Night walker【ナイトウォーカー】

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#20

公開日時: 2022年1月31日(月) 16:37
文字数:1,004

 私は振り返り、来た道を戻ろうと思った。

 

 その瞬間、背後から乾いた音が聞こえた。

 

 機械的なような音だけれど、そんな大層なものでもないような音。

 

 私の体は凍り付いていた。今は夏だ、もしかしてお化け?

 

 いや、仮にお化けというものが存在するとしたら、一年中、二十四時間存在しているはずだ。夏の夜というイメージがあるのは、暑い夜に怖い話をして涼しくなる為に作った定番なだけだ。

 

 て、駄目じゃん。この理論からいくと、夏の夜にお化けは出ない、ではなく、いつ出てもおかしくないという結果。今お化けが出てもおかしくないと後押ししてしまっている。

 

 カラカラと音がする。信じたくないけれど、音は近付いてくる。

 

 怖い、怖くて仕方がない。

 

 どうして怖いのだろう? お化けかもしれないからだ。

 

 じゃあ、どうしてお化けが怖いのだろう?

 

 私は、お化けは信じるけれど、呪いなどはあまり信じない。だとしたら、どうしてお化けが怖いんだ?

 

 得体が知れないからだ。

 

 得体が知れないものや、意味の分からないものに私は恐怖を感じるんだ。

 

 だから、宇宙も怖い。宇宙って何なのだろうと考えると、地球って何なのだろう、人間って何なのだろう、生き物って何なのだろうと考えてしまい不安が募っていく。

 

 意味の分からない宇宙に恐怖し、意味の分からない不安が募る悪循環。私自身、何に不安を覚えているのか分からないので、不安を解消する術を見出せないのだ。

 

 それに、算数の授業も怖かった。掛け算、割り算までは良かったが、それ以上になるとまったく意味が分からず、算数、後に数学の授業が怖くて仕方なかった。

 

 まぁ、この場合の恐怖は現実的で、ただ嫌で、苦手だから憂鬱だっただけだ。

 

 私は勇気を振り絞り、振り向いた。

 

 このまま怯え続けるほうが、何倍も過酷だと判断したから。

 

 振り向くと、その音の正体はすぐ傍までやってきていた。

 

 車椅子だ。

 

 車椅子だけだと怖いが、その車椅子にはきちんと人が乗っている。

 

 私より少し年下っぽい、あどけなさが残る少年だ。

 

 これは飽くまで私の見た目の判断で、もしかしたら年上かもしれない。

 

 見た感じが大人しそうで、気弱そうだから年下に見えているだけかもしれない。

 

 音の正体を確かめると、安堵の息が漏れた。

 

 なんだ、恐れる必要なんてなかったんだ。

 

 振り返った私が帰るために歩き出すと、車椅子の少年は軽く驚いたらしく、手がビクッと動いた。

 

 私が必要以上に警戒してしまったので、相手に緊張感が伝染してしまったのだろうか。

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