないと追いつかれるぞ!」


「静かにっ……!」


 目を閉じ、耳をそばだてる花凛。


 すると前方から、男の声と足音が聞こえて来た。


「……まじかよ逃げられると思ったのに……! 引き返すぞ!」


 来た道を戻ろうとすると、今度は反響した幾つもの足音が段々と近づいてくる。


「駄目だ。囲まれちまってる……!」


 左右は窓のない雑居ビルに阻まれ、僅かに見える星空は何十メートルも上。


 もはやこれまでかと諦めたその時、かすかに遠慮がちな声が聞こえてきた。


「おい、圭太郎、こっち……」


「え?」


 ずっとおとなしくしていた花凛が、僕の手をぐいっと引っ張る。


 そこは建物と建物の、ほんの僅かな隙間。そこに花凛が小柄な身体を滑り込ませて入っていった。


「……君は入れるかもしれないけど、二人は無理だ。君はそこに隠れてて。あとはこっちでなんとかする」


「ごちゃごちゃうるせえ。いいから入ってこい」


 力強く引っ張られ、僕はその隙間に無理くり入っていく。背中や肩が壁に擦れ、汚れていく。


 この隙間、奥行きはほとんど無い。


花凛一人が入れるくらいで。僕は半身が路地に出てしまっていた。


「……やっぱ無理だ。ここは男の僕が囮に……って、え?」


 花凛は顔を伏せると、僕の身体をぎゅっと抱きしめる。戸惑う僕をそのまま奥へ奥へと連れていく。


 すっぽりと隙間に入り込んだ。


胸から下に花凛が抱きついている。あの、鬼のような花凛が。


非現実的過ぎる事態に思考が追いつかない。


彼女の胸が僕のお腹当たっている感触だけが、現実であることを伝えてきた。


 声を上げて離れようとした時、すぐ近くで足音が聞こえてくる。


僕は息を殺した。


「おい、こっちにはいないぞ!」


「どこ行きやがった! もっとよく探せ! 近くに居るはずだ!」


「絶対見つけてぶっ殺してやるっ!」


 男たち息巻いて走り去ると、辺りは静寂に包まれる。


何分か、何十分かした後、僕はおずおずと切り出す。


「……もう、良いんじゃない……かな……?」


「……ああ、それもそうだな……」


 花凛はすっと腕の力を緩め、僕はなんとか隙間から這い出た。


 僕はポケットからスマホを取り出す。建物のせいで電波が入らないのか、圏外の表示。


諦めて携帯をしまうと、続いて花凛も路地に出てくる。


しかし、身体が抜けた瞬間、顔を歪めると直ぐに座り込んでしまった。


「ど、どうしたの?」


「……なんでもねえよ。行くぞ」


 そう行ってもう一度立ち上がろうとする。しかし体勢を崩し、そのまま倒れ込んだ。


彼女の手が、咄嗟に左足を庇おうとしているのを見逃さなかった。


「……ちょっと見せて」


「おい、触んなよ。やめろなんでも無いって!」


 僕は無理やり彼女の手を退かし、左足を見る。すると足首が赤く腫れ上がっていた。


「ひどい。どうしてこんなことに……」


「……さっき路地に出て転んだ時にひねったみてえだ。まだ歩ける」


 苦しそうな顔で立ち上がろうとする花凛。その姿に僕は声を荒げた。


「なんでそうやって無理し続けようとすんだよ! 一人で強がんないで、僕を頼れよ!」


 思わず彼女の襟首を掴んでしまう。花凛は僕から目を逸し、うつむいていた。


気がつくと、彼女の頬を涙が流れている。


我に返り、手を離した。


「ご、ごめん」


「……気にすんな。こっちこそわりい、足手まといになった」


「そ。それで、歩けるの? かなり痛そうだけど……」


「ああ、正直かなり痛い。とにかく、お前は俺を置いて先に逃げろ。こんな状態の俺と居たらマジで殺されるぞ」


「いやだ」


「は?」


「嫌だって言ったんだよ……必ず連れて帰るから」


「ちょ、ちょっと待ておい! 何やってんだよ!」


 僕は花凛を横から抱きかかえると、路地を歩き始める。


まるでいちゃついたカップルがお姫様抱っこをするように。


 花凛は抱っこされるのを拒否する猫のように、ジタバタもがき始めた。


「お、おい、なんだよこれ! 良いから俺を置いていけっ!」


「絶対嫌だ。僕がどうしようと僕の勝手だろ? 足手まといなんだから言うこと聞きなよ」


「うるせぇ! こんな恥ずかしい格好させられるくらいだったいっそ死んだほうがマシだっ!」


「プライド捨てなよ、いい加減。君は確かに強いけど、どうしようもなく弱い」


「な、なんだと、てめえ……! ここでブチのめしてやろうか!?」


「いいよ、やってみようか。多分、今の状態じゃ僕が絶対に勝つ……そうなるって自分が一番わかってるだろ?」


「……るせぇ……」


「……とりあえず、皆の元に帰ったら僕を好きにしていい。でも、それまでは僕の好きなようにさせてもらう。いいね?」


「ちっ……好きにしろ」


 悔しそうな顔をすると、ぷいっとそっぽを向く。子供っぽい仕草に、思わず笑いそうになった。


 しばらく無言のまま、暗い路地を歩いていく。もう足音は聞こえて来なかった。


 その時ふと、遠くの方から人の話し声と雑踏が聞こえてくる。


看板の明かりと、人通りの多い道が見えてきた。


「これでやっとこんなじめじめしたところからおさらばできる……」


「そうだね。とにかく電波の届くところに行って助けを呼ばないと」


 足早に路地を走る。花凛に振動が伝わらないよう配慮しながら。


安堵の気持ちで路地を抜けた瞬間、強烈な光が正面から浴びせられる。


思わず目を閉じ、顔を背けた。


光りは無くなるどころか増えていき、目の前が真っ白に染まる。


すると、その光を遮りながら、幾人もの人物が近づいてきた。


シルエットだけでわかる。ゲーセンに居た連中の仲間だった。


「おーう、やっとドブネズミ達が出てきやがったぜ。随分と手こずらせてくれたなあ、ええ?」


 顔がパンパンに腫れた男が、鉄バットを持ち、肩を揺らしながら近づいてくる。


 僕は花凛を下ろし、背後に隠した。


「あんた、眼覚ましたのか……色んな意味でタフですね、そんな顔で外、歩けるなんて」


「んだとコラっ! 今からお前らも同じような顔にしてやっからよ! 潰れた顔でその女なが犯されるのを眺めてなぁ!」


 その声を合図に一斉に男たちが凶器を振り上げて襲ってくる。僕は目を瞑り、死を覚悟した。


 すると、重低音が鳴り響き、爆音とともに、何かが目の前を横切っていった。瞬時に男たちは空を舞い、次々と地面に転がっていく。

 それはスキール音を響かせて、止まる。


 金色の角、いや、ツインテールを振り上げた希羅が、木刀片手にバイクに跨っていた。


 希羅だけじゃなく、次々とクラブメンバー達が集合し、男たちを取り囲むと、手に持った獲物で次々に蹴散らしていく。


 屈強な男たちが、小さな女の子に翻弄される姿は、夢でも見ているのかと思うほど奇妙だった。


 あっという間に男たちは倒される。それぞれ半裸にされると、一箇所に固められていた。


その周りを天使の皮を被った悪魔達がぐるっと囲む。


にやつきながら品定めすると、一人、また一人と路地裏に連れ込まれていく。


暗がりから男たちの悲鳴が幾重にも響いてきた。


 唖然とその光景を見ていると、肩に木刀を担いだ希羅と、愛留がくしゃみをしながら近づいてくる。


「遅くなってごめーん。大丈夫……じゃなさそうだけど、とりあえず無事そうね」


「た、助かったよ、ありがとう。でも、なんで僕らの位置がわかったの?」


 愛留がパソコンを開く。そこにはここら一体の地図と、赤い光点が表示されていた。


「……スマホ。ハックした」


 そういうと、再びくしゃみをする。唾が僕の顔に掛かった。


「うわっなんだよ、口抑えろって!」


「ここ匂い最悪…………だから圭太郎のアカウントでゲーム、買っていい?」


「だからってなんだよ、意味わかんねーよ、駄目に決まっとろーが」


 愛留はもう一度くしゃみをすると、ならばもう用はないと背を向け、仲間のバイクに跨がってパソコンを弄り始めた。


「ま、そういうわけ。とにかく二人共生きてて良かった。ね、花凛?」


「な、なんで俺に同意求めんだよ。意味わかんねえ」


「いや、だってねえ、あんだけ嫌がってたのに今は背中に隠れてべったりじゃない」


 口を抑えて笑いを堪える希羅。花凛は慌てて僕から離れようとする。しかし、足のことをすっかり忘れていたのか、転びそうになる。


 僕は咄嗟に手を出して、彼女を受け止めた。


「おっと、大丈夫?」


「……す、すまん……」


 その光景を見て、希羅があんぐりと口を開けた。


「うわ、花凛が乙女な顔してる。ひゅー、やるねえ圭太郎。この暴力娘をすっかり女にしちゃってこのぉ!」


「別に女にされてねえよ! これはただ仲間に助けられただけだっての!」


「とか言いながら、腕に収まりっぱなしじゃない。ちょっと妬けちゃうわね」


「だ、だからこれは……その……」


 顔から湯気が出るくらいに真っ赤になる花凛。僕はため息を吐いた。


「希羅、それ以上いじめちゃ駄目だよ。花凛は怪我してるんだから」


 彼女の左足首を指差す。希羅は赤く腫れた患部を見て、納得したように頷いた。


「ああ、そういうこと。足先は動く?」


「まあなんとかな、じんじん痛えけどよ」


「とりあえず骨に異常はなさそうね。それじゃ、後のことはやっとくから、もう帰りなさい、それじゃ、花凛、キー出して」


「はぁ? なんでだよ。帰る足が無くなんだろうが」


「ろくに動かない足でクラッチ切り替えられると思ってんの? 死ぬわよ?」


 どんと腕を組んで立ちはだかり、一歩も引かない姿勢を見せてくる。


「………………はぁ、わかったよ。ほら」


 花凛はポケットからキーを取り出すと、希羅に投げる。


「あら、いやに素直じゃない。どうしたの?」


「べ、別に。ただ少し身の振り方を考えるようになっただけだ」


「ほー……これはこれは……いやいやここまでとは……」


 何やらぶつぶつ言いながら僕と花凛を高速で見比べてくる。ちょっとうざかった。


「で、俺はどうすりゃいいんだ? この足で歩いて帰れってのか?」


「ん? 圭太郎の原付きの後ろに乗って帰ればいいじゃない。あれ、二人乗り出来たわよね?」


「で、できるけど、さ……」


 絶対花凛は嫌がるだろ。そう思って彼女を見る。


「……あしゃあねえなー。ほんと、そんなちんたらしたバイクに乗りたくねえけど、希羅が、リーダーの希羅がそういうんなら従わないわけにはいかないよなぁー」


 そう言いながらちらちらと僕を見てくる花凛。


女心の急激な変化を目の当たりにして頭が痛くなりそうだった。


「じゃ、そういうわけだから。送り狼にならないでよ、圭太郎」


「な、ならないよ! ……それより、僕らを襲ったやつらの始末はどうする? このまま任せておいて大丈夫なの?」


「ああ、それなら……」


 路地から叫び声を上げて、スキンヘッドの大男が飛び出してくる。超ミニスカートのメイド服を着て。


 それを何人ものメンバーが取り押さえ、転ばせると、そいつの足を引きずって再び路地に戻っていく。


「……とりあえず血生臭いことはしていないのはわかった……」


「身体に付けた傷はすぐ治っちゃうからねえ」


 くっくっくと笑う希羅。身震いしてしまうのは、夜風のせいだと思いたい。


「それじゃ、そこの花凛をよろしくね」


「うんわかったよ。気をつけて連れてく」


「さすが紳士代表……あ、それと花凛」


 路地に入っていこうとした瞬間、くるりと振り返る。


「な、なんだよ」


「……期待以上だった。そうでしょ?」


「……まあな」


 希羅はにこりと笑い、花凛は呆れるように笑った。

 


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