さらに、褒められないランクアップしてしまった。
「そんな事よりも、夜の散歩はどうするの」
「それが問題だ。大問題だ」
「明日からにすれば」
「それは名案だ。よし、それにしよう」
「大問題の割りに、すぐ解決したね」
「そんなもんだよ」
人生を悟っているのか、ただ何も考えていないだけなのか、紗緒里は時々投げ出すように物事を決める。
それからの僕達は、簡単なおままごとをした。
言葉だけのおままごと。
僕達はこの遊びを気に入っていた。
お父さんやお母さんを演じるのではなく、特定の職業や年代を演じる、おままごと。
シチュエーションだけが決められている、アドリブ芝居といったほうが近いかもしれないが、僕達はまだまだ未熟で、自分の決めた役を演じ切れていない。
所詮ままごとレベルなのだ。
「今回、私は孫をやる」
「孫って、また自由度が高い」
三歳の孫もいれば、五十歳の孫もいる。
赤ん坊の孫もいれば、国会議員の孫もいる。
年齢も職業も、明白でない。
「だから、幸介がお爺ちゃんをやって」
「まだ、僕が年寄りくさいネタを引っ張るか」
「だって、お爺ちゃんいないから、どんなもんかなって」
「僕もいないから、演じ切れないよ」
「幸介の歳で、おじいちゃんがいないって変じゃない?」
「生きてはいるかも。死んだとは聞いてないから」
「要するに、分からないんだ」
「初めからいなかったし、そんな話題が上がったこともなかったから、お爺さん、お婆さんがいるかなんて考えたこともなかった」
僕には、お爺さん、お婆さんがいるのだろうか? 確かめたいけれど、確かめる術がない。
お父さんの名前を出しただけで、お母さんは凄まじい剣幕で怒鳴り散らす。
とてもではないが、お母さんに真相を聞けない。
そうなると、打つ手はなしだ。
僕の行動範囲はその程度である。
「でも、二十歳でお爺さん、お婆さんが亡くなってるとしたら、それも早くない?」
「そっか…ママが四十六だから、七十から八十ぐらいだよね」
「今はね。紗緒里が産まれたときで考えると、マイナス二十だ」
「一度も会ったことがないけど、私が産まれたとき、お爺さん達は生きてた可能性が高いんだ」
その言い方だと、産まれたときは生きていて、今は亡くなっているような言い方だが、ここは細かく突っ込まず話を進める。
「父方のお爺さん、お婆さんだっているんだし」
「おー 幸介鋭い」
「普通だよ」
本当に、考えが足りない人だ。これだけ考えが足りなかったら、引きこもるほど悩まないのではと思ってしまう。
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