【第1章完】ゲートバスターズー北陸戦線ー

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第1話(4)疾風の如き剣速、そして……

公開日時: 2023年9月8日(金) 19:05
更新日時: 2023年9月12日(火) 19:16
文字数:1,710

「ぽわっ……」

「はあっ!」

 大海が綿毛に斬りかかる。大きな綿毛の塊が半分になる。月が声を上げる。

「やった!」

「いや、オイラの二の舞だ!」

「えっ⁉」

「古前田隊員の言う通り……このままなら塊が増えるだけだね……」

 古前田の言葉に夜塚が頷く。

「そんな……」

「さあ、どうする?」

「はああっ!」

「⁉」

 大海が目にも止まらぬ速さで刀を振るい、綿毛の塊を細かく切り刻んでみせる。

「は、速い!」

「ふむ……まさに疾風の如き剣速だ……」

 驚く古前田の横で夜塚が感心する。

「どうです!」

 大海が刀を鞘に納める。綿毛はバラバラになって、地面にハラハラと落ちる。

「凄いよ、大海!」

「へっ、やるじゃねえか……」

 月と古前田が大海を称賛する。

「もったいないお言葉です……」

 大海も二人に向かって頭を軽く下げる。夜塚が口を開く。

「水を差すようだけど……」

「え?」

「気を抜くのはまだ早いよ」

「!」

 大海が振り向くと、地面に落ちた綿毛から花が生える。月と古前田が驚く。

「こ、これは……」

「むっ⁉」

 花が集まり巨大な花となる。大海が唖然とする。

「な、なんと……」

「避けるんだ、危ない!」

 夜塚が声を上げる。

「ぽわっ!」

「うおっ⁉」

「きゃあ⁉」

「どわっ⁉」

 花が飛ばした花びらが鋭い刃と化し、大海たちを襲う。それを回避しようと大海たちは横っ飛びして、倒れ込む。夜塚が声をかける。

「大丈夫かい⁉」

「な、なんとか……」

「か、間一髪、服が破れただけです……」

「隊長の声が無ければ危なかったぜ……」

「とりあえずは無事なようだね……」

 夜塚がほっと胸をなで下ろす。大海が問う。

「あいつは……花の妖魔ということですか?」

「こういうケースは珍しいからね……ちょっと待ってて、もしもし、指令部?」

 夜塚が通信を繋ぐ。

「……はい」

「状況は把握していますよね?」

「モニタリングしておりますので……」

「奴の危険度は?」

 夜塚が巨大な花に向かって顎をしゃくる。

「こちらとしても珍しいケースですので、現在データ照会中です……該当データがあった場合、そちらと照らし合わせて、危険度を改めて算出します」

「急いでね」

「……出ました」

「早いね」

「緊急を要しますので」

「いいね、頼もしい」

 夜塚が笑みを浮かべる。

「危険度は……Aです」

「! ほう、一気に跳ね上がったねえ……どうも」

 夜塚が通信を切る。

「隊長、ここは私に! 私の詰めの甘さが招いた事態ですので!」

「いや、すべてはボクの油断だ……」

「隊長!」

「落ち着いて」

「……!」

 夜塚は大海の眼前に手を広げて、大海を落ち着かせる。夜塚は再び笑みを浮かべる。

「良い子だ」

「隊長……」

「ここはボクに任せてもらうよ……」

 夜塚が前にゆっくりと進み出る。

「ぽわあっ!」

 花が葉を長く伸ばす。古前田と月が声を上げる。

「あ、あれで包み込む気だ!」

「隊長! 危ない!」

「ふん!」

「ぽわっ⁉」

 夜塚が手を掲げると、周囲に巨大な木が何本も生える。すると、葉の伸びは止まるどころか、花自体が萎れてしまう。古前田が口を開く。

「水生木……木は水によって養われる。翻って木は水が無いと枯れてしまう……」

「……どういうこと?」

「木を生やして、花の水分を強引に吸い取ったのです!」

 首を傾げる月の横で大海が声を上げる。夜塚が大海を指差す。

「そういうこと♪」

「ぽ、ぽわあ……」

「大きな花の太い茎……まるで木のようだね。ならば、これだ!」

 夜塚は巨大な斧を出現させ、それを手に取る。大海が驚く。

「あんな巨大な斧を軽々と!」

「驚くのはまだ早いよ! それっ!」

「ぽわあああん!」

 斧によって切断された花は霧消する。古前田が呟く。

「金剋木……金属製の斧は木を切り倒すか……」

「その通り……」

「五行の力を全て使いこなすのが、夜塚梅太郎の強さの秘密か……」

「五行にピンと来るとは、なかなか物知りだね……さて、片付いた……指令部?」

「確認しました。事後処理はお任せ下さい」

「任せたよ♪」

「……」

「あれ? みんなどうしたんだい?」

「結局隊長にお任せしてしまいました……」

「まあまあ、三人ともよくやったよ、後は経験を積めばもっと良くなるさ」

「そうですか?」

「ああ、ボクの見立ては間違っていなかったよ……さあ、帰投しようか」

 夜塚が笑顔で三人に声をかける。

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