ハアッハアッ
とにかく、逃げろ…ッ!
頭の中に占めていた感情は、ほとんど本能に近いものだった。
なんで男がいたのか、なんで、ナイフを持ってたのか。
いちいち考える時間はなかった。
玄関を飛び出て、外へ——
クソッ
思い当たる節はなかった。
ただの不法侵入者だとは思うが、じゃあなんで追ってきてる!??
後ろを振り返ると、その男が追ってきてた。
ここら辺は見晴らしがいい場所だった。
田んぼや雑木林が広い土地の中に横たわっている。
状況が状況だけに、広い場所が仇になっていた。
逃げ場がない
そう思ったのも束の間だった。
石ころか何かに躓き、転んでしまった。
「ハアッハアッ…」
立ち上がる気力がなかったわけじゃない。
地面に転げ落ちた時、まだ走れる余力はあった。
思うように体が動かなかったのは、多分焦ってたからだ。
焦りすぎて酸欠になってた。
目の前がクラクラして、視線は覚束なくて…
這いずるように腕を動かしながら、自由の利かない足を動かそうとした。
でもダメだった。
近づいてくる気配を感じて、バッと振り向いた。
男はすぐ目の前にいた。
ナイフの刃をこっちに向け、ゆったりとした足取りで。
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