スタスタと前を歩く彼女に連れられ、たどり着いたのは6階建てのビルだった。
築30年は経っているであろう古びた面構えと、平凡な骨格。
ところどころ壁は割れてて、黒ずんだシミがコンクリートの奥にまで入り込んでた。
オフィスビルにしては少しやつれている。
かと言って、マンションとかとは少し違う。
それは入り口を見た時に思った。
マンションのエントランスといえば、ロッカーだったりセキュリティーロックだったり。
エレベーターだって完備されてる。
なのに、この“ビル”はなにも無い。
なにも無いっていうと語弊があるかもしれない。
入り口のドアは開閉式で、重たい金属の取っ手が、ガラスでできた扉の重厚感を彩っている。
ドアは両開きになってた。
左右には柱が立ってて、外回りの壁伝いには、蛇のような排気ダクトが張り巡らされていた。
タイル調の壁の素材は、網目のようにきめ細かい。
入り口の向こうには、無機質なコンクリートの壁と廊下が薄暗い照明の下に佇んでいた。
白い蛍光灯が、背の低い天井の下で所狭しと並んでいる。
階段だ。
入ってすぐ、それが視界に入った。
10メートルほどの廊下の向こうに、2階へと続く回り階段が、ひっそりとした空間を囲うように続いていた。
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