こんな体で、働けない僕に気を遣っているのだろう、兄さんは仕事の話を極力避ける。
それと同じように、学生時代の話をしてくれても、学校での話もしない。
体のコンプレックスから不登校だった僕への気遣いだ。
兄さんに恋人がいるのを知ったのだって、つい最近である。
明日香が兄さんに『悠希さん』と言っていたので、僕は散歩中に『悠希さんって誰?』と問いかけた。
すると兄さんは、言いづらそうに恋人だと教えてくれた。
恋人がいるのを隠していたのも、きっと気を遣っての配慮なのだろう。
そこまで、気を遣わなくてもいいのに。
兄さんが気を遣うほど、僕は人生に期待を持っていないのだから。
諦めている心が半分。自分の状況を受け入れ、この体なりに生きようという心が半分。
学校に行けなくても、働けなくても、恋人が出来なくても、幸せだと思えればそれでいい。
そう思いながら生きてきたけれど、幸せだと思える瞬間はほとんどなかった。
兄さんに恋人がいると分かった瞬間、少しだけ幸せな気分になり、その恋人と一緒に幸せになってほしいと思った。
僕は、散歩のたびに一度は悠希さんの話題を出すようにしているが、大した情報は得られていない。
この場合、僕に気を遣っているのではなく、ただ照れくさいだけのようだ。
悠希という恋人の存在を知ったのは、つい最近。そのうえ話をはぐらかされるので、ほとんど情報がない。
いったい、どんな人なのだろう? さっきの言い方からすると、同じ職場ではなさそうだ。
コンビニが見えてきた。
散歩中、何件かのコンビニを横切ったが、僕達は決まってこのコンビニに立ち寄っている。
特別優れているコンビニでも、このコンビニでしか売っていないものがあるわけでもない。
家から一番近いので、散歩の帰り道によるのにちょうどいいのだ。
買い物の荷物を持ち、散歩をする距離を縮めるのにもっとも適したコンビニ。それだけの理由でひいきにしている。
コンビニに入る。このコンビニは自動ドアではないので車椅子の僕を押しながらドアを開ける兄さんは少し苦労する。
前に一回、僕も協力しようとした。
その結果は、散々なものだった。かえって足を引っ張る形になってしまったのだ。
ただでさえ迷惑をかけているのに、さらに足を引っ張ってしまい、かなり落ち込んだものだ。
最近は、兄さんもこつを掴んできたらしく、店に入るのがスムーズになった。
店に入り、兄さんの習慣や決まったっコースなのだろう、見もしないのに雑誌コーナーを横切り、ドリンクコーナーに向かった。
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