漫画世界の主人公になった俺は、読者アンケート1位を目指してデスゲーム・ラブコメを攻略する

ここは『ラブコメ』しなければ『死ぬ』世界――
上村夏樹
上村夏樹

2章 ニセ恋しよっ? ~フェイク・ゆあ・ラブ~

4話 助けた幼なじみが可愛すぎる

公開日時: 2020年9月13日(日) 20:04
更新日時: 2020年11月10日(火) 01:03
文字数:2,202

 翌日の放課後。


 昨日は最果から数多くの『設定』を聞かされたが、正直すべて理解できた気がしない。


「細かい『設定』はひとまず置いといて、行動指針は決めておかないとな……」


 スマホのメモ機能を使って、俺のやるべきことを整理してみた。


 まずはこの世界について軽くおさらいしておく。


 週刊少年ワンダーに連載中の『僕ラブ』の主人公は何故か俺だった。


 この世界は漫画世界とリンクしていて、この世界で起きた俺の身の回りの出来事が漫画に反映される(ただし例外あり)。


 ちなみに、例のカラオケに行ったのは『十日前』。この世界の出来事が雑誌に載るには、それくらいかかるようだ。


 次に問題点。


 週刊少年ワンダーには読者アンケートが存在する。アンケートで最下位になると打ち切りになるのだが、その場合、漫画世界とリンクしているこの世界も消滅することになる。


 この打ち切りデッドエンドを回避する方法は一つ。読者アンケートで一位を取ることだ。


 なお、最果の話では読者アンケート結果は翌週にはすでに反映される仕様らしい。現実世界ではありえないことだが、この世界で常識など通用しないのは身をもって体験している。


 最後に俺のやること。読者アンケート一位を目指す。これに尽きる。


 そのためには、学園ラブコメを起こして『僕ラブ』のストーリーを盛り上げないといけないのだが……。


「はぁぁぁ……どうすればいいんだよぉぉぉ……」


 俺は学校の下駄箱で盛大に嘆息した。


 昨晩、かつて読書で経験したラブコメ展開を思いつく限り書き出してみた。


 しかし、出てきたネタは現実では起こりえないことばかり。可愛いサキュバスが主人公と同棲するとか、好きになった女の子が実は対宇宙人専用戦闘兵器だったとか。『僕ラブ』の世界観をぶち壊すヒロインばかり思いつく。正直、お手上げだ。


「ひとまず本屋でラブコメ漫画を探してみるか……」


 ファンタジーやSF、バトル要素の設定の入るラブコメは無理だ。俺でも起こせそうなラブコメを研究してみよう。


 結愛は家の用事があるらしく、今日は一人で先に帰った。本屋に寄るには身軽でちょうどいい。


 帰り道、商店街を歩いていると、本屋の近くで男女の声が聞こえてきた。


「いいじゃん。おねーちゃん、俺たちと遊ぼうぜ?」


「い、嫌です。離してください」


「怖がらないでよ。楽しいコトしよう? ね?」


 会話の内容でわかる。典型的なナンパだ。


 声のしたほうに視線を向ける。ナンパされている少女のアホ毛がひょこひょこと揺れていた。


「って、結愛じゃんか!」


 結愛は泣きそうな顔で「やめて」「離して」と言うが、ナンパ男たちは聞いちゃいない。結愛の細い腕を掴み、じわじわと路地裏に引き込もうとしている。


 あの狭い道を抜けると駐車場があったはずだ。ナンパ男たちが車を停めていたら、結愛は誘拐されてしまう。


 気づけば体が勝手に動いていた。


 考えもナシに、一人の男の腕を掴む。


「おい。俺の彼女に何か用かよ」


 もちろん、結愛は俺の彼女なんかじゃない。咄嗟に思いついた嘘だった。


「ちっ。んだよ、彼氏持ちか」


 ナンパ男たちは結愛を解放し、舌打ちをして去っていく。


 俺は安堵のため息をついた。


「ほっ……あきらめの早いヤツでよかったぁ。結愛、怪我してない――ってうわっ!」


「うわぁぁぁん! 怖かったよぉぉぉ!」


 結愛は俺に飛びつき、ぎゅっと抱きしめてきた。彼女の小さな身体は震えている。


 ……よほど怖い思いをしたんだな。かわいそうに。


 優しく声をかけようとしたが、自分の置かれている状況に気づき、おもわず顔が熱くなる。


「お、おい結愛! わかったから離れろ!」


 引き離そうとしても、結愛は俺を離さなかった。


 ここは人通りのある商店街だ。周囲の生温かい視線が気になるというのもある。


 だが、それ以上にヤバいのは結愛のおっぱいだ。


 結愛は何気に胸がデカい。同世代の女子よりも発育がいいのだ。


 そんな彼女に密着されたらどうなる?


 そうだ、おっぱいがむにゅっと押しつけられる。つまり今、俺は結愛の大きくて柔らかいおっぱいをいっぱい感じている……って、おっぱいいっぱい感じている場合か!


「結愛。その……胸が当たってるんだけど」


「ふえっ?」


 結愛はしばらく硬直した後、慌てて俺から飛び退いた。彼女の頬はほんのり赤く染まっている。


「修也のばかぁ! えっち! おっぱい幕僚長!」


「誰がおっぱい幕僚長だ! そもそも結愛が抱きついてきたんじゃないか!」


「そうやって言い訳しながら、私の胸を舐めるように見ないでよ!」


「いや見てねぇけど!?」


 大声で変態呼ばわりはやめろ。通行人、めっちゃこっち見ているじゃないか。


「まったく……そんなことより怪我はないか?」


「うん……だいじょぶ、です……」


 結愛は急にもじもじし始めた。


「何? トイレ?」


「違うよ。その……助けてくれてありがと。さっきの修也、かっこよかった……」


「えっ?」


「な、なーんてね! 一緒に帰ろ? 家まで送ってよ」


 結愛は照れくさそうに笑った。まるで漫画のヒロインのような可愛らしい笑顔におもわず見惚れてしまう。


 幼なじみに「かっこいい」って言われて、こんなにドキッとするとは思わなかった。


「修也? どうかした?」


 結愛は不思議そうに首を傾げた。アホ毛がはてなマークに形を変えている。だからそのアホ毛、どういう仕組みで動いているんだよ。触手かよ。


「いや、なんでもないよ。ほら、行こう」


「うん!」


 俺と結愛は並んで歩いた。


 結局、この日は本屋に行くことはできなかった。

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