あの日、俺は告白しようと思ってた。
結局できずじまいだったけど、「チャンスだ」って思ってた。
自分でもよくわからなかった。
いつから、しおりのことが好きだったのか。
なんで、告白しようと思ったのか。
当時、本当は怖かったんだ。
上京するって聞いた時、もしかしたら、もう会えないかもしれないって思ってた。
それに、まさか誘われるなんて思いもしなかった。
…そりゃ、驚いたさ。
中3の頃はクラスも違ったし、お互い、部活とか勉強とかで忙しかったし。
彼女が俺を誘ったのは、“しばらく帰って来れないから”って。
少しでも、思い出を残しておきたいから…って。
俺の他に、ミズキも誘われてた。
ミズキっていうのは俺の親友で、幼馴染。
しおりと同じく、子供の頃から一緒だった。
しおりがプロのピアニストになりたいっていうことは、昔から知ってた。
コンテストにも何回か行ったし、コンクールにだって、応援しに行った。
俺やミズキにとっての自慢だった。
彼女は。
だって、プロが注目するほどの逸材だったんだ。
大観衆の前でも動じずに、涼しい顔でピアノの前に座ってた。
いつも内気な彼女が、ピアノの前では、別人のように変わって——
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