Night walker【ナイトウォーカー】

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#14

公開日時: 2022年1月29日(土) 18:26
文字数:1,003

「うまくはいってないけど、深刻に悩むほど気まずい関係でもないから大丈夫」

 

「俺にとっては、その状態は大丈夫な状態ではないんだけど」

 

「兄さんのせいじゃないんだから、心配しないでよ。ただ、相性が悪いだけだから」

 

 僕は、嘘を吐いている。

 

 大好きで、尊敬している兄さんに嘘を吐いている。

 

 それが心苦しい。

 

「明日香も反抗期だから、情緒が不安定なんじゃない」

 

「なら、いいけど。俺に対しては、いつも機嫌がいいぞ」

 

「兄さんは仕事であまり明日香に会ってないじゃん。きっと、明日香は社会人である兄さんに、大人の魅力を感じてるんだよ。

 それに引き換え、僕とは年中顔を合わせてるから、うざいと思ってるだけ。

 典型的な女子中学生なんだよ」

 

 僕が十七で、明日香が十五。なおかつ下半身不随の頼りにならない兄貴。毛嫌いするのも無理はない。

 

 対照的に兄さんは、二十四歳の社会人であり、僕たちの頼れる親代わりだ。

 

 兄さんと比べられると、勝てる部分が一つも見つからない。

 

 だからと言って、兄さんを妬む心はない。純粋に尊敬しているから。

 

 気を遣ってくれたのだろう、それからは明日香の話題が出なかった。

 

 兄さんは、僕と明日香が不仲だと知っている。

 

 

 不仲なのを知った上で、明日香との関係を聞いてきた。

 

 このパターンと逆パターンはあるのだろうか?

 

 明日香に対し、僕とうまくいっているかを聞いたことがあるのだろうか?

 

 気になるけれど、聞けなかった。結果を知るのが怖いのではなく、話をぶり返したくないから。

 

「それより、兄さんこそ恋人さんとはどうなの? うまくいってる?」

 

「問題なし」

 

 兄さんは照れくさそうに断言した。

 

「せっかく休日に晴れたんだから、デートでもしたら? 僕だって、一日中家に引きこもってるわけじゃないんだから、休日のこの時間に散歩に出なくたって平気だよ」

 

「この散歩が終わったら、会う約束になってるんだ。だから、気ままに散歩を続けよう」

 

「早めに切り上げて、会いに行ってあげれば?」

 

「早めに行っても、向こうは仕事中だよ」

 

 今日は平日だ。兄さんが休みでも相手が仕事なのは仕方がない。

 

「休みが合わないんだ」

 

「向こうの休み次第だな。俺は固定されてるけど、向こうは週によって違うから」

 

 シフトというやつだろう。

 

 僕は、兄さんがどんな会社に勤めているのか知らなかった。

 

 アルバイトとかではなく、正社員として会社に勤めているのは知っている。

 

 その会社がどんな会社か詳しくは聞かされていないし、聞いていない。

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