Night walker【ナイトウォーカー】

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#12

公開日時: 2022年1月28日(金) 17:32
文字数:1,077

 結局、この設定は僕の強い否定によって無効になり、紗緒里がゲームデザイナー、僕がホストの設定になった。

 

 お爺さんを演じる以上にホストの情報は少ない。それならお爺さんを演じられたのではと突っ込まないところが、考えが足りない証拠だ。

 

 僕達は、つたない演技で話し続けた。この遊びのいいところは、下手でも良いから役を演じること。

 

 演じているのだから、アドリブの演技として自然と嘘が多くなる。

 

 その嘘に対し、僕達は演技をしながら真剣に答える。

 

 嘘の悩みや不安、それが本当に嘘なのか、嘘の中に加えられた真実なのか分からないけれど、僕達は真剣に答える。

 

 以前、一度だけ宗教の悩みを打ち明けた。

 

 その時、僕は受験生の役をしており、自分の受験問題のせいで親が宗教に凝ってしまった設定にした。

 

 宗教にはまって抜け出せなくなっている。受験がうまくいっても、失敗しても、宗教を辞めるつもりがないらしいと。

 

 紗緒里は、こう答えた。

 

 人様に迷惑をかけないなら、いいんじゃない。

 

 この答えで、大分気が楽になった。働いて家を出られるようになるまで、お母さんの好きにさせてあげようと。

 

「時々、分からなくなるの」

 

 ゲームデザイナー 紗緒里が、立ち上がりフェンスを握りつぶやく。

 

 風景が見たいのか、僕の表情を見られたくないのかわからないが、視線はフェンス越しに町並みに注がれている。

 

「私は、本当の意味で恋が出来ないんじゃないかって」

 

 恋や愛の話題が出ると、口数が減ってしまう。

 

 なんせ、恋心を抱いたのは一度しかない。恋心を抱いただけで、女性と付き合った経験はゼロだ。

 

「私は、ゲームの中でたくさんの恋愛を演出してきたの。恋愛シミュレーションではなく、RPGで。

 

 戦いや旅を続けていく内に、友情が愛情に変わったり、初めから愛情があったりとか、恋の形は様々だけど、行き着く先はほとんどがハッピーエンド。

 

 その中でも、結婚が多い。

 

 それはそれで幸せだからいいんだけど、実際に結婚までいくとしたら好きだからだけではすまされないの。

 

 もっとデリケートな問題が出てくる。

 

 私が造ってるのは、全年齢対象のゲームだから、そういったデリケートな部分を表現できない。

 

 こんな私が、本当の意味で恋が出来るとは思えない」

 

 なんとなく、なんとなくだけと、この演技には紗緒里の本音が含まれている気がした。

 

 演じながらでも悩みをぶつけてきたんだ、紗緒里にとって深刻な問題なのだろう。

 

 僕は、何か良いアドバイスがないか考えた。人生経験が浅く子供な僕だけれど、紗緒里の力になれないかと。

 

 ………

 

 何も思いつかない。ただでさえ人生経験の浅い子供な僕に、不得手な恋愛相談だ。分が悪すぎる。

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