「……さて、はるばる能登半島の先端あたりまで来たけど……あれがゲートだね」
現場に到着した夜塚がゲートの存在を確認する。
「まもなくイレギュラーが出現します!」
通信が入る。夜塚が応える。
「了解……」
「なんだかいつもより禍々しいような……」
月がゲートを見て呟く。
「星野隊員」
「あ、す、すみません、適当なことを言って……!」
月が頭を下げる。
「いや、君の感覚は恐らく正しい……」
「え?」
人間より一回り大きい影が何体か出てくる。夜塚が目を細める。
「む、あれは……」
「パターン赤、妖魔です!」
「危険度は?」
「! Aです!」
通信手の驚いた声が伝わる。
「エ、Aだと⁉」
慶も驚く。
「確認した。速やかに討伐に当たる……!」
通信に応えた夜塚が大海たちの方に向き直る。
「隊長、あれは……!」
大海が影を指差す。
「ああ、金棒のようなものを持っている……」
「ということは……⁉」
「鬼の影だろうね……」
「お、鬼……⁉」
「そうだ」
「そ、それってかなり強いのでは……」
「強いね、それも数体だ」
月の言葉に夜塚が肩をすくめる。
「そ、そうですよね、危険度Aですものね……」
月が納得する。大海が問う。
「我々だけで大丈夫でしょうか?」
「あいにく石川基地の他の部隊は別のイレギュラー討伐に出払っている……」
夜塚が自らの側頭部の髪をわしゃわしゃとする。
「それでは待機中の……」
「まあ、待ちたまえ、それはあくまで最終手段だ」
「え?」
「情けないことを言う様ですが、オイラたちでは手に余りますよ」
慶が首を傾げながら両手を広げる。夜塚が笑みを浮かべる。
「己の力量をきちんと把握しているのはむしろ立派だよ……」
「お褒めに預かり光栄です……しかし、どうするんです?」
「……一人忘れているよ?」
「ん?」
「え……?」
「はい?」
慶と大海と月が揃って首を傾げる。
「おいおい! 本当に忘れないでくれよ! ボクがいるでしょ⁉」
夜塚が自身を指差す。
「あ、ああ……」
大海が戸惑い気味に頷く。
「グウ……」
「鬼どもがこちらに向かっているぜ!」
慶が声を上げる。
「グウ!」
「うおっ!」
鬼の影が一体金棒のようなものを思い切り地面に叩きつける。地面は激しく揺れ、大きな地割れが起こる。慶が驚き、月が声を上げる。
「一体でもあの力……!」
「やるな……!」
大海が顔を一層厳しくさせる。
「まあ、そう慌てることはないさ……ふん!」
「グウ⁉」
夜塚が印を結ぶと、火の玉が鬼の影たちに向かって飛び、鬼の影たちが持っている金棒のようなものが次々と溶解させる。
「火克金か!」
「そういうこと……!」
慶の言葉に夜塚が頷く。
「グウウ……」
鬼の影たちは戸惑った様子を見せる。
「ふふっ、得物が無くなって戸惑っているようだね……」
夜塚が笑う。
「グウウウ!」
「それでもこっちに向かってきていますよ!」
月が鬼の影たちを指差して声を上げる。
「ならば……ふん!」
「グウウ⁉」
夜塚が印を結ぶと、水が地面にかかり、地面から木がいくつも生えて、鬼の影たちの足を絡み取ってしまう。月が呟く。
「水生木……」
「そう。これで満足に動けないだろう……古前田隊員! 星野隊員!」
「おっしゃあ!」
「はい!」
慶が鬼の影たちに槍を突き刺していき、月が矢を放つ。正確な突きと射撃によって、心の臓あたりを貫かれた鬼の影たちは次々と霧消していく。夜塚が頷く。
「よし、いいよ、二人とも!」
「グウウウ‼」
「むっ⁉」
「何体かが木を強引に引きちぎりました!」
「そう簡単にはいかないか……」
月の報告を聞き、夜塚が苦笑する。
「私が!」
「いや待て、疾風隊員! 単身突入は危険だ!」
「し、しかし!」
「手を貸そう……」
夜塚がブレスレットを着けた手首を見せる。
「そ、それは⁉」
「手を掲げて!」
「は、はい!」
それぞれ手を掲げた大海と夜塚が同じ色に包まれる。
「よし! 任せたよ!」
「はい‼ うおおっ!」
「グウウウ⁉」
大海が振るった剣から炎が噴き出し、その炎に包まれた鬼の影たちが霧消していく。
「『陰陽之剣』……効果ありだね」
夜塚が笑みを浮かべる。
「大海の剣に火の属性を持たせたのですね……でも、どうして?」
「良い質問だねえ、星野隊員」
夜塚が月の方に向き直る。
「は、はあ……」
「金棒を持っているのは、いわゆる赤鬼だ――もっとも影だから黒鬼にしか見えないけれど――赤鬼とは渇望を意味すると言われている」
「渇望……渇き?」
「そう、渇きとは真逆とも言える火がもっとも効くだろうと思ってね」
「なるほど……」
月が顎に手を当てながら頷く。
「さてと……大体片付いたかな?」
夜塚が周囲を見回す。
「新たにゲート開放反応確認!」
新たに通信が入る。
「む!」
付近に二つのゲートが開き、戦闘機の影と巨大なワニの影がそれぞれ何体か現れる。
「パターン黄、悪機です!」
「パターン青、巨獣です!」
「こ、これはまた数が多いぜ……」
慶が戸惑う。
「仕方ないね……最終手段といくか……と思ったら、もう来ていたようだね」
「え……?」
夜塚の呟きに月が首を捻る。
「現着しました……」
「来たぞ……」
「ふむ……」
「‼」
大海たちが視線を向けると、深海率いる富山隊と三丸率いる福井隊が駆け付けていた。
「は、速い⁉」
「そりゃあこの為に待機させていたようなものだからね……」
驚く月の横で、夜塚が満足気に頷く。
「へへっ! こいつはまた盛り上がってきたな!」
「夜塚隊長! 号令をお願いします!」
慶が笑い、大海は指示を仰ぐ。
「ああ、三隊合同任務だ!」
三丸が声を上げる。石川隊、富山隊、福井隊の三隊、三度の揃い踏みである。
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