「とりあえず解いてくれ…ッ。めっちゃ痛くて…」
「ダメだって」
「??…なんで…?」
「縛ったのは私だから」
………………………………はい?
縛ったのは私?
って、どういうこと??
こんな時に冗談言ってる場合じゃないって。
いくら天ヶ瀬でも笑えない。
やばい状況だってわかるだろ??
さっきだってそうだ。
脅されてたじゃないか
どこに行ったのか知んないけど、また戻ってくる可能性だってあるだろ?!
今のうちに逃げるのが得策だって!
だから、、、
焦る俺を横目に、彼女はポケットからある「物」を取り出した。
見覚えのあるものだ。
赤く染まってて、日常的には見かけないものだった。
見た瞬間にそれが、俺のすぐ目の前にあったものだって気づいた。
男が持ってたもの。
俺の胸を、貫いた“ナイフ”。
…………………………は?
…なんで、彼女が…?
つーか、どうやって??
「それ…」
「覚えてる?刺されたこと」
コクコクッと頷く。
覚えてる。
——鮮明に。
信じたくはなかった。
思い出そうとすると、全身から力が抜けた。
血の気が引くような感じだった。
どうしようもないくらいの悪寒が、背筋に張り付いていた。
だって、…そうだろ?
ナイフで刺されるなんて、そうそう起こることじゃない。
ましてや、その「大きさ」だ。
彼女の手にあるナイフは、サバイバルナイフかっていうくらいでかい。
深く刺さったんだとわかるような、血の跡。
多分心臓に届いてた。
…いや、わかんないよ?
ぶっちゃけ刺さった後のことは混乱してて、覚えてることと覚えてないことの差が激しい。
思うように動けなくなって、周りの景色が雪崩みたいに崩れてきたんだ。
わけがわかんなかった。
「キミは死んだんだよ。ついさっきね」
……………………………
……………………………死んだ?
……………………………誰が?
彼女の目は冷たく、言葉は“冷めて”いた。
いつもの彼女とは違う。
どこか、そんな気さえして、不意に視線がよろめく。
でも、それどころじゃなかった。
頭の中ではわかってた。
“何かがおかしい”って。
ただ、突拍子もない彼女の言葉に、俺は意識を奪われてた。
それ以外のことはさっぱりだった。
少なくとも、目の前で起こってることの「大半」は。
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