…け、警察
こういう時は、すぐに警察を呼んだほうがいい。
咄嗟に思ったが、体は固まったままだった。
…なんで?
身を乗り出すように男は叫んでいる。
店員は困ってた。
そりゃそうだ。
見る感じ華奢な女の子が、自分よりも二回り以上大きい男に脅されてるんだ。
困るとかっていうレベルじゃない。
俺が店員だったら、多分卒倒する。
どうすればいい…?
このまま見過ごすわけにもいかなかった。
かと言って、体は震えたままだった。
我ながら情けなかった。
こういう時、アイツだったら止めに入る。
絶対、逃げ出したりなんかはしない。
でも俺は、そんなに強い人間じゃない。
喧嘩だってしないし、人を殴ったこともない。
…見ろよ?
震えてんだぞ?
何かができる気はしなかった。
一瞬でも、“向かっていこう“って気持ちは芽生えなかった。
訳もわからないまま時間は過ぎた。
そんな中だ。
男が、ナイフを手に持ったのは。
「さっさと出せ!」
そっからの記憶は、いまいち残ってない。
女の子の顔ほどもある大きな刃物が目に映った時、最悪の未来が、頭によぎった。
怖いとか震えてるとか、そんなの言ってる場合じゃない。
無我夢中だった。
考えてる余裕はなかった。
女の子を助けようと思った訳じゃなかった。
正直、後先のことは考えてなかった。
ガッ
男の肩を掴んで、意識をこっちに向けようとした。
注意をそらせれば、きっと…
女の子の顔を見た。
彼女に向かって、俺は何かを叫んだ。
なんて言ったのかまでは覚えてなかった。
やばい。
きっと、そんな感覚だった。
無意識のうちに手を伸ばした時の、——感情は。
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