情けない。
自分が嫌になる。
「どうしたの? なんか、今日は元気がないね」
紗緒里が僕の顔を覗く。
「別に」
としか、答えようがなかった。外に出られる紗緒里が羨ましくもあり、遠い存在になってしまったようで寂しくもあるなど、言えるはずがない。
しばらく、沈黙が続いた。紗緒里が僕の異変に気付いているのは明らかだが、その理由は分からないようだ。
体調を崩し元気がないのなら、無理に話しかけないほうが良いと気を遣っているのかもしれないし、ただ、話しかけづらくて黙っているのかもしれない。
「少し、痩せたんじゃない」
情けないと落ち込んでいるのに、さらに情けない行動に出てしまう。
紗緒里は痩せる為にダイエットをしているのではなく、体型の維持でダイエットをすると言っていた。ならば、痩せてしまえばダイエットをする必要がないのではと。
「全然変わらない。そんなに早く成果は出ないよ」
僕の魂胆を知らない紗緒里は、僕の方から話を切り出したのが嬉しいらしく、明るく答える。
その笑顔はとても素敵で、眩しくて、僕を傷つける。
「紗緒里は、もう外に出られるんだから、ここに来る必要はないんじゃないかな」
「えっ?」
先程までの笑顔が、一変して曇る。
「私が居ると、迷惑?」
「そうじゃないけど」
同じ位置に居た同士に、ここまで差をつけられると、相手を賞賛するのではなく、自分を卑下してしまう。
「だって、ここはある意味、紗緒里にとっての逃げ場だったんだろ。今の紗緒里は逃げる必要がないよ」
僕は、紗緒里の表情が見られなかった。怒っているのか、悲しんでいるのか見当がつかない。
「幸介にとって、この屋上は逃げ場なの?」
静かで、無感情な問いかけだった。
「ここは、僕にとっては牢獄なんだ」
詳しくは話さないが、本音で答える。
「そうなんだ、知らなかった。私は幸介がいつもここに居るのは、私と違って、親とか学校から逃げてるからだと思ってた」
影が動く。
紗緒里の影が。
「私はここが好きだった。空が高くて、自由で、男性として見ないですむ、お子様な幸介がいたから」
最後に、初めて紗緒里の皮肉を聞いた。冗談から出る皮肉ではない、意図的に相手を傷つける皮肉を。
うつむく僕の耳には、紗緒里の足音だけが響いた。
ゆっくりだけれど、確実に遠ざかっていく足音が響き、扉が開閉する音が聞こえると、僕の頬には涙が伝っていた。
[Night- walker]
ドアを背もたれにして、私は頭を抱えていた。
幸介の態度に腹を立て、啖呵を切ってしまった自分には非がないと思うけれど、この先どうしよう?
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