結局、この設定は僕の強い否定によって無効になり、紗緒里がゲームデザイナー、僕がホストの設定になった。
お爺さんを演じる以上にホストの情報は少ない。それならお爺さんを演じられたのではと突っ込まないところが、考えが足りない証拠だ。
僕達は、つたない演技で話し続けた。この遊びのいいところは、下手でも良いから役を演じること。
演じているのだから、アドリブの演技として自然と嘘が多くなる。
その嘘に対し、僕達は演技をしながら真剣に答える。
嘘の悩みや不安、それが本当に嘘なのか、嘘の中に加えられた真実なのか分からないけれど、僕達は真剣に答える。
以前、一度だけ宗教の悩みを打ち明けた。
その時、僕は受験生の役をしており、自分の受験問題のせいで親が宗教に凝ってしまった設定にした。
宗教にはまって抜け出せなくなっている。受験がうまくいっても、失敗しても、宗教を辞めるつもりがないらしいと。
紗緒里は、こう答えた。
人様に迷惑をかけないなら、いいんじゃない。
この答えで、大分気が楽になった。働いて家を出られるようになるまで、お母さんの好きにさせてあげようと。
「時々、分からなくなるの」
ゲームデザイナー 紗緒里が、立ち上がりフェンスを握りつぶやく。
風景が見たいのか、僕の表情を見られたくないのかわからないが、視線はフェンス越しに町並みに注がれている。
「私は、本当の意味で恋が出来ないんじゃないかって」
恋や愛の話題が出ると、口数が減ってしまう。
なんせ、恋心を抱いたのは一度しかない。恋心を抱いただけで、女性と付き合った経験はゼロだ。
「私は、ゲームの中でたくさんの恋愛を演出してきたの。恋愛シミュレーションではなく、RPGで。
戦いや旅を続けていく内に、友情が愛情に変わったり、初めから愛情があったりとか、恋の形は様々だけど、行き着く先はほとんどがハッピーエンド。
その中でも、結婚が多い。
それはそれで幸せだからいいんだけど、実際に結婚までいくとしたら好きだからだけではすまされないの。
もっとデリケートな問題が出てくる。
私が造ってるのは、全年齢対象のゲームだから、そういったデリケートな部分を表現できない。
こんな私が、本当の意味で恋が出来るとは思えない」
なんとなく、なんとなくだけと、この演技には紗緒里の本音が含まれている気がした。
演じながらでも悩みをぶつけてきたんだ、紗緒里にとって深刻な問題なのだろう。
僕は、何か良いアドバイスがないか考えた。人生経験が浅く子供な僕だけれど、紗緒里の力になれないかと。
………
何も思いつかない。ただでさえ人生経験の浅い子供な僕に、不得手な恋愛相談だ。分が悪すぎる。
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