Night walker【ナイトウォーカー】

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#27

公開日時: 2022年2月2日(水) 18:46
文字数:1,014

 一線を越えたユウは、女としてのステップを一段上げ、一線を越えられなかった私は、男性に恐怖を覚え、引きこもってしまった。

あの時、勇気を出して彼に抱かれていたら、私はどんな人生を送っていたのだろう。

 

 彼と別れずに、今も付き合いが続いていたかもしれない。

 

 ユウのあえぎ声が大きくなっていく。

 

 家には自分達以外いないと思っているので、遠慮がない。

 

 私は、目を閉じずに耳だけをふさいだ。目を閉じると、男に抱かれるユウの姿を想像してしまいそうで怖いのだ。

 

 何をやってるんだろう? 私。幸介を子供だと罵っておきながら、妹の成長を受け入れられないなんて。

 

 私のほうが、お子様である。

 

 ユウは、私のIfなのかもしれない。

 

 恋人を受け入れた人生と、恋人を拒絶した人生。

 

 ならば、私の判断は間違いだったのだろう。

 

 こんなにも惨めで、自暴自棄になってしまっているのだから。

 

 私はユウが大好きだ、大好きで、大好きで、憧れていてもして、時々憎んでしまう。

 

 [Night- walker]

 

 休日恒例の散歩から帰ってくると、玄関には明日香の靴があった。

 

 夏休みになり毎日夕方まで外に出ていただけに、それは珍しいことだった。

 

 しかし、珍しいと思ったのは僕だけで、兄さんはなんとも思っていない。

 

 毎日仕事でこの時間に居ないのだから、当たり前か。

 

 居間に移動すると、絵を描くためにパソコンを起動させた。

 

 兄さんは、少し離れた所に座り本を読んでいる。

 

 今日は恋人の悠希さんと休みが合わなかったらしく、デートの予定はないらしい。

 

 兄さんが同じ空間に居てくれると心強かった。兄さんが傍に居れば、明日香の表情が険しくなる恐れがない。

 

 絵を描くのに集中できる。

 

 とても穏やかな午後だ。家の中で、こんなにゆとりがあるのは久しぶりだ。

 

 明日香が階段を下りる音がしても、怯えないで済むのだから。

 

 このゆとりのおかげで絵に集中できたのだろう、時間を忘れ絵を描き続けた。

 

 結果、後一週間は掛かると思っていた絵が、完成した。

 

 陽は傾き、夕方になっている。

 

「さて、そろそろ飯でも作るか」

 

 と、兄さんが立ち上がった。

 

 集中していて気がつかなかったが、確かにお腹が空いてきた。

 

 腕まくりをして、兄さんがキッチンに向かう。

 

 いつの間にか、Tシャツは外行きようのものではなく、エプロン代わりであるラフなものになっていた。

 

「今日は何?」

 

「スパゲッティー」

 

 これからお米を磨ぎ、炊いているのでは時間が掛かるなと思っていたので、スパゲッティーと聞いた途端にお腹が鳴った。

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