「ジェーン……いいえ、ジェンセンティアは次の休みの日まで城には戻ってきませんよ」
と、母がさも当たり前というように言った。
「つぎのやすみ……?」
実は私は日々の概念に関してはまだよく分かっていない。
前の世界では火、水、風、土、光、闇の6日一回りで1週間。ちなみに闇の日か土の日が休みになっていた。なお、一週が5回続いて1カ月だ。
「クローネにはまだ難しかったかしら? 大ルーンは分かるかしら?」
大ルーンとは、基礎となる魔法陣の中で最も大きい魔法陣が一周する時間や大きさをさす言葉だ。大ルーンが一周する時間は約16刻で、1日が1大ルーンと同義となる。
「あい、おおきいまほうじんでつ」
「ふふっ、クローネは賢いわね」
と、リザが楽しそうに言った。
そう言われると嬉しくなる……。
「じゃぁ、続きを説明するわね。大ルーンが10周する間を儀と言うわ。これは大ルーンを動かす大魔法を使う時の儀式に使う基本的な概念ね。ちなみに他の国では週と呼ぶので、公儀では週を使います。ここまでは分かるかしら?」
「あい、わかりまつ」
「よろしい。じゃぁ、週の間には陽、月、風、森、川、炎、鉄、砂、空、暗の十曜と呼ばれる日に分かれていて、暗、陽の日はお休みとなり、多くの店や施設ではお休みになるわ。城では3交代で動いているので、基本的に城下のような休みは存在しないわ」
「おやすみないでつか?」
「そうです。だから、王は皆から尊敬されるのです。と、いっても国内の全ての者が休みとなる日もありますよ。リザは分かりますね」
と、お母様が言うとお姉様は元気に手をあげる。
「はいっ! わかりますわっ、神祭りの日ですわっ!」
「正解です。冬が明け、春を寿ぐお祭りの日には国内の全ての者達が神へのお祈りを行う為に皆が休みます――と、言ってもその日は王家にとっては休みではありません」
「どうしてでつか?」
「その日は降臨祭と言って、我らが主神である女神ラミリア様をお祀りしなければいけないからです。皆で朝早くにお祈りを捧げて、お昼から夜の間は一切の公務を行わない日ではあるので、お休みといっても間違いじゃないわ」
「たいへんなのでつね」
「ふふっ、そうよ。そして、夜は国中の貴族が集まる晩餐会があって、2日間は大忙しよ……でもね、その後の3日間だけ城は完全に閉鎖されて、私達の短いお休みがあるのよ」
お母様はそう言って悪戯っぽく微笑む。
本当に国を運営するというのは大変なことなのだろうなぁ。と、思いつつも、お母様は辛くは無いのだろうかと心配になる。
「おかあさまはつらくないでしか?」
心配になった瞬間に口にしていた自分の迂闊さに焦りつつも母であるシュッツェリーナは優しく微笑む。
「ええ、ちっとも辛くなんて無いわよ? こんなに楽しい毎日を送れているもの。大切な家族が傍にいて、大切な国民たちが幸せであるのが、とても嬉しいわ。長くが続いた時代もあったけれど、ここ100年は平和そのものでよい時代でよかったと何度も思ったもの」
詳しい世界の情勢は知らないけれど、魔王国といわれている国であっても、今は戦も無く平和な時代であるらしい。
「と、話が随分とそれましたね。ジェーンですが、次の暗の日に帰ってきて、陽の夕方にはまた出て行くわ」
「たいへんそうでつね……」
「どうかしら? ちなみにジェーンが行っているのはシュバルラントの北にある直轄領とジャクセン公爵領の間にある学園都市と呼ばれる街にあるユーベルト王立学園よ。リザもクローネも10歳の夏から15歳の夏までの6年間、そこに通うことになるわ」
セーラ達も通っていたという学園のことだろうか?
ちょっと私の気分がグングン上昇していくのが分かる。私も通うことになるとセーラから聞いたのが今日の話だったので、結構リアルタイムな話題だ。
「それはたのしみでつ……きょうせーらたちからきいたのでつ」
「あら、そうだったのね。ユーベルト王立学園は我が国にある3つの学園都市の中で最も古く、多くの王侯貴族が集まる学園となります。ちょうど、貴女達が学園にいる間に西方の大国ヴェストランテの王族や貴族なども留学してくるでしょうから、将来を見据えた交流をすることも大切ですよ」
と、お母様の言葉に私とリザは元気よく返事をするのであった。
「そう言えば、剣鬼の弟子というだけで勝負を申し込まれるという噂を聞いたのですけど、クローネは大丈夫でしょうか?」
心配そうにリザがそんなことを言う。確かにセーラも言っていたので、少し不安にならなくもない……けれど、王族とか関係なく勝負を挑んでくる向こう見ずな人が存在するのだろうか?
「バグスリーのド阿呆どもか……確かに、アイツらならあるだろう。俺も学生時代に何度あいつらに意味不明な勝負を仕掛けられたか……」
「あら? あなたはとても楽しそうでしたけど?」
と、お母様が懐かしむように父に向かってそう言った。
父はどこかバツが悪そうに苦笑しつつも、悪い思い出では無いという雰囲気が伝わってくる。
「今思えば……馬鹿らしいとは思うものだ。当時は俺……私も若かったということだ。それに、キミとの思い出はいつまでも色あせることなく私の心にある」
「まぁ、貴方ってば。相変わらずのロマンチストですこと」
「あの頃は私には沢山のライバルがいたからな。特にジェスター殿やベルナルド……現在のヴェストランテ王もそうだ。フッ、本当に懐かしい……」
「あら、私は……貴方一筋でしたのに、そんな事を言うのね」
「当然だろう? ジェスター殿は私より成績も上で地位も遥かに上だったし、ベルナルドも同様だ。当時、俺には剣の道しかなかった武骨者だったわけだからな。まさか、あんなところでキミと出会わなければ、今の自分は無かったといつでも思っているよ」
「フフッ、貴方ってば……ねぇ、いいことを教えてあげるわ」
お母様が再び意地悪そうな笑みを浮かべて私達の方を見て、ウィンクする。
「教えていただけますか? ねぇ、クローネも聞きたいでしょ?」
「あいっ!」
すると、父が少し困った顔をして小さく溜息を吐く。
「放っておいても、いつか誰かから聞くのですから。実は学園ではヴィンとはほとんど会ったことが無かったのよ。この人ったら、どこに居たと思う?」
「なんだか、想像できませんわ……」
「もしかちて……ぼうけんしゃ?」
「そう、この人ってば冒険者をしていたから学園では話す機会なんて全然なかったのよ。バグスリー派閥の人達と騒いでいるのを遠目で見るくらいで……でね、あの人はいつもどうしているか気になったの」
「まさか、お母様……冒険者に?」
「そ、大正解よ。マリアンヌに協力して貰って、冒険者になってヴィンを追っかけたの」
お母様の楽しそうな雰囲気とは逆に父は何とも言えない微妙な表情を浮かべたのがとても気になってしまったけれど、お母様は楽しそうに話を続けるのであった。
長兄「むぅ」
次兄「ふっ……」
主人公(脳筋)「ほぁーっ!」
リザ「えっ!? 私がアレですのっ!?」
えっ?(*‘ω‘ )ω‘ )ω‘ *) (・ω・`)えっ!?
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