Night walker【ナイトウォーカー】

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退会したユーザー

#08

公開日時: 2022年1月27日(木) 18:32
文字数:1,018

 おかしい? いつもは遅くても一時十分なのに。

 

 今度は、一分が短く感じた。

 

 五分過ぎても、十分過ぎても、この屋上に変化が現れない。

 

 いったい、どうしたんだろう?

 

 不安が募り、いてもたってもいられなくなった僕は、立ち上がった…けれど、すぐ、その場に座ってしまった。

 

 立ち上がったからって、どうなる? 僕はこの屋上から出ることが出来ないんだ。立ち上がったって、この辺をイラつきながら歩くしかない。

 

 自分の無力さと度胸のなさに落ち込んでいると、カチッと音が聞こえた。

 

 待ちに待っていた音だ。

 

 ドアを見ると、そのドアは既に開かれ、一人の女性が立っていた。

 

 女性は、軽く呼吸を乱していた。

 

「疲れてるみたいだけど、どうしの?」

 

 そう問うと、女性はドアの鍵を閉め答える。

 

「今日は、エレベーターを使わないで、階段で来たから」

 

「どうして?」

 

「ダイエット」

 

「太ってるように見えないけど」

 

「でしょ? だから、この体型をキープするの」

 

 Tシャツにパンツルックの女性、望田紗緒里が近付いて来る。

 

 着ているものは違うが、いつも同じような格好。紗緒里がスカートを穿いている姿を見たことがない。

 

 男っぽくなく美人な方なのに、女性らしい姿をせずに男っぽい格好をしてくる。

 

「はい、お昼」

 

 紗緒里がおにぎり二つを差し出した。

 

「いつも、どうも」

 

 受け取ると、紗緒里は微笑み、僕と並ぶように腰を下ろした。

 

 横に座り、フェンスを背もたれにしてから傘を差す。

 

 既に雨は上がっているが、肌に悪いからと日傘を差すのだ。

 

「幸介って、歳の割りに大人びた喋り方だけど、時々年寄りっぽいよね」

 

 軽く失礼な発言だけれど、僕は嬉しかった。

 

 罵られるのが好きとかではなく、紗緒里は感情のこもった言葉をかけてくれる。それだけで嬉しい。

 

 家では出来ない、会話が出来るのだから。

 

「誰かに太ったとか言われたの?」

 

 早速おにぎりをいただき、頬張りながら訊ねる。

 

「自分で自覚したの」

 

「自分でするから、自覚なんだけど」

 

「細かい突っ込みはなし」

 

 紗緒里は、少し頬を赤らめた。

 

 恥ずかしかったようだ。

 

「五キロも太ったのよ。これ以上太ったらまずいじゃない」

 

「僕と会うようになってから、五キロ太ったの?」

 

「そう」

 

「そう見えないけど」

 

「毎日会ってるからね」

 

 紗緒里が立ち上がる。

 

「幸介も立ってみ」

 

 言われるがまま立ち上がると、少し見上げたところに紗緒里の顔があった。

 

「いつも会ってるから分からなかったけど、背が伸びたよね」

 

 確かに、紗緒里と初めて会ったとき、相手が随分と年上に感じた。

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