かまわず歩を進める。少年も最初に驚いただけで、それ以外変わった動きを見せなかった。
[Night- walker]
同じ風景なのに、今はまったく違って見える。
それは長い年月が過ぎるよりも、数時間過ぎただけのほうが大きい。
仮に一年後、兄さんと同じ時間に散歩したとしても、周りの風景は大して変わっていないだろう。
しかし、兄さんと散歩して数時間しか経っていない今、街の風景は様変わりしている。
子供達が行きかっていた住宅街は、シンと静まり家からは光が漏れている。
少数だけれど人が行きかっていた商店街も、全ての店がシャッターを閉め、静まり返っている。
この商店街にはコンビニも、飲み屋もないので本当に全ての店が閉まっている。
商店街から少し離れ駅付近に行くと、コンビニと居酒屋がある。
その近辺は夜でも多少賑わうので、僕は近付かないようにしている。
僕は、この静まり返った商店街を散歩するのが好きだ。
まるでゴーストタウンのような街を歩いていると、無性にその光景を描きたくなる。
本当は、描きたいモチーフの前でじっくりと絵を描きたいが、それをやってしまったら怪しすぎるので、ノートにシャーペンで雑に下書きをする程度にとどめている。
絵を書くのに、今が一番良い季節だ。寒いと手がかじかみうまくいかず、暑いと汗を掻いてうまくいかない。
日中は汗が滲むほど暑いが、夜になると過ごしやすく絵が描きやすい。
僕が描く絵は、電線だ。
電線だけを描くのではなく、建物を描く時に必ず電線を描き、建物、電線、空の三つを描く。
傍から見ると、電線は他の絵を引き立たせるオプションのように見えるだろう。でも僕にとっては逆なのだ。電線を引き立たせる為の建物であり空である。
一番気に入っている電線は、外灯の近くで、うっすらと光に照らされている電線。
外灯から遠ざかるに連れ、闇に包まれていくのに魅力を感じる。
僕は、この一週間書き続けているスポットに移動すると、早速続きに取り掛かった。
地面に目を移すと、昨日は落ちていなかったゴミが落ちていたり、物の配置が変わっていたりと、一日だけでも目で分かる変化があるが、少し視線を上げると、大して変わりはない。
一日で変わるとしたら、雲の流れや天気ぐらい。
この辺りは全て商店なので、電気が点いている時と点いていない時の違いもない。
視線を上げ風景が変わっている時は、それは少し変わるのではなく、大分変わる時だろう。看板が取り外されたり、看板の模様を変えてみたりと。
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