男の動きが、わずかに止まったように見えた。
微かな変化だった。
ほんの少し、指と指が触れるくらいの。
ドッ
交錯した体の中心から、泡ぶく雫の音が聴こえる。
深くて、それでいて…
ほんのわずかな「間」はあった。
針が通るくらいの隙間で。
“動きが止まった”と言えるほどの確かさはなかった。
ただ、“くっきり”とはしていた。
まっすぐ何かが通り抜ける。
そんな明瞭さを伴いながら、時間が前に倒れていた。
目で追えるほどのスピードじゃなかった。
少なくとも、そう見えたんだ。
男が振り翳したナイフが、しおりの頬を掠める時に。
「…クッ」
男は顔を顰めていた。
マスク越しでもわかった。
苦しそうに後ずさりながら、胸を押さえていた。
優位なのは男の方だった。
状況的にも、体勢的にも。
突然現れたしおりに対して、少しだけ驚くような素振りはあった。
ただ、それでもすぐに持ち直していた。
ナイフを持つ手が掴まれた後も、動揺する素振りさえ見せず。
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