知らない天井を見て目覚めて、目の前には左の頬に大きな火傷を負った女──久世 千佳。
そしてチェスカーズブロヨフカを持ったトライバルタトゥーの男──佐野 純也が居るここは、まるでモデルルームのように綺麗でオシャレだ。
だが俺たちが居るリビングには、向かい合ったソファーが2つ、間に長テーブル、そしてテレビラックに乗った巨大なテレビだけの、シンプルな一角。
「あの……二人はいったい?」
俺の素朴な疑問に、空気が一瞬ピリついたのを感じた。
「え~と、ユキちゃ……隊長にはもう会ってるんだよね? じゃあ私たちの事、分かるんじゃない?」
「……殺し屋なのか?」
「う~ん……ちょっと違うかなぁ? 殺しはあくまで手段、みたいな感じかな。要人警護、捜索、追跡調査、暗殺、何でも屋みたいな組織があって、私たちはそのエージェント! って思ってくれればいいよ」
エージェント……なんかハリウッド映画に出てきそうな設定だな。
ってことは昨日、おっさんを殺した日本刀の女も、コイツらと同じエージェントってことか。
「じゃあココは、エージェント達の隠れ家ってとこか?」
「ううん、ここはただの家だよ。家主は居ないけどね」
さっきから火傷の女としか話して無いが、タトゥーの男は隣でデカイ欠伸をしているだけだ。
「ふぁ~くだらねぇ話は良いからよ。酒くれよチカ」
「えぇ~まだ仕事中だよ? それにユキちゃんは未成年だからお酒飲ま無いし」
お前らも未成年だろ……ってツッコミは心の奥に仕舞い込んだ。
「もう飽きたぜ。コイツくらいなら、逃げてもすぐに殺せるだろ」
そう言ってソファーから立ち上がり、テレビのスイッチを押すとクリーム色のカーテンが敷かれた窓辺に立つ。
テレビからは小さな音でニュース番組が放送されており、クリーム色のカーテンを開けると、射し込んできた西日に思わず目を覆った。
夕方ってことは昨日の夜からずっと寝ていたのか。
「あっ、ちなみに恭一くんは、二日間寝てたよ?」
久世エスパーか?
「エスパーじゃないよ? ただの読心術~えへへ」
読心術にしては鋭すぎるだろ。などと思いつつ、ふとテレビへと視線を映すが七浜のなの字も無い。
「一昨日の件なら報道されたよ。昨日の夕方のニュースで簡単に触れられて、特にネットなんかも騒がなかったんだぁ」
「俺は何も聞いてないが、それも読心術ってやつか?」
「えへへ~恭一くんは特に顔に出やすいんだよ」
そう言われて俺はマグカップに入った生姜湯を啜り、喉を潤すと同時に表情を悟られないように思案した。
二人とも随分と緩いが、相手は拳銃も持ってるし、恐らく荒事に慣れているようだし。仮に喧嘩経験、皆無の俺が佐野に殴り掛かっても返り討ちに合うだろう……シャクだが。
もう1つ、テーブルに置かれた拳銃を使って、久世を人質にここから逃げる事だが、拳銃は久世に近い。
それにこのテーブルから窓辺ってかなり近い、二~三歩の距離だ。久世を拘束する前に、佐野が邪魔するに決まってる。
「拳銃を使って、私を人質にして逃げようって考えてるなら、やめた方がいいよ?」
「ごほっ!! げほっごほ……」
唐突に図星をつかれ、生姜湯が気管に入ってしまい咳き込んでしまった。
「だ、大丈夫!?」
久世が咄嗟に俺の背中を擦りながら、耳元に生暖かい吐息を吹き掛けてきた。
「ふぅ~警戒させたくなかったから、見せなかったけど──」
そう言って久世は服の袖口少し捲ると、ためらい傷だらけの手首を見せ、腕に取り付けられた器具から伸びる細いワイヤーを引いた。
カシャッと駆動音を立てて、手の平に出てきたのは縦列二連のポケットピストル──デリンジャーだ。
「──私も拳銃持ってるからね♪」
耳元に掛けられた吐息のせいか、目の前で見せつけられた拳銃のせいか。
擦られている背中を伝う冷たい汗と、いくら飲んでも口の中が乾いてしまう。
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