英雄の座談会

死後の世界で英雄たちは語らう
退会したユーザー ?
退会したユーザー

第3話 俺らはこうして英雄となった

公開日時: 2021年2月2日(火) 12:04
文字数:2,930

 おかしい……。何かがおかしい……。


 俺は独り、考え込んでいた。というのも、同じように英雄と呼ばれた三人で話しているはずなのに、ほとんど話が合わないからだ。

 もちろん、全く同じとは思っていなかった。しかし、こんなにも合わないものなのだろうか。


 クロトは、英雄であるにも関わらず平然と盗みを働く。死んだとしても何度でも生き返れるし、モンスターを倒せばお金に変わる謎現象まで起きるという。


 一方でレオンは、王と同等の地位を得ていた国のトップであった。そして何より、魔法の存在を知らない。というより、存在を信じていなかったようだ。


 俺とは違う。色々と違う。


「なあ、ちょっと質問いいか?」

「ん? 何の質問だ?」


 俺が声を上げると、レオンがそれに反応した。


「クロトとレオンは、どうして英雄と呼ばれるようになったんだ? 英雄になったってことは、何かそう呼ばれるような偉業を成し遂げたってことだよな?」


 この二人は、なぜ英雄と呼ばれるようになったのか。それに興味が湧いた。

 俺の質問に、クロトとレオンは目を合わせる。

 クロトが自身を指差す。するとレオンは、わかった、といったように頷き、合わせていた目をそらした。


「ボクはね。世界を竜王から救ったんだよ」

「竜王?」


 クロトに聞き返す。


「そう。竜王は世界征服を目論んでいたんだ。そのための力を蓄えてた。竜王に支配されたら世界が大変なことになっちゃうから、ボクが竜王を倒して、それを未然に防いだんだ。それがボクの役目だったからね」


 クロトのいう竜王とは、おそらく魔王のようなものだろう。

 人々を脅かす強大なモンスター。それを倒して、英雄と呼ばれたのだ。この点は、俺に似ている。


「世界征服とは、ずいぶんと大層な夢を抱いていたのだな。そのリュウオウとやらは。しかしなんだ……。役目ということは、貴様がその竜王とやらを倒さなくてはならなかったのか?」


 レオンが尋ねる。


「そうだね。ボクは勇者の家系に生まれたから、勇者を継いで竜王を倒さなくちゃならなかったんだ」

「なるほどな。それがクロトの使命だったってわけか」

「うん」


 俺のように、神様からのお告げがあったわけではない。だが、クロトは英雄になるべくして生まれてきたということだ。

 選ばれたものとしてやるべきことをした。似たような境遇のクロトに、俺は共感できた。まあ、盗みは納得できないのだが……。


「身分に縛られた生き方か……。貴様がそれで納得しているのなら、文句は言えんがな」


 一方で、レオンは不満そうな表情を浮かべる。しかし、俺にはその表情の真意は掴めない。


「クロトが英雄と呼ばれるようになった理由はよくわかった。俺も似たようなものだ。魔王を倒して、人々を救ったんだ。魔王軍は世界の半分を破壊して、支配していた。その上、そこに住む人々を苦しめていたからな」

「世界の半分を支配とは……。そのマオウとやらは、ずいぶんと強大だったのだな」

「まあ、そうだね。かなり強かったよ……魔王は……」


 唯一、死ぬかもしれないと感じた壮絶な戦いを思い出しながら俺は言う。


「世界の半分が支配されていたなんて……。そんなに支配されるまで、ルーカスは一体何をしてたの?」


 クロトが俺に聞いてくる。

 世界征服を『目論んでいた』竜王を未然に倒したクロトからすれば、そう思うのも無理はない。そんな事態に陥るまで、何をしていたのかと思うのだろう。


「俺が神様からお告げをもらったときは、すでに世界の半分が魔王軍に落とされてたんだよ。各国の軍は抵抗してたらしいけど、軒並み魔王軍に敗北して……」


 もちろん、世界各国も抵抗しなかったわけじゃない。だが、魔王により率いられたモンスターの軍勢は、魔王軍の幹部という優秀な指揮官を得た。これにより、破竹の勢いで人の軍を倒し侵攻。瞬く間に、世界の半分を支配してしまった。


「そう……。大変だったね」


 クロトは、自身とは違った状況を想像できないといった様子だ。


 まあ、そうだろう。俺だって、魔王の侵攻を未然に防ぐいう状況を想像できない。できるならしたかったというのが本音だ。未然に防ぐことができたのならば、どれだけの命が失われずに済んだことだろうか。


 しかし、考えても仕方のないことだ。俺が救世主として選ばれる前では、何もできなかったのだから。


「ところで、レオンはどうなんだ?」

「ん? ああ、私か」


 紅茶を飲んでいたレオンが返答する。


「貴様たちとは大きく異なるが、私の成した偉業を教えてやろう!」


 相変わらず、自信満々といった様子で話し始める。


「私は軍人から国家元首となった後、法を定めることで国内情勢を安定させた。そして、国内の雇用を生み出し、外国との貿易を活性化させることで経済の立て直しを行ったのだ」


 俺やクロトとは全く違う、小難しいことをレオンは言う。どうやら、世界で一番凶悪なやつを倒せば万事解決、というわけではなかったようだ。


「さらに、これまでは身分の違いが当たり前だった」

「身分の……違い……?」

「そうだ。国家元首となれるのは王族のみ。政治や軍を仕切るのは王族や貴族。そこに庶民が口を出すことなどできなかった」


 確かに、その通りだろう。

 国をまとめるのは王族の仕事だし、領地を管理するのは貴族の仕事だ。それがどうしたというのだろうか。


「しかし、大切なのは身分じゃない。能力だ。王族や貴族より能力の高い庶民がいるならば、その者にその役割を与えるべきだ。それが、国家にとって最大の利益を生み出す選択。身分などという、くだらんプライドにすがりついていては、国家の発展は見込めんからな。だからこそ、身分ではなく個人を尊重し、実力者はのし上がれる社会を作った。これが、私が英雄と呼ばれる最大の理由だ。なんせ、王族、貴族、庶民では、庶民が圧倒的に多いからな。民意を味方につけた私が支持されるのは当然だ!」


 レオンが自身の偉業を力説する。

 小難しい話が続き、少し頭が痛くなりそうだ。


「えっと……。つまりあれか? とにかく、得意なやつが得意なことをできるようにしたってことか? 一般庶民でも政治が得意なら、政治をやらせる、みたいな?」

「その通りだ。その結果、私の国は大いなる発展を遂げた。世界最大の国家と呼ばれるほどにな!」


 なるほど……。

 レオンは俺やクロトのように、強大な敵を倒すことで人々を救ったのではなく、生活をより豊かにすることで人々を救ったということだ。人々を救ったという点では共通している。しかし、その手段は大きく異なるようだ。


 そしてもう一つ、大きく異なる点がある。

 それは、レオンは英雄になるべくして英雄となったわけではないということだ。


 俺は神様のお告げにより救世主となった。反則級の能力まで与えられて。そして、英雄と呼ばれるようになる。

 クロトは勇者の家系に生まれ、勇者になるべくして勇者となった。そして竜王を倒し、英雄となった。

 言ってしまえば、俺やクロトは英雄となる運命だったといえなくもないだろう。


 しかし、レオンは違う。

 神様のお告げがあったわけでもない。身分は関係ないと言っていることからも、英雄になるための役割が、初めから与えられていたわけでもないだろう。


 こいつは……、絶対的に何かが違うな……。

 英雄たちの話を聞く中で、俺はそう思ったのだった。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート