ある日、俺は殺し屋になった。

佐々木祐
佐々木祐

四話

公開日時: 2023年8月13日(日) 08:00
文字数:1,550

 知らない天井を見て目覚めて、目の前には左の頬に大きな火傷を負った女──久世くぜ 千佳ちか


 そしてチェスカーズブロヨフカを持ったトライバルタトゥーの男──佐野さの 純也じゅんやが居るここは、まるでモデルルームのように綺麗でオシャレだ。


 だが俺たちが居るリビングには、向かい合ったソファーが2つ、間に長テーブル、そしてテレビラックに乗った巨大なテレビだけの、シンプルな一角。


「あの……二人はいったい?」


 俺の素朴な疑問に、空気が一瞬ピリついたのを感じた。


「え~と、ユキちゃ……隊長にはもう会ってるんだよね? じゃあ私たちの事、分かるんじゃない?」


「……殺し屋なのか?」


「う~ん……ちょっと違うかなぁ? 殺しはあくまで手段、みたいな感じかな。要人警護、捜索、追跡調査、暗殺、何でも屋みたいな組織・・があって、私たちはそのエージェント! って思ってくれればいいよ」


 エージェント……なんかハリウッド映画に出てきそうな設定だな。


 ってことは昨日、おっさんを殺した日本刀の女も、コイツらと同じエージェントってことか。


「じゃあココは、エージェント達の隠れ家ってとこか?」


「ううん、ここはただの家だよ。家主は居ないけどね」


 さっきから火傷の女久世としか話して無いが、タトゥーの男佐野は隣でデカイ欠伸をしているだけだ。


「ふぁ~くだらねぇ話は良いからよ。酒くれよチカ」


「えぇ~まだ仕事中だよ? それにユキちゃんは未成年だからお酒飲ま無いし」


 お前らも未成年だろ……ってツッコミは心の奥に仕舞い込んだ。


「もう飽きたぜ。コイツくらいなら、逃げてもすぐに殺せるだろ」


 そう言ってソファーから立ち上がり、テレビのスイッチを押すとクリーム色のカーテンが敷かれた窓辺に立つ。


 テレビからは小さな音でニュース番組が放送されており、クリーム色のカーテンを開けると、射し込んできた西日に思わず目を覆った。


 夕方ってことは昨日の夜からずっと寝ていたのか。


「あっ、ちなみに恭一きょういちくんは、二日間寝てたよ?」


 久世コイツエスパーか?


「エスパーじゃないよ? ただの読心術~えへへ」


 読心術にしては鋭すぎるだろ。などと思いつつ、ふとテレビへと視線を映すが七浜のの字も無い。


「一昨日の件なら報道されたよ。昨日の夕方のニュースで簡単に触れられて、特にネットなんかも騒がなかったんだぁ」


「俺は何も聞いてないが、それも読心術ってやつか?」


「えへへ~恭一くんは特に顔に出やすいんだよ」


 そう言われて俺はマグカップに入った生姜湯を啜り、喉を潤すと同時に表情を悟られないように思案した。


 二人とも随分と緩いが、相手は拳銃も持ってるし、恐らく荒事に慣れているようだし。仮に喧嘩経験、皆無の俺が佐野に殴り掛かっても返り討ちに合うだろう……シャクだが。


 もう1つ、テーブルに置かれた拳銃を使って、久世を人質にここから逃げる事だが、拳銃は久世に近い。


 それにこのテーブルから窓辺ってかなり近い、二~三歩の距離だ。久世を拘束する前に、佐野が邪魔するに決まってる。


「拳銃を使って、私を人質にして逃げようって考えてるなら、やめた方がいいよ?」


「ごほっ!!  げほっごほ……」


 唐突に図星をつかれ、生姜湯が気管に入ってしまい咳き込んでしまった。


「だ、大丈夫!?」


 久世が咄嗟に俺の背中を擦りながら、耳元に生暖かい吐息を吹き掛けてきた。


「ふぅ~警戒させたくなかったから、見せなかったけど──」


 そう言って久世は服の袖口少し捲ると、ためらい傷だらけの手首を見せ、腕に取り付けられた器具から伸びる細いワイヤーを引いた。


 カシャッと駆動音を立てて、手の平に出てきたのは縦列二連のポケットピストル──デリンジャーだ。


「──私も拳銃持ってるからね♪」


 耳元に掛けられた吐息のせいか、目の前で見せつけられた拳銃のせいか。


 擦られている背中を伝う冷たい汗と、いくら飲んでも口の中が乾いてしまう。

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