一線を越えたユウは、女としてのステップを一段上げ、一線を越えられなかった私は、男性に恐怖を覚え、引きこもってしまった。
あの時、勇気を出して彼に抱かれていたら、私はどんな人生を送っていたのだろう。
彼と別れずに、今も付き合いが続いていたかもしれない。
ユウのあえぎ声が大きくなっていく。
家には自分達以外いないと思っているので、遠慮がない。
私は、目を閉じずに耳だけをふさいだ。目を閉じると、男に抱かれるユウの姿を想像してしまいそうで怖いのだ。
何をやってるんだろう? 私。幸介を子供だと罵っておきながら、妹の成長を受け入れられないなんて。
私のほうが、お子様である。
ユウは、私のIfなのかもしれない。
恋人を受け入れた人生と、恋人を拒絶した人生。
ならば、私の判断は間違いだったのだろう。
こんなにも惨めで、自暴自棄になってしまっているのだから。
私はユウが大好きだ、大好きで、大好きで、憧れていてもして、時々憎んでしまう。
[Night- walker]
休日恒例の散歩から帰ってくると、玄関には明日香の靴があった。
夏休みになり毎日夕方まで外に出ていただけに、それは珍しいことだった。
しかし、珍しいと思ったのは僕だけで、兄さんはなんとも思っていない。
毎日仕事でこの時間に居ないのだから、当たり前か。
居間に移動すると、絵を描くためにパソコンを起動させた。
兄さんは、少し離れた所に座り本を読んでいる。
今日は恋人の悠希さんと休みが合わなかったらしく、デートの予定はないらしい。
兄さんが同じ空間に居てくれると心強かった。兄さんが傍に居れば、明日香の表情が険しくなる恐れがない。
絵を描くのに集中できる。
とても穏やかな午後だ。家の中で、こんなにゆとりがあるのは久しぶりだ。
明日香が階段を下りる音がしても、怯えないで済むのだから。
このゆとりのおかげで絵に集中できたのだろう、時間を忘れ絵を描き続けた。
結果、後一週間は掛かると思っていた絵が、完成した。
陽は傾き、夕方になっている。
「さて、そろそろ飯でも作るか」
と、兄さんが立ち上がった。
集中していて気がつかなかったが、確かにお腹が空いてきた。
腕まくりをして、兄さんがキッチンに向かう。
いつの間にか、Tシャツは外行きようのものではなく、エプロン代わりであるラフなものになっていた。
「今日は何?」
「スパゲッティー」
これからお米を磨ぎ、炊いているのでは時間が掛かるなと思っていたので、スパゲッティーと聞いた途端にお腹が鳴った。
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