【第1章完】ゲートバスターズー北陸戦線ー

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第3話(3)長尾山付近にて

公開日時: 2023年9月22日(金) 02:18
更新日時: 2023年9月22日(金) 17:23
文字数:1,866

「来たな……」

 黒髪のロングヘアを後ろで一つしばりにした長身の女性が腕を組んで、倉庫の真ん中にあるパイプ椅子にドカッと腰を下ろしている。

「! あ、貴女は……」

三丸みつまるまつ隊員!」

 花と蘭が驚く。

「ふん、ワタシのことは知っているか……」

「そ、それはもちろんであります!」

「この福井管区きってのエリート隊員様ですから!」

 大げさに敬礼する蘭の横で花が興奮気味にまくし立てる。

「様なんぞつけなくて良い……」

「は、はい、失礼しました!」

 花が背筋を正して敬礼する。

「ワタシは別にエリートでもないしな……」

「はい、重ね重ね失礼しました!」

 花が再び敬礼する。

「いちいち敬礼しなくてもよろしい……」

「! は、はい……」

 花が三度敬礼しそうになった右手を下ろす。

「失礼にも当たらんしな……」

 三丸がふっと笑う。倉庫内に張りつめていた緊張がわずかながらほぐれる。

「みつまるまつ……思わずまつまるみつって言っちゃいそう……」

「!」

「り、陸人くん⁉」

「思わず言っちゃっているよ!」

 花と竜が慌てる。

「はっ! ついつい気が緩んでしまって……」

 陸人が自らの口元を抑える。

「人の気にしていることを……」

「き、気になさっていたんですね……」

「ああ、氷刃陸人隊員、貴様は失礼だな……」

 三丸がギロリと睨む。

「ひ、ひえっ……」

 陸人が一瞬で涙目になる。

「まあ、それくらいでどうにかはせんが……」

 三丸は組んでいた腕をほどいて、タバコを取り出し、口に咥えて火を付けようとする。

「あ、基地内は原則禁煙ですよ」

 竜が注意する。三丸の動きがピタッと止まる。

「竜……!」

「竜くん……!」

 蘭と花が竜を睨む。竜が慌てる。

「ご、ごめん、空気読めてなかった……」

「宇田川竜隊員、なかなか良い度胸をしているな……」

 三丸が竜をジロリと睨む。竜が縮み上がる。

「ひっ……」

「だが、ルールはルールだ。仕方がないな……喫煙所に行ってくる。楽にして待っていろ」

 三丸が倉庫の裏口から出ていく。

「……お、お前らは~~!」

「余計なことを言わないで下さいよ……!」

 蘭と花が陸人と竜を責める。

「ご、ごめん……」

「申し訳ない……」

「アンタら、あの人の機嫌が悪かったら、五体満足でいられたかどうかも怪しいぞ⁉」

「本当よ。少なくとも病院送りは確実だったでしょうね……!」

「そ、そんな人がさ……」

「うん?」

「俺たちを呼び出したってどういうこと?」

「……」

 陸人の疑問に他の三人が黙る。竜がポツリと呟く。

「……制裁?」

「いやいや! なんで制裁されにゃあならん⁉」

 蘭が竜の両肩を掴んで揺らす。

「い、いや! ぼくにも分からないですよ⁉」

「制裁なんぞせん……」

 三丸が四人の近くに立っている。蘭が驚く。

「! い、いつの間にお戻りに……⁉」

「五体満足云々あたりからかな」

「ほとんど聞かれていた……!」

「制裁よりある意味大変かもな……イレギュラー討伐に向かうぞ、出動だ」

 三丸が四人を促す。

「ゲート開放反応があった地点に到着しました」

「運転ご苦労さんです」

「ご武運を!」

 三丸たちを下ろすと隊員が車を後退させる。

「長尾山付近か……山からくると考えるのがベターだな」

 三丸が目の前に広がる山を眺めながら呟く。そこに通信が入る。

「ゲートが開きます……」

「来たか……」

「……グオオッ!」

 黒い大きな爬虫類がいくつもゲートから飛び出してくる。

「……パターン青、『巨獣きょじゅう』です……危険度はCです」

「ふむ、この福井市を中心とした福井県エリアはどうもあの種のイレギュラーが多いな……何故だろうか?」

 三丸が首を傾げる。蘭が口を開く。

「お、恐れながら……」

「なんだ? 志波田蘭隊員?」

「まずはさっさと討伐した方がよろしいかと……」

「ふっ、それはそうだな。だが、待て……宇田川竜隊員」

「は、はい!」

「貴様の能力を見たい」

「は、はい……」

 竜が眼鏡をいじりながら、黒い爬虫類をじっと観察する。三丸が問う。

「どうだ?」

「はい、黒い色素が極端に薄い部分が二か所……目だと思われます」

「志波田」

「はっ! うおおおっ!」

 三丸に促された蘭がジャンプし、取り出した金棒で黒い爬虫類の目をことごとく潰す。

「グオッ⁉」

「生き物は目を潰されると脆いからな、目の位置を割り出したのはさすがの『分析』能力だ」

「はっ……」

「もっともあの巨獣どもが生き物なのかということだが……宇田川花隊員、やや小型の奴らが逃げたようだ。残りの連中の位置を『探索』しろ」

「はっ、二時の方向の森林に何体か潜んでおります」

「仕事が早いな、姉弟揃ってさすがだ、さて、氷刃陸人隊員……ご自慢の腕の見せ所だ」

「は、はひ!」

 陸人が返事を嚙みながら、銃を取り出す。

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