「ダンジョンという存在を知っているかしら?」
お母様はまずそう言った。
私は前世で幾つものダンジョンを攻略してきたので前世の世界でのダンジョンという物は理解しているが、この世界とソレが同様とは限らないのでとりあえず、首を傾げることにした。姉は「本では読んだことがあります」と、素直に答える。
「ダンジョンというのは一つの魔物だという説もある物で、次々に魔物を生み出す危険な存在です。当然、国はダンジョンを管理して、魔物が溢れ出てこないようにする役目を持っているので、どこにどういったダンジョンが存在するのかを知るのはとても大事なことになります」
国がダンジョンを管理するというのは以前の世界でも同様にあったことだ。ただ、ダンジョンも一つの魔物だという説が存在することに私は驚きを隠せないでいた。ある意味、目から鱗が落ちるような気分だ。
「シュバルラント以外の多くの国ではダンジョンの最奥に存在する魔核を破壊してダンジョンそのものを破壊するような決まりが存在するようですが、我が国ではダンジョンを管理して魔核が破壊されないように厳重に管理しています。これも大事なことだから話をしました、ちゃんと覚えておいてね」
「あいっ!」
「分かりましたわっ!」
「フフッ、でね。シュバルラントの最南端にあるウルベルク渓谷の奥にある『ドルバルゥの深淵』という比較的若いダンジョンがあるの。ヴィンとの出会いは彼が学園を長期休暇の申請を出して受理される前に行ってしまったことが始まりなの」
「あの時は受理が必要だとは知らなかったのだ……」
「せっかちなんだから。当時、私はまだ12歳だったのだけど、ヴェルハウザー辺境伯と出会う切掛けが別であって、何故か相談を受けてしまうのよね。彼を連れ戻して欲しいってね……」
そう言って笑うお母様だが、父は本当にバツが悪そうだ。
結構な問題児だったというのが伺える一件である。
「ヴェルハウザー辺境伯も当時は色々と問題があって、ヴィンには強く言えない事情があったの。急いで連れ戻そうにもどこへ向かったか分からなくて、探すのに手っ取り早い方法が冒険者しかなかったのよ」
「あの時はあんな問題になるとは思ってなかったのだよ。本当にキミには申し訳ないことをしたと思っているよ……」
シュンとする父を少し可愛いと思ってしまう私もダメなのだろうか……と、思いつつ母は楽しそうなのでよしと納得する。
「普通、冒険者って10代そこそこの人間がなるものじゃないっていうのは分かるわよね? 全くいないわけでは無いけれど、そういう職に幼い時期に付くのは家に問題がある場合か酔狂か……」
お母様は楽しそうに言うが言っていることは結構キツイ。確かに平和な時代で考えればそうなのかもしれない……前世では14歳で冒険者という職に就く者は多くいた。早ければ10歳でダンジョンに潜る者達がいたのだ。それから考えるとオカシイ話では無い。
前世では多くの者が冒険者として働いていたが、実際ダンジョンに入って魔物を倒して富を得ることが出来る者はほんの一握りで、多くは商人の護衛だったり、貴族の私兵だったりをして暮らしていた。
それも多くは孤児や難民、もしくは流民で普通の職につけない者達がなる場合が多い。
中には冒険を求めて冒険者になる人もいたけれど、正直言えば稀な存在だ。私も勇者として保護されなければ冒険者になっていか微妙なところだ。ただし、国によっては冒険者になることが推奨される国もあった。
それは冒険者達が作った国であり、世界を股に掛けるギルドの創立者達が作った国だ。
実際、国という規模で言えば都市国家レベルではあったけれど、その組織は全世界にあり、世界の情報すべてを集める特殊な国だった……そんな話は置いておき。
この世界では10代そこそこの人間が冒険者をするというのは非常識だということだ。
しかし、母もそこに足を突っ込むわけだから、色んな意味で問題のある王族だったのではないだろうか?
「で、その酔狂な彼のことが調べれば調べるほどに気になるわけです。マリアンヌからすれば彼は兄弟子で、しかも、剣鬼並みの剣の使い手だっていうのよ。もう、それは気になって仕方ないわけ……」
確かに気になる。色々設定盛り沢山なところが気になって仕方ないです。
「ちなみに補足ですが、ヴァンヘリオ様は剣聖であるマグナスの弟子でもあります」
と、セーラがお茶のお替りを入れながら補足情報を出してくると、お母様は少し意地悪そうな顔をしてフフンと鼻を鳴らす。
「ちなみに学園に入る前段階でどちらにも弟子入りしていた猛者なのだけど、城で一度もあったことが無いっていう、本当に名前だけ独り歩きしている不思議な生き物だったのよ」
「ふしぎないきもの……」
「お父様っていったい……」
「あ、あまり不思議そうな目で見ないでくれ、娘達よ……」
父はそう言いながら少しいじけたようにテーブルに『の』の字を書きながら口を尖らせる。
「お嬢様、あまりヴァンヘリオ様を苛めないようにお願いします。後が面倒なのですから」
「あら、マグナスがそんなことをいうなんて……まぁ、冒険者の道を示したのは貴方ですものねぇ」
「うっ……」
いつもの完璧執事のマグナスがお母様の口撃に怯む。
と、いうか……王族や貴族というのに、この人達はどこまで自由なんだろう。
「でね。当時はまだ私は王となっていなかったから、御爺様と御婆様にお願いしたのよ。彼を連れ戻すから少しお出かけしてきますって」
「御爺様と御婆様からお許しが出たのですか?」
「ええ、当たり前よ。そうじゃなければ、ヴィンは今ここにいないもの」
お母様は自慢げに言ったが、絶対にキチンと説明せずに出かけたような気がする。そうじゃなければ『お出かけしてきます』とは言わないもの。たぶん、祖父母達はちょっと出かけるレベルの話だと勘違いしたのではないだろうか……。
「おかげでとても楽しい冒険をすることが出来て、本当にいい思い出になったわ。城を出て、私はまずマリアンヌと共に冒険者ギルドに登録することにしたの」
「お母様、冒険者ギルドの登録とはどういうことをするのですか?」
と、リザが興味深そうに身を乗り出して、お母様に続きのおねだりをする。
当然、母も気をよくしてご機嫌である。
「まずは冒険者についてキチンと説明をするわね……」
お母様の冒険譚はいずれしっかりと書きたいところですな(ΦωΦ)
えっ!?(*‘ω‘ ) (ΦωΦ )えぇ……
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