とある勇者のやり直し人生 〜転生先が魔王の娘!? って、そりゃないですよ女神様!〜

死ぬことしか許されない運命を受け入れた勇者は女神ラミリアによって別の世界へ転生させられたのだが!?
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あの話とは?

公開日時: 2020年10月1日(木) 17:49
文字数:3,110

 彼女は綺麗な瞳を私に向けてキラキラの髪を少しだけ指にクルクルと絡ませながら、楽しそうに話し始める。


「そう、これはお父様がお母様にプロポーズしたお話が由来になっているそうよ」


 少し想像はしていたけれど、父の微妙な表情からするとそうなのだろう。

 お母様はとても楽しそう――と、いうか少し意地悪そうな顔をしている。


「どんなおはなしでつか?」

「お父様とお母様は学園時代にとても仲が良かったそうなのだけど、お互いに良い雰囲気ではあったのだけど、婚約というところまではいってなかったのね。とても周囲はヤキモキしたらしいわ」


 お母様はどちらかといえばイケイケなのだと思うのだけど、お互いに微妙な感じだったのか、難しい話だなぁ。


「そんなある日、ヴェストランテの王子が現れてお母様に大接近。お父様はそれが原因で、とても荒れていたそうよ」

「フフッ、ヤキモチを焼くヴィンも可愛いわね」


 と、お母様は悪戯っぽい表情で父に視線を送る。

 当然、父はソッと視線を外す。照れているのか嫌なのかよく分からないけれど、悪戯したくなる母の気持ちはなんとなく分かる感じ。


「でも、お父様はある日、多くの観衆の前でヴェストランテの王子に剣で挑まれるのですが、

そこでお父様はお母様への愛を語り、二人はめでたく婚約することになるのよ」

「はへー」


 私は驚いて変な声をあげてしまう。父はそんな根性があるのかと感心してしまったのだ。今日見ていた雰囲気ではそういうところで逃げ出してしまいそうな人なのかと思っていたからだ。


 そんなことを考えていると、お母様がお茶を一口飲んでから優しく――いや、超悪戯っぽい顔をして微笑んだ。


「リザ、実は間違いがあるのです」

「どういうことですか? お母様」


 リザは不思議そうな顔をする。そして、私は気が付いた。


「プロポーズしたのは私からヴィンによ。ちなみにヴェストランテの王子に剣で挑んだのも私。だって、この人ってばいつになっても告白してくれなかったのよ?」


 信じられる? と、悪戯っぽい表情でお母様はそう言いながらも、この思い出話はとても好きな……と、いうか父の事がとても好きなのだということがよく分かる。


「そうは言うが、あのダンジョンで死にかけていたところを次期女王に救われた私がそのようなことが出来るわけがないだろう……」


 父は相も変わらずバツが悪そうな雰囲気を背負ったままだ。


「でも、私がよかったのでしょ?」

「それは当たり前だ。キミ以上の人などこの世にいるわけは無い。あのダンジョンで瀕死になっていたところを助けて貰い、その後の面倒ごとも全てキミのおかげで何とかなったのだ。私をここまで惑わし、振り回し、楽しませてくれるのはキミしかいない」


 バツが悪そうな顔をしながらも、いうことはしっかり言う。とても不思議なイケメンである……と、いうかマゾ!? マゾなの!?


 ど、どうしよう!? 素敵な父親だと思っていたけど……まさかのマゾ疑惑!?


「ち、ちなみに結局のところ私がベルナルドと勝負することになったわけ、結果的に世間で語られているような展開になったではないか……」


 そうは言うが、どう考えてもダメなヤツではないだろうか?

 ともかくお父様頑張れ。と、だけ言っておこう。


「さて、そろそろお嬢様達はお休みのお時間ですから、お開きになさっては如何ですか?」


 と、マグナスに言われてこの場は解散することになった。


「それではお父様、お母様。ラミリア様の加護がありますように」

「かごがありまつように」

「ええ、二人ともラミリア様の加護がありますように」


 ここではお決まりの挨拶で、主神である女神様の加護を祈るのが夜の挨拶では定番で他にも食事の時などにも女神様の加護を祈る。


 セーラからの情報では他にも副神であるフィアリス様や他の様々な神様に祈りを捧げる挨拶が幾つも存在するらしい。神様の名前を覚えるのがとても大変なので、早くから覚えるようにと言われている。


 私は部屋に戻り湯あみをして、着替えベッドに入ったら疲れていたのだろうがストンと意識を手放してしまった。



――それから数日後



 この数日間は特に大きなことは何もなく、午前中は剣の師匠であるリスティアと共に稽古を行っていた。ちなみにまだ剣で戦うような訓練は出来ていない――当然といえば当然である。この身体はまだまだ幼く、基本の型をじっくりと学ぶ程度で基本的にはちょっとした運動をするみたいなものだ。


 なお、そこで我慢できているのはリスティアの厳しさとセーラから聞かされる経験談が私の行動にブレーキを掛けていると言っていい。


 ただ、ひとつだけ変わったことと言えば、算術などの勉強が始まると告げられたことだ。


 今が砂の日なので翌週のはじめである月の日からマリアンヌを教師として迎え勉強をすることが決まっているそうだ。セーラ曰く、算術という話をした時の私の顔がそれは酷いほど嫌そうな表情をしていたらしい。


 その姿を映すことが出来る方法があれば、額縁に収めておきたいほどの面白い表情をしていたらしい……なんて失礼な。とも思いつつ、嫌なものは仕方ないじゃないと心の中で独りごちたことは言うまでもない。


 そうこうしている間に週末となり、次兄であるジェーンが城に戻ってくる日となる。


 お母様から通達があり、次兄が城に戻って来たことを知り、家族総出でお出迎えをするのだが……私としてはベタベタ触って来る次兄の行動があまり好きでは無い。


 普段は家族だけが集まるサロンに集合するのだが、今回は玉座のある大広間での謁見という形式を取るとセーラから説明される。


 よく分からないけれど、公式行儀的な意味合いのあるお出迎えとなるようだ。


 私は家族と共に初めて大広間に入り、驚きを隠せずに思わず声を上げる。


「ふわー」

「クローネ、驚くのは分かるけれど、城の者達がいるところではシャンとしておかないと後でお母様に怒られますよ」


 と、リザに注意されてしまうが、彼女はソッと私の手を取って楽し気に微笑んで「行きましょう」と言った。その姿はとても可憐でふとレティシアのことを思い出しつつ、改めてリザに好感を持つのであった。


 お母様が玉座に座り、その右手に父が立つ。長兄とその夫人は右側、その隣にリザ、私と続く。それぞれの側使いであるセーラ達は私達の後方にある壁際で気配を断ちながら控えている。


 すると、しばらくして『ジェンセンティア王子の入場!』と声を大きくする魔道具で近衛騎士の一人が言って、大広間正面の扉が開かれる。


 大広間の扉も魔道具で作られているのか、非常に巨大な扉が重い音など立てずにスゥーと開かれる。


 感心して思わず声をあげそうになるけど、先ほどのリザの言葉を思い出し、口を閉じる。横目でリザを見ると彼女は優しく微笑んだ。


 先週に見かけた兄とは思えないくらいに落ち着いた雰囲気となった次兄ジェーンが優雅に歩を進めて王座の前にある段の手前まで来て跪く。


「よく帰ってきましたね。ジェンセンティア、はじめて家族と離れて過ごす学園という場所はどうでしたか?」


 と、お母様が優しい声色でそう言った。ジェーンは顔を上げて、まず私の方を見て微笑む。


(えー、なんで見るんですか?)


 そう思っていると彼はスッと立ち上がり、小さく溜息を吐く。


「いやぁ、全く……可愛い妹達に会えないのがこんなに辛いとは思わなかったです」


 と、キザッたらしくキラキラと光る銀髪をかき上げつつ、私とリザの方にむけてウィンクと投げキッス付きで彼はそう言った。

 ちなみにそれと同時に長兄も溜息を吐き「まったく、アイツは……」と、呟いた。


 横目でリザの方を見るとゲンナリした表情をしている。


(って、いうかリザにも嫌がられているのか……アイツ)


 と、私もドン引きである。

主人公(脳筋)「お、お母様ももしかして脳き――がふぅっ!?」

お母様(脳筋)「あら? 何の事かしら?」

主人公(脳筋)「…………」

お母様(脳筋)「クローネ!? クローネェー!!!」

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