本日は城にて大規模なお見合いパーティーが行われることになり、城は非常に慌ただしい雰囲気に包まれていた。
シュバルラント王国の王家とバグスリー公爵家の長い歴史には幾度もこういった催しがあった。そもそもバグスリー公爵家も元々は王家の流れを組む由緒正しい家である。
故に幾度も王家の血を入れることで、その家の力を保ってきたという面も強い。
ここ300年に限っては一度もかの家から嫁いだ者も入った者もいないという歴史的に見ればかなり疎遠となっていたと言えるかもしれない。
そして、今回はキモイ次兄の自爆によって今回の話になったのである――
ちなみに事前に挨拶に来たバグスリー公爵とその次女であるカタレニーニャ嬢を見たのだが、公爵はガッシリとしたザ・筋肉といった雰囲気であったけれど、パッと見は悪い人には見えなかった。
そして、その娘であるカタレニーニャ嬢は凛とした雰囲気の美人で銀に近い金髪でクルクルと巻かれた巻き毛がとても印象的な少女だった。
「気は強そうだけれど、悪い人間ではなさそうね……」
と、覗き見ながらリザが私の側で呟いていた。
「王家との縁を再び結べるというのは、何よりも光栄。まさに僥倖!」
挨拶を終えたバグスリー公爵は大きな声を出す。
「オーキリアス。既に決まったかのように話すものではない……当人たちの意思が何よりも大切だと私と陛下は言ったと思うが?」
「ふんっ、ヴァンヘリオ。我が娘は王家に嫁いでも問題無いように幼き頃より教育しておいたのだ。逆に言うが、ここまでの娘はそうはいないと思うぞ? まぁ、よいが……当日はこちらもよろしく頼む。では、また……」
そう言って公爵は帰って行った。ちなみに自信たっぷりな彼の横で敢えて静かに黙っていたカタレニーニャ嬢は確かによく教育が届いていると言ってもいいと思う。でも、ジェーンの話によれば、入学初日にジェーンに言い寄っている……と、いうことだけど本当のところはどうなのだろう?
そんなことを考えていたけれど、カタレニーニャ嬢がジェーンを上手く捕まえてくれれば、キモイ兄が居なくなるのは悪いことでは無いとリザと私も同意がなされ、次兄の嫁候補に頑張れとエールを送ることにしたのだった。
――そして、その当日。
私とリザは城の喧騒を他所に広間で母から、ここで待つようにと言われて待機中であった。
お茶のお替りを頼んでしばらくしてから、広間に見慣れぬドレスの女性が入って来る。そして、目の前で流れるような所作で跪く。
「イリスリーザ姫殿下、アイゼンクローネ姫殿下。本日はお招き頂き大変ありがとうございます。姫様達に大神ラミリア様の加護と剣と盾を司るレイベルリースの加護がありますよう心からお祈り申し上げます」
と、彼女は騎士式の挨拶を行う。この騎士式の挨拶は騎士が主や主に等しい者達のみに行う公式の挨拶だ。ちなみにセーラ達から『荘厳なる森』で教えて貰ったから知っていたのだ。
「ありがとう。あなたは近衛の者かしら?」
そう言ってリザは落ち着いた雰囲気でお茶を手に取ってお茶を口に含む。
「あ。えふぁりす!」
「って、クローネ。様式美というのがあるのよ。ちゃんと挨拶をさせてあげないと可哀想でしょ?」
「これはお気遣いありがとうございます、イリスリーザ姫殿下。お久しぶりで御座います、アイゼンクローネ姫殿下、陛下から勅命にて参じましたエファリス・エルス・クーリオ・モールドンであります。また、本日は姫様達にちょっとした土産を持参させて頂きました」
と、エファリスは顔を上げて不敵な笑みを浮かべる。
「まさか、うわさの……」
「おねえさま、たぶんそうでつ」
「はい、さすが姫様達は察しが宜しいようですね……本日は私が育てておりますフェーバルの子を数匹連れてまいりました。姫様達がお気に召されましたら、王家に召し上げてもよいと陛下からお言葉を賜っております」
さすがのお母様である。
いや、もしかしたら、お母様もモフモフしたかったのでは無いだろうか?
「ふふっ、お母様もモフモフしたかったのね……」
と、私が考えていたことを口にするリザ。我が姉よ、自分が早くモフモフしたいというオーラが出まくっていますよ。
「で、どこにいるんでつか?」
「そうそう、どこにいるの?」
幼女二人にキラキラ視線を向けられて少し照れつつ、エファリスは立ち上がる。
「はい、別室を用意しております。そちらに移動となりますのでついてきて下さい」
彼女に促され、私達は広間を出て廊下を移動する。移動する際にセーラが私の耳元で「よかったですね」と、言ってくれたので満面の笑みで返しておいた。
「さて、ここになります……が、部屋に入る前にひとつだけご注意を聞いて頂けますと助かります」
「なんでしょう?」
と、リザが早く言いなさいと言わんばかりの表情で言った。
「可愛くとも、フェーバルはまだ子供です。大きな声をお出しになられますと、怯えてしまいます。そうなると、人には懐かなくなってしまうのです」
「それは問題ですわね……」
リザは小声でそう言った。まだ、部屋に入ってもいないのに大きな声を出さないように気を付けるところが何とも可愛らしい。
「では、よろしいですか?」
エファリスの声に私達は期待を膨らませた表情でコクコクと幾度も頷いた。
そして、扉が開かれて私達は室内に入る。普段は客間として使われている部屋の一つに大きな柵が立てられ、その中心に柔らかな布で作られたクッションが置かれており、そのクッションを中心に小さなフェーバルがよちよちと遊んだり、クッションの上で寝ていたりしていた。
「ん~~~~!!!」
リザはそれを見て口を両手で押さえながら興奮した瞳を私に向ける。
私もそれに頷きながら、大興奮である。
もうっ、ナニあれ可愛い! ハンナ――じゃなく、リンダにも見せてあげたい!
と、私は興奮した状態で柵に駆け寄ろうとしたところをガシリとセーラに捕まえられてしまう。
「そのような勢いて突進してはフェーバルの子らは驚いてしまいますよ」
「た、たしかにでつ……」
「お、落ち着くのよ、クローネ。私だって……は、はやく……あそこに行きたいのだから」
「あいっ」
そうして、エファリスに連れられてフェーバルの子供達がいるクッションの側までやってくるのであった。
主人公(脳筋)「フェーバルたんは当然、脳筋だよね?」
エファリス(脳筋)「何を言ってるんですか姫様、魔獣ですよ? 魔法くらい使います」
主人公(脳筋)「ま、魔法!?」
エファリス(脳筋)「ええ、私も驚くほど見事に」
リザ「……この人達は一体何を言ってるのかしら?」
嘘だよね(*‘ω‘ ) (‘ω‘ *)嘘じゃないです
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