Night walker【ナイトウォーカー】

退会したユーザー ?
退会したユーザー

#23

公開日時: 2022年2月1日(火) 18:46
文字数:1,071

 静かな空間だが、周りは全て家。窓に明かりが灯り、時々話し声も聞こえる。

 

 こんな状態で叫ばれたら厄介だ。間違いなく周りの住人は家から出てくるか、警察に通報するだろう。

 

 しかし、どうして立ち止まっているのだろう? 僕を恐れているのなら走って逃げるのが普通なのに、立ち止まっている。これでは襲ってくださいと言ってるようなものだ。

 

 もしかしたら、僕を恐れていないのでは? 理由は分からないが、彼女なりに立ち止まる理由があるだけで、現在立ち止まっている理由と僕は無関係かもしれない。

 

 夜な夜な絵を描く僕のように、この女性にも不審に見られるけれど、女性自身には重要な意味を持つものがあるのかも。

 

 仕方ない、進むか。

 

 なるべく女性と離れるように、女性と反対側を進みスピードを速めようとする。

 

 斜めに進み、女性と反対側に移動している最中、状況に変化が表れる。

 

 女性が振り向いたのだ。

 

 それも、こっちが驚いてしまうほど勢いよく。

 

 一瞬、手が止まり、動きが止まりそうになるが、ここで止まってしまったら却って怪しまれそうなので、車椅子を動かすのに集中する。

 

 女性は、一息ついてから歩き出し、僕の横を通り抜ける。

 

 いったい、なんだったんだ? 女性と僕は進行方向が同じだったのに、突然怯えるかのように立ち止まったと思うと、Uターンして恐れていた可能性がある僕の横を平然と通り抜ける。

 

 理解不能だ。

 

 さっきの女性が何を考えていたのか、いくら考えても分からないだろう。

 

 考えに考え抜き至った結論が正解だったとしても、その結論が正解だと正解音が鳴るわけでもない。

 

 要するに、考えるだけ無駄である。

 

 僕は一度振り返って見たけれど、すぐに角を曲がったらしく、女性の姿は見えなくなっていた。

 

[Night- walker]

 

 7月27日

 

 僕は、まだまだ子供だ。

 

 情けないと分かっていながらも、嫉妬してしまう。

 

 羨ましいと。

 

 紗緒里は、そんな僕の胸中を察していないらしく、明るく話を続ける。

 

 夜の散歩は、慣れると楽しいと。

 

 ダイエットするなら歩くのが良いと提案したのは僕で、紗緒里はその提案を聞き入れただけ。紗緒里は何一つ悪くない。

 

 けど羨ましいのだ。自由に外へ出られる紗緒里が。

 

 紗緒里が散歩をすると言い出した日の夜中。僕にとっては一度寝てからになるので早朝になるが、三時頃からずっと外を見ていた。

 

 本当に散歩に出かけるのかを確かめるため。

 

 僕が見ている限り紗緒里は外へ出てこなかったので、てっきり散歩を中止したのだと思っていた。

 

 そのとき僕はホッとしたのだ。紗緒里が少し遠い存在にならず、僕と同じように、このマンションに閉じ込められた存在なのだと。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート