<エイトリア皇歴1484年4月23日>
「たのもー!!」
女性の勇ましい声が革命軍拠点の門に響き渡る。
玄関を開けると、ガッチガチの鎧を着たキリリとした顔つきの女性が立っていた。
「ここは教皇軍の軍養成所であるか!!」
え??
「ここには、屈強な兵士がわんさかいるというのを伺った!!」
え?え?
「さぁ!!軍の試験を受けさせてもらえぬかっ!!」
え?え?え?
ドッカーニさんはめんどくさそうに女の人の前に歩いていった。
「姉ぇちゃんさぁ。ここ、教皇軍の拠点なわけねぇんだけど…。見りゃわかるだろ?常識的に考えて」
そういってボクたちの住んでいるオンボロ小屋に顔だけ向けて、困惑しながらドッカーニさんは答えた。
「え、そ、そうなの…ですか?すみません。つい」
そうやって申し訳無さそうにお辞儀をした。
「じゃあどうする?本当の教皇軍の施設だったらここから5キロ先にあるぜ。なんならついてってやろうか?」
「で、ですが…もう、体力が…」
ぐぅぅぅぅ。半径3メートルは聞こえるであろうお腹の音が鳴った。ジャンヌさんの腹の音だ。
「おなか…へった…」
がくっ。膝を付き、いきなりボクたちの目の前で倒れた。
「おいっ!!とりあえず部屋の中に連れて行くんだ。それと医者!!」
ボクたちはジャンヌさんをベッドに担ぎ上げて乗せた。
「う、う~ん」
ジャンヌさんは目覚めた。
「あ。す、すみません。急に倒れてしまったようで」
恥ずかしそうに、申し訳無さそうにジャンヌさんは答えた。
「姉ぇちゃんさぁ。このパン、要るかい?」
穏やかな声でドッカーニさんはパンを差し出した。
「あ、あ、ありがとございます!!」
むしゃむしゃ。パンを受け取るとむしゃぶりつくように食べた。
すっかり残り滓も残らないぐらいにパンが消えて無くなった。まるでマジックみたいだ。
「ふぅ~。お腹いっぱい。ありがとうございます」
晴れやかな笑顔で礼をしてくれた。
「って、姉ぇちゃんさぁ。ちょっと良いかい?」
「姉ぇちゃん、ではないです。ジャンヌ・ダルクと言います」
「あんたさぁ、どっから来たんだ?この辺じゃ見ねぇ面だけど」
「フランソワ東武の農村から来ました」
「そのあたりか。こっから考えると北部国境近くになるな。そりゃ遠いなぁ。勿論馬車で来たんだよな?」
「いえいえそんな。走ってきました」
がたっ!!その言葉を聞いてドッカーニさんは声を荒げた。
「って、ちょっと待て!!あの辺りからここまで700キロはあるんだぞ?!何日かかると思ってんだよ!!せめて馬車使えよな!」
「はぁ。何分農家の家なのでそんなもったいないことはとてもとても」
「…って、もったいないってレベルの話かよ…」
ドッカーニさんは愕然としていた。
「あっはっはっは!!気に入った!!姉ぇちゃんがいいって言うんだったら俺たちのところに来ねぇかい?3食昼寝付き提供してやるよ」
「え?良いんですか?」
「もちろんさ。宿なら部屋はたっぷりあるしよぉ。休みの日や時間だったら剣の稽古も一緒に付き合ってやるよ」
「あらあら。それは良いのですけど、これ以上人を雇う余裕なんてありませんよ?」
オーギャストさんはほほえみつつも顔をひきつらせながらドッカーニさんを問いつめる。
「まぁいいじゃねえか。姉ぇちゃん。力仕事はできるな?大工できる男手が足りなくてよぉ。手伝ってくれるかい?」
「はい!!この恩義にかけて!!」
「って、そんなにかしこまらなくって良いってよ。じゃあ決まった。これからよろしくなっ!!大工の姉ぇちゃん!!」
こうやって、女騎士ならぬ女大工ジャンヌ・ダルクさんの加入が決定した。
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