午後のひと時――
美味しい果物やお茶菓子と伝統的な模様の入ったティーポットと綺麗なティーカップとソーサーが三組、置かれている。数日に一度は開かれる母と姉、そして私の午後のひと時を過ごすお茶会。
王城の中庭に面したテラスで私達はテーブルに着き、メイド達が淹れたお茶を口にする。私だってもう二歳なのだ、お茶くらいなんてことは無い……少し、少しだけ口の中が苦くなるだけだ。
そして、リザ師匠が静かにカップを置いて小さく息を吐き、母に向かって真面目な視線を送り、口を開く。
「聞いて下さいますか、お母様」
その声はとても真剣な音を含み、それを感じ取った母は真剣な眼差しをリザに向ける。
「なんですか? イリスリーザ……とても重大な事柄のようね」
「ええ、実は私……謝らなければいけないことがあるのです」
「謝る? 一体、何をしたのかしら?」
姉は少しだけ私の方を見て唇をキュッと噛みしめて、再び母の方に視線を移す。
「クローネに魔法を教えてしまいました……」
「……それで?」
母は静かに、とても静かに怒気を孕んだ視線を姉に向ける。
姉もそれを感じて、少し涙目になりつつ、言葉を紡ぐ。
「あ……あの……そ、それで……」
「低年齢で魔法を扱うということは非常に危険だと幾度も説明を受けたハズですよね……」
「は、はい……」
「どうしてそんなことをしたの?」
姉は今にも泣きそうな状態でありながら、両手をグッと握りしめて耐えながら俯いた。
私はその姿に耐えれず、思わず口を出す。
「わたしが、いいまちた。あねうえに……まほうをおしえてほちいと」
私は未だに上手く発音が出来ないたどたどしい声でそう言った。
その姿を見た母は大きな溜息を吐くと共に先ほどまで放っていた怒気が霧散して消えていくのを感じる。
母は「もう、仕方ないわね……」と、呟き茶を口に運ぶ。
そして、口からカップを放し、静かにカップをテーブルに置く。
「リザ、どうしてクローネの言うことを聞いたのかしら?」
「だ、だって……クローネがあまりにも可愛くて、つい……」
「ついもへったくれもありませんよ? クローネも身体に異変などありませんか?」
「はい、だいじょうぶでしゅ」
「……それならいいのだけど、下手に魔法が発動してしまったら、幼い子供では制御できずに大惨事になることもあるのです。今後、二度と勝手な事は許しませんよ」
「はい、お母様……」
「は、はいっ」
と、私と師匠はしょんぼりとそう言った。
しかし、姉はさらなる発言をする。
「ただ、まだ二歳だから……かもしれませんけど、クローネは魔法のセンスがからっきしですわ。簡単な<照らす灯>さえも失敗してしまうのですから」
「は?」
<照らす灯>というのは魔法陣に流した魔力に対して、ただ光を発するという魔法だ。
何かを光らせるというだけの簡単な魔法は様々な術式に応用されるほど基礎中の基礎の魔法らしい。
ちなみに魔力さえあれば、他人が組んだ術式でもキチンと決まった方法で効果を発動させることが出来るらしい……のだが、私の場合は何故か失敗してしまうのだった。
はじめは私が幼児だから失敗していると思っていたらしいから、自分と同じ血を分けた妹がまさか魔法が使えないとは思っていなかったそうだ。
(ぐぬぬ、解せぬ)
姉がそんな話をする中、私は納得がいかず思わず難しい顔をしていると、それに気が付いた母は優しく微笑むのだった。
「ふふっ、まぁ、使えなくても生きては行ける。それにクローネが魔法を使わなくとも生きていけるようにすればよいだけではないかしら?」
「そ、そうですわねっ! さすがお母様です!」
そう言って母と姉は何故か大盛り上がりしている。
ハッキリ言って私は納得できずに首を傾げるのだった。
「シャカリノが鳴らせるのだから、魔力が無いわけでは無いのに……不思議なことがあるのね……」
「そうなのです。だから、魔法も使えるものだと私は思っていたのです」
「リザおねーたま、おかーさま。わたち……まほう、つかえない?」
「……いいえ、クローネ。まだ幼いからに違いないわ。使えるようにきっとなるに違いありませんわっ! だって、私の娘なんですからっ!」
私が泣くかと思い、母と姉は席を立ち私を抱きしめながら母はそう言った。
ただ、私にもなんとなく魔法のセンスは無いのかもしれないと思うのであった……あの複雑な魔法陣と術式や発動までの計算は無理なのでは無いかと。
私の知る魔法は魔力によってイメージを具現化するというモノだった。
この世界ではそんな簡単にはいかずに、多くの制限と論理的な方法で理に干渉して発動させるというモノだ。べ、別に私のおつむが残念なだけとか……そんなわけ、ないじゃない!
「二歳とは思えないほどの魔力量を感じるのに……不思議なのよね」
「リザと同じ歳にはもっと魔力が増えるかもしれないわね」
「ええ、そうなのです。だから、魔法を教えることが出来るかと思ったの……」
「思っても、教えてはいけないわ。せめて五歳くらいになるまではね、本当に危ないのだから」
「ごめんなさい……」
「いいのよ。それにしても、神様はクローネに意地悪でもしているのかしら? この国では魔法が使えないととても苦労するというのに」
(は? なんといいました、お母様)
私は心の中でそう思いつつ、母の方を見る。
「クローネ、賢いあなたにもまだ分からないとは思うけれど、この国に住む者たちが魔族だと呼ばれるで所以あり、この国は『魔導師の国』とも呼ばれるほどに魔法を使うことが出来る者達が多く、その魔法の技術も世界で突出しているのよ」
母はそう言って、少し寂しそうに微笑む。
「だからこそ、恐れ疎まれて来た。でも、私達がその大いなる力を示さなければ、他の国に攻められてしまう隙を与えることになる……でも、貴女だけは私が必ず守ってあげるわ」
「お母様、私だってクローネを守ってあげるわ」
「そうね、リザはとても優しいお姉様になるんだものね」
「ええ、そうよ。だから、クローネは不安になんてならなくてもいいの! この先、魔法が使えなくっても大丈夫! 私がついてる!」
姉はそう言って私を再びギュッと抱きしめるのであった……が、私は納得がいかずにその日は夜遅くまで寝ることが出来なかった。
げ、解せぬぅー。
あれ? 魔法使えない(・ω・`)
どーなるどーなる?
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