おかしい? いつもは遅くても一時十分なのに。
今度は、一分が短く感じた。
五分過ぎても、十分過ぎても、この屋上に変化が現れない。
いったい、どうしたんだろう?
不安が募り、いてもたってもいられなくなった僕は、立ち上がった…けれど、すぐ、その場に座ってしまった。
立ち上がったからって、どうなる? 僕はこの屋上から出ることが出来ないんだ。立ち上がったって、この辺をイラつきながら歩くしかない。
自分の無力さと度胸のなさに落ち込んでいると、カチッと音が聞こえた。
待ちに待っていた音だ。
ドアを見ると、そのドアは既に開かれ、一人の女性が立っていた。
女性は、軽く呼吸を乱していた。
「疲れてるみたいだけど、どうしの?」
そう問うと、女性はドアの鍵を閉め答える。
「今日は、エレベーターを使わないで、階段で来たから」
「どうして?」
「ダイエット」
「太ってるように見えないけど」
「でしょ? だから、この体型をキープするの」
Tシャツにパンツルックの女性、望田紗緒里が近付いて来る。
着ているものは違うが、いつも同じような格好。紗緒里がスカートを穿いている姿を見たことがない。
男っぽくなく美人な方なのに、女性らしい姿をせずに男っぽい格好をしてくる。
「はい、お昼」
紗緒里がおにぎり二つを差し出した。
「いつも、どうも」
受け取ると、紗緒里は微笑み、僕と並ぶように腰を下ろした。
横に座り、フェンスを背もたれにしてから傘を差す。
既に雨は上がっているが、肌に悪いからと日傘を差すのだ。
「幸介って、歳の割りに大人びた喋り方だけど、時々年寄りっぽいよね」
軽く失礼な発言だけれど、僕は嬉しかった。
罵られるのが好きとかではなく、紗緒里は感情のこもった言葉をかけてくれる。それだけで嬉しい。
家では出来ない、会話が出来るのだから。
「誰かに太ったとか言われたの?」
早速おにぎりをいただき、頬張りながら訊ねる。
「自分で自覚したの」
「自分でするから、自覚なんだけど」
「細かい突っ込みはなし」
紗緒里は、少し頬を赤らめた。
恥ずかしかったようだ。
「五キロも太ったのよ。これ以上太ったらまずいじゃない」
「僕と会うようになってから、五キロ太ったの?」
「そう」
「そう見えないけど」
「毎日会ってるからね」
紗緒里が立ち上がる。
「幸介も立ってみ」
言われるがまま立ち上がると、少し見上げたところに紗緒里の顔があった。
「いつも会ってるから分からなかったけど、背が伸びたよね」
確かに、紗緒里と初めて会ったとき、相手が随分と年上に感じた。
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