「キミは“死んで”る。それはもう理解できた?」
…え?
理解できたか…って?
できるわけないだろ。
俺は気が気じゃなかった。
ほとんどパニックだった。
どうして傷が塞がってるかも、なんで痛みが消えているのかも、——全部。
“普通じゃない”ことが起きてる。
あのおっさんを見てからずっとそうだった。
『死んでる』
その言葉の意味が、いまいち分からなかった。
「死ぬ」っていうのは、多分こういうことじゃない。
わからないけど、…多分違う
(仮に死んでるんだったら…)
そう思う感情のそばで、どうしても拭いきれない疑問点があった。
それは意識があるとか、想像と違うとか、理由はなんでもいい。
とにかく、あり得ないと思ったんだ。
目の前で起きてることがなんであれ、これは「現実」じゃない。
現実じゃないけど、…だけど…
「最後に言い残すことはない?」
「…へ?」
最後に…?
…どういうことだ?
俺はブンブン首を振った。
彼女の言葉に対してじゃない。
怖いくらいに頭が冴えざえしてる。
胸の痛みだって、もうどこかへ。
首を振ったのは、多分条件反射だ。
吐き気がするほどの倦怠感が、意識の底をつくように蠢いていた。
訳もわからない気だるさが、火で炙ったようにはためいていた。
気持ち悪い。
腹の底から、何かが込み上げてくる。
汗がすっかり乾いて、カラカラに萎れた喉が水を欲してた。
彼女の目さえ、見る気が起こらなかった。
それどころじゃなかった。
どうすればいいかもわからなかった。
手も足も、…意識も、自分のものじゃないみたいだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!