現に、今日の運勢はいいはずだった。それがこの結果だ。
喉が渇いているけれど、冷蔵庫を開閉させる音も立てたくないので、そのまま自室に移動する。
隣の部屋がユウの部屋だ。自室に近付くに連れ、一層静かに動かないといけない。
造りはしっかりしているが意外と壁が薄く、音楽などをかけていると音が漏れやすい。少しでも大きな音を立てたら、ユウの耳に届くだろう。
部屋に近付くと、ユウと彼氏の話し声が聞こえた。
会話の内容までは聞き取れないが、口調や雰囲気は察しられる。
甘えた感じでいちゃついたりしないで、普通のトーンで落ち着き、楽しそうに話している。
その話し方は、二人の親密さと、付き合いの長さを表しているようだった。
幸い、ユウの部屋からテレビの音が聞こえたので、私はそんなに物音を気にしないで動けた。テレビがついているのなら、多少の音は気がつかないだろう。
部屋に入ると、テレビもつけず、音楽もかけずにベッドに倒れた。
疲れたな…
このまま眠ってしまおうと目を閉じると、まるでドラマか何かを見ているように、屋上でのやり取りが思い出された。
それはテープやDVDなどのメディアに録画されたものではなく、飽くまでも自分の記憶にあるもの。正確ではない。
あの時、私は幸介の表情を見ていなかった。いや、幸介がうつむいていたので見られなかった。
思い出される映像は正確ではなく、自分の想像が勝手に演出をしてしまっているところがある。
その演出の結果、見えなかった幸介の表情ははっきりと見て取れ、幸介は落ち込んだ表情をしていた。
きっと、私は望んでいるのだ。怒らないで欲しい、落ち込んでいてくれと。
怒る理由は、私に対し腹を立てているからだ。
落ち込んでいるとしたら、幸介は私と喧嘩をしたかったわけではないと考えられる。あの展開を一番望んでいなかったのは、幸介かもしれないのだ。
随分と自分勝手な演出だが、私はその演出を信じることにした。そしたら、少しは元気が出るような気がしたから。
時折、隣の部屋から話し声が聞こえる。内容までは聞き取れない、ヘッドホンから漏れる音声のように。
その声は次第に甘い声になっていき、あえぎ声に変わっていく。
なんだか、変な気分だ。明るく、屈託のない笑顔が印象的な妹が、隣の部屋で女性として男に抱かれているのだ。
ユウが裸になり、男に抱かれているなんて想像できないし、したくもない。
だが、現実なのだ。ユウは私が越えられなかった一線を越えてしまっているのだ。
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