「だって、私はもう二十歳だよ。文字通り子供じゃないんだから」
「大人なら、昼でも外に出ればいいじゃん」
言った後に、すぐ後悔した。
僕は何を言ってるんだ。紗緒里だって外に出るのが嫌で、家と屋上だけを行動範囲にしているわけではない。
外に出られないのだ。
「分かってないなー 大人のほうが、ひきこもりになりやすいんだよ」
紗緒里は、努めて明るく胸を張る。
事情は知らないけれど、ひきこもっているのだから心に重い傷があるのだろう。
それを悟られまいと、明るくしているんだ.僕に出来るのは無理に明るくしているのに気づかず、話を進めることぐらいである。
「寝静まった頃に散歩するって、何時ごろにするの?」
「三時か、四時ごろ」
「そんな時間まで起きてるんだ」
「あっ! 肝心の私が寝てる」
「駄目じゃん」
「駄目だね」
肯定するか…
「晩御飯の後、すぐに仮眠をとって、散歩に備えよう」
「それなら、散歩しないほうが良いよ」
「なんで? 歩いたほうが良いって言ったじゃん」
「それ以上に、食べてすぐ寝るのは良くないの」
「大丈夫、私にだってそれぐらいの知識はあるわ。夜九時以降に食べないようにすればいいんでしょ」
「知識が偏ってる」
「えっ、そうなの?」
「夜に食べたら太るって言うのみあるけど、それと同時に夜九時以降に食べないダイエットをしてる人は、大概十二時とかまで起きてるタイプなの。そうすると、食べてから三時間は寝ないことになって、太りづらくなるって言われてるよ」
「じゃあ、私駄目じゃん。食べたらすぐに転がって本読んでるよ」
「転がってるだけなら、そんなに太らないよ。体が起きてるから。眠ってしまったら、胃の働きが落ちて消化能力も落ちるんだって」
「へー と感心してしまうよ」
「僕も、全部受け売りだから自信を持っては言えないけど、食べてすぐ寝たら牛になるって言葉もあるぐらいだから、信憑性は高いと思う」
「幸介、ちょっと年寄りくさい」
「悪かったね」
「その返答が、若々しくないの。悪かったね、じゃなくて、悪かったな、とかにした方が良いよ」
「はいはい」
「その落ち着いた受け流しも、ジジくさい」
年寄りから、爺になった。褒められないランクアップだ。
「幸介は、何時に寝るの?」
「八時」
「八時! じゃあ、何時ぐらいに起きてるの?」
「四時」
「マジで! 朝の四時?」
「夕方の四時だったら、二十時間寝てることになるし、この時間だって寝てないといけないよ」
「そっか…幸介はジジくさいじゃなくて、爺だね」
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