【第1章完】ゲートバスターズー北陸戦線ー

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第4話(3)立山連峰付近にて

公開日時: 2023年10月6日(金) 00:11
文字数:1,787

「到着しました」

「ありがとうございます」

 深海が自分たちを運んできてくれた車のドライバーに礼を言う。

「ご武運を!」

「ど~も♪」

 車を降りた夜塚が呑気な返事を返す。深海が空中に開いた黒い穴を見つめる。

「ゲートが完全に開いていますね……」

「間もなくご登場だね……」

「!」

 ゲートから、黒いヘリコプターのような影が数体と、黒い木のような影が、それぞれ数体飛び出してくる。通信が入る。

「パターン黄、悪機です! さらにパターン赤、妖魔です!」

「こ、これは……」

「同時に出てくるとはなかなかレアなケースだね……」

 夜塚が呟く。深海が通信先に尋ねる。

「危険度は?」

「いずれもCです!」

「そうですか……」

「それなら彼らに任せてみてもいいかな……」

 夜塚が顎をさすりながら頷く。深海が否定する。

「それは駄目です」

「何故だい?」

 夜塚が首を傾げる。

「レアなケースだと自分で言ったでしょう、彼らに任せるには経験が不足しています」

「何事も最初は初めてさ」

 夜塚が両手を広げる。

「それはそうですが……」

「それに互いの県では、珍しいイレギュラーが出てきた。この機会を逃す手はないよ」

 夜塚が影を指差す。

「ふむ……」

 深海が腕を組む。

「そんなに考えている時間は無いよ」

「……はい」

「了承したということでいいね?」

「経験を積ませるということは極めて大切ではありますね」

「オッケー♪ それじゃあ、まずは石川の第四部隊諸君!」

「は、はい!」

 夜塚の声に大海が応える。

「あのヘリコプターを任せよう」

「了解です!」

「まずはアタシが!」

 月が飛び上がる。ヘリコプターと同じくらいの高さまでに達する。

「~~♪」

「な、なんて跳躍力⁉」

 口笛を鳴らす天空の横で雪が驚く。

「はっ!」

「ブッ⁉」

 月が次々と矢を放ち、ヘリコプターの影を霧消させていく。

「やるな、月ちゃん! オイラも負けてられねえ! うおりゃあ!」

「ブブッ⁉」

 慶が槍を投げつけて、ヘリコプターの影を霧消させる。槍はブーメランのような軌道を描いて、慶の手元に戻る。

「槍が戻ってきた! な、なんて槍投げなの!」

「むしろ投げやりな戦い方だ……」

 驚く雪の横で葉が腕を組んでムスっとする。

「まだ残っているわ!」

「私がやります! 古前田隊員!」

「おっしゃあ!」

 慶が槍を地面に思い切り叩きつける。槍が大きくしなる。

「はっと!」

「行けえっ!」

 槍の柄に乗った大海が、しなりの反動を利用して高く飛び上がる。

「『飛翔剣』!」

「ブブブッ⁉」

 大海の振るった剣を食らい、ヘリコプターの影が霧消する。

「! やるねえ……」

「見事な太刀筋だな」

 天空と葉が素直に感心する。

「うにゃ⁉」

 月が着地をミスする。夜塚が満足そうに頷く。

「良いねえ♪ 着地ミスと技のネーミングが減点対象だけど」

「え⁉ 私も⁉」

 大海が驚く。深海が口を開く。

「では、富山の第四部隊……妖魔はこちらが担当しましょう……」

「了解です! 掛けまくも畏き……恐み恐み申す!」

「バッ⁉」

 葉が唱えると、木の影は燃えて霧消する。

「あれは……火の魔法⁉」

「はっ、そんなハイカラなもんじゃねえよ……」

 大海の言葉を聞いた慶が笑う。

「わたしが続きます!」

「ババッ⁉」

 雪が手をかざすと、木の影が急速に枯れて霧消する。月が驚く。

「ど、どういうこと⁉」

「ヒーリング魔法の応用だね、許容量以上の栄養分を注ぎ込んでキャパオーバーさせたんだ。回復専門かと思ったら、どうしてなかなか戦えるねえ……」

「かわいい顔して、結構エグいことするな……」

 夜塚の説明に慶が顔をしかめる。

「さて、一番太い木は僕がいただいちゃおうかな?」

 天空が腕を振り回す。雪が声を上げる。

「かな?じゃなくて、アンタもちゃんと戦いなさいよ!」

「ああ、分かっている……って!」

「バババッ⁉」

 天空の放った強烈な拳が太い木の影を貫いて霧消する。

「……『拳』!」

 天空が渾身のドヤ顔を雪に向ける。

「こっちを見るな! せめて技を放つ前に言いなさいよ!」

「影響を受けやすい奴だな……」

 雪が騒ぐ横で葉が頭を抑える。

「す、凄い……!」

「ネーミングについてはセンス以前の問題ね……」

 驚く大海の横で、月が苦笑する。

「……まあまあといったところですね」

「あれでまあまあ? 厳しいねえ、破竹は……」

 夜塚が首をすくめる。

「評価を甘くしても何も良いことはありません……ん⁉」

 深海が視線を向けると、残っていた木の影と、後から現れたヘリコプターの影、それぞれ数体が不穏な動きを見せる。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート