「………………」
勉強の為に押さえられた部屋でシルフィリンドと呼ばれた同じ年頃の女の子と向かい合って席に着かされた。そして、凄い涙目で睨まれている。
何が何だか分からないのが現状だ。
「お待たせしました、アイゼンクローネ様。そして、紹介が遅れましたがこちらに座っているのが私の娘である、シルフィリンド・エルス・カッツェウェル・オースティアスです。さぁ、リンダ。アイゼンクローネ様にご挨拶を……」
と、マリアンヌが言うとシルフィリンドはソッポを向いた。
「リンダ……どうしたのです、挨拶なさい」
マリアンヌのキビシイ視線に彼女はビクリとして、渋々ながらも挨拶をする為に席を立ちこちらに近づき跪く。
「しょうかいにあずかりまちた……シルフィリンドともうします。いご、おみしりおきを」
年の割にしっかりとした声でそう言って、私を再び睨みつけてから席に戻っていく。
正直、こんな状況でどうやって勉強をしろというのだろうか……と、私が考えているとマリアンヌが部屋にある大き目のボードを取り出す。
そこには『これからの目標』と書かれていた。
「さて、まずは10歳までに覚えなくてはならないことを話させていただきます。アイゼンクローネ様も我が娘シルフィリンドにも同じく王家を支える一因として立派に務めを果たす為に必要なことを説明します」
あの優しい乳母のイメージが強いマリアンヌとはどこか違う冷たさのようなモノを感じながら私はシルフィリンドと呼ばれた彼女の方を見ると、私を憎らしそうに見ていた。
私は何が起こっているのか全く分からずにとりあえず視線を逸らす。
「周囲の国々からは魔王――魔族の住む国と恐れられていることは知っているでしょう。古代シュバルラントと呼ばれる千年以上前でも、現在と同じように我々は魔族と呼ばれていた時代が幾度もありました。この国に住む血族は高い魔法の力を持ち、魔道具や魔法理論の技術継承を行ってきたからこそ、今の我々が存在するのです。ですので、各国の経済状況や技術状況に合わせた魔道具や魔法理論の向上を行うことが非常に大事な役割となります」
マリアンヌの視線はシルフィリンドには全く向いていない。これは私に聞かせているのだとすぐに私は感じる。シルフィリンドもそう感じているのかもしれない……だから、私を恨めしくみている? いや、まだそんなこと分からない。
「アイゼンクローネ様。聞いておられますか? まぁ、また歴史の授業で行いますので何となくでよろしいでしょう……王家やその近しい者達が何をもって国に貢献できるか? こちらも追々考えられるようになって頂けませんと困ります。アイゼンクローネ様もお母様に似て自由な気質なのでしょうね……まだ理解出来ないかもしれませんが、王家はこの国では非常に自由な権利を有しています。ただし、国に有益な場合はよいですが、国にとって良くない場合も御座いますので気を付けて行動されることを忘れないように」
「あ、あい……」
私は正面からの視線を受けつつ、とりあえずマリアンヌの言葉に返事を返す。
(全く、落ち着かない……)
「…………」
マリアンヌとよく似た雰囲気――どちらかと言えばセーラにも似ているかもしれない、同じ年の彼女はキッと私を睨みながらジッとしている。マリアンヌも彼女が私を睨んでいることを認識していると思いたいのだが、何も言わないというのは彼女にとって些細なことなのかもしれない。
しかし、私としては堪ったものではない。正直、どうすればいいかさっぱり分からないのが問題である。
ここはマリアンヌに訊いてみるのが一番なのかもしれない。私はそう思い、思い切ってマリアンヌに質問してみることにする。
「まりあんぬ、かのじょはどうしてあたちをにらんでいるのでつか?」
マリアンヌが不思議そうに首を傾げる。次の瞬間、目の前の彼女は普通の表情に戻っている――な、なんて器用なことをするのだろうか。
「気のせいではありませんか? シルフィリンドは大人しい子ですから、そんなことはしませんよ」
「はい、おかあさま」
そう言いながら彼女は笑顔を見せる。
シルフィリンドちゃんはどうやらマリアンヌにはさっきのような表情をしていることを悟られないようにやっていたのか……う、うーん、困った。
「よろしいですか、アイゼンクローネ様。我が国において、魔法技術というのは――」
再び、マリアンヌの説明が続く。次の瞬間、目の前にいるシルフィリンドは私に向かってベーっと舌を出して悪戯っぽい顔をする。
本当に何が何だか意味不明である。
「――なので、我が国の歴史を理解した上で、算術というのが非常に大事なモノだということをご理解していただきたいのです。では、本日はここまでとします。次回からは簡単な計算からやっていきたいと思いますので本日のように上の空では困りますよ」
「…………」
「聞いていますか、アイゼンクローネ様」
「あ、あいっ、きいてまちた」
「では、私は陛下に報告や仕事があります。帰りに再び呼びにまいりますので、それまでは我が娘と遊んでいてくださいませ」
そう言って、マリアンヌは退出して行く。
私は何が何だか分からない展開に目を白黒とさせた状態で固まっていると、シルフィリンドは二歳とは思えないような溜息を吐いた。
「はぁ……さいあくでつね」
「シルフィリンド、どうして姫様にそんな風なのですか?」
と、セーラが私を庇うように前に出てそう言った。
「せーらにいうきはないでつ」
そうして、彼女はソッポを向いて黙ってしまう。
「私が姉上のところで会ったときはこのような感じでは無かったのですが、いったい……どうしてしまったのでしょうか?」
「せーらがわからないことをあたちがわかるとおもいまつか?」
「ですよね……はぁ、困りましたね」
私もセーラも困惑状態のまま、しばらく呆然とソッポを向いて黙っている彼女を前に呆然とする状態を維持するしか無かったのである。
主人公(脳筋)「もしかして……脳筋!?」
シルフィリンド「ナイナイ」
えっ!?(*‘ω‘ ) (‘ω‘ *)えっ!?
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