Night walker【ナイトウォーカー】

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#26

公開日時: 2022年2月2日(水) 18:42
文字数:1,012

 現に、今日の運勢はいいはずだった。それがこの結果だ。

 

 喉が渇いているけれど、冷蔵庫を開閉させる音も立てたくないので、そのまま自室に移動する。

 

 隣の部屋がユウの部屋だ。自室に近付くに連れ、一層静かに動かないといけない。

 

 造りはしっかりしているが意外と壁が薄く、音楽などをかけていると音が漏れやすい。少しでも大きな音を立てたら、ユウの耳に届くだろう。

 

 部屋に近付くと、ユウと彼氏の話し声が聞こえた。

 

 会話の内容までは聞き取れないが、口調や雰囲気は察しられる。

 

 甘えた感じでいちゃついたりしないで、普通のトーンで落ち着き、楽しそうに話している。

 

 その話し方は、二人の親密さと、付き合いの長さを表しているようだった。

 

 幸い、ユウの部屋からテレビの音が聞こえたので、私はそんなに物音を気にしないで動けた。テレビがついているのなら、多少の音は気がつかないだろう。

 

 部屋に入ると、テレビもつけず、音楽もかけずにベッドに倒れた。

 

 疲れたな…

 

 このまま眠ってしまおうと目を閉じると、まるでドラマか何かを見ているように、屋上でのやり取りが思い出された。

 

 それはテープやDVDなどのメディアに録画されたものではなく、飽くまでも自分の記憶にあるもの。正確ではない。

 

 あの時、私は幸介の表情を見ていなかった。いや、幸介がうつむいていたので見られなかった。

 

 思い出される映像は正確ではなく、自分の想像が勝手に演出をしてしまっているところがある。

 

 その演出の結果、見えなかった幸介の表情ははっきりと見て取れ、幸介は落ち込んだ表情をしていた。

 

 きっと、私は望んでいるのだ。怒らないで欲しい、落ち込んでいてくれと。

 

 怒る理由は、私に対し腹を立てているからだ。

 

 落ち込んでいるとしたら、幸介は私と喧嘩をしたかったわけではないと考えられる。あの展開を一番望んでいなかったのは、幸介かもしれないのだ。

 

 随分と自分勝手な演出だが、私はその演出を信じることにした。そしたら、少しは元気が出るような気がしたから。

 

 時折、隣の部屋から話し声が聞こえる。内容までは聞き取れない、ヘッドホンから漏れる音声のように。

 

 その声は次第に甘い声になっていき、あえぎ声に変わっていく。

 

 なんだか、変な気分だ。明るく、屈託のない笑顔が印象的な妹が、隣の部屋で女性として男に抱かれているのだ。

 

 ユウが裸になり、男に抱かれているなんて想像できないし、したくもない。

 

 だが、現実なのだ。ユウは私が越えられなかった一線を越えてしまっているのだ。

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