『荘厳なる庭』と呼ばれる城内に存在する森の広さは大ルーン(約1,000m)四方相当であるそうだ。この城には幾つもの似たような庭という名を持つ森が5つ存在し、その内の一つが『荘厳なる庭』となる。ちなみに他にはどんな名前の森があるか私は知らされていないので分からない。
そんな事を考えている間にセーラに抱えられたまま、四名の近衛騎士に周囲を守られながら私を森の奥へと運んでいく。と、いうか私はどこへ向かっているのかよく分かっていないけれど、彼女達の中では既にゴール地点がどこか設定されているような動きである。
ちなみに前衛を務める近衛騎士はエファリス、プラチナブロンドの美女だ。私の右側に付いているのがサシュエル、彼女はどこかおっとりとした雰囲気のある栗色のふんわりとした髪の毛の女性だ。左側にいるのがアーリン、ショートカットが特徴のボーイッシュな女性。そして、後方で殿を務めているのがメイヤ、彼女は蒼銀色の髪に紫焔色の瞳が特徴の美女だ。全員が女性であり、見目も非常に整っているが近衛騎士の中でも上位メンバーに選ばれるほどの実力者だとセーラは言っていた。
実際、近衛騎士がどれくらいの人数で構成されているか分からないけれど、雰囲気だけでいえばパッと見た実力はエファリス、メイヤ、サシュエル、アーリンといった順番だろうか、魔力量に関してはメイヤが最も高そうだ。
ちなみにこれは師匠……姉から聞いた話ではあるが、魔力と容姿の関係というのはかなり密接に存在するらしい。魔力量が高ければ高いほど、髪の毛の色が薄くなり瞳の色が濃くなるそうだ。母の銀髪がキラキラと光るように見えるのも、膨大な魔力が溢れて光を出しているとセーラも言っていた。
私の銀髪は姉より少し暗く、若干だけど光にあたると青く輝く不思議な髪色である。
魔王と呼ばれる人の娘なので当然、目の色も濃い赤色――深紅の瞳だ。
皆が私の魔力は年齢に比べてとても多いと話をするが、魔法が上手く扱える気が全くもってしないことを考えると高くてもあまり意味は無い気がする。
そんなことを考えているとセーラが足を止める。
近衛騎士達もセーラと同じく足を止め、その統率された動きに感心する。
前世では私が先頭に立つことが多かったけれど、信頼した仲間たちはお互いの動きを察知して状況の変化に合わせて歩を止めたり、進めたりする。冒険を始めたころには出来なかった動きだけれど、繰り返し旅を続けている内に皆が出来るようになった。
マルキュリオスが仲間になった頃、彼はよく一人で突っ走って行ったのを覚えている。
逆にハンナは臆病で慎重な性格だったけど、実は誰よりも心が強かった。バーナンキ老師には皆が沢山のことを教えて貰っていた。
懐かしい冒険の日々――
思い出すとちょっぴり悲しくなる。
「どうかされましたか、姫様……」
セーラが心配そうに私の顔を覗き込むが、私は何も言わずに即座に首を横に振る。
(ちょっと感傷的になっただけだ)
と、心の中で呟いて気持ちを立て直す。
「どうちて、とまったのでしか?」
「ここが目的地ですよ、姫様――ほら、あそこに……」
セーラはそういうと、私の視線を誘導する。
そこには肉食獣によくある短いマズル――前世で見知っている『猫』という生き物によく似ていたが、やや筋肉質な雰囲気と野性味のある相貌はただの獣では無いという雰囲気がにじみ出ていた。
ただ、一言付け加えるとすれば――
「もふもふしてまつね」
そう、とてもふんわりとした『もふもふ』な生き物だった。
「そうなのです。フェーバルはとてもモフモフしており、モフモフ好きには堪らないという話はよく聞く話なのですよ」
セーラはそういいながら、私をそっと地面に下した。
騎士達も警戒しながら、私がフェーバルを観察しやすいように位置取りを静かに変える。
「さわったり、できない……でつよね?」
「ええ、残念ながら。ここでソッと様子を伺うに留めておくことがよいと思います姫様」
そういいながら、セーラは敷物を広げ寛げるスペース作りに入る。
「フェーバルはとても警戒心が強く人に慣れることは滅多とありません。ただ、人に慣れたフェーバルはとても可愛いという噂です。なかなか、愛玩用に馴らすのには向かないと聞いております――はい、姫様。こちらにいらしてください」
気が付くとセーラは敷物の上に座って、私を傍に呼ぶ。
私はフェーバルがこちらの様子をジッと伺って警戒しているのを見ながらセーラの傍までいくと思わずポテリとコケてしまうが、セーラはそれさえも計算に入れていたかのようにそのまま抱き留めて膝の上に座らせた。
「ふふっ、気を付けてくださいませ」
「あ、あい」
森の中は少し薄暗い雰囲気はあったけれど、陰鬱な雰囲気は全く無く。どちらかと言えば清浄な気配漂う静けさが広がっている。
「あのフェーバルは彼是数日はあの辺りをウロウロとしているそうです。捕まえて来た騎士が餌やりをしているという話を聞きましたがキチンと食事を取れているかは不明だそうです」
「なにをたべるんでつか?」
「見た目はとても可愛らしい雰囲気の魔獣ですが、魔獣ですから肉食なのです。しかも、随分な大食漢でモーバルやオークスをペロリと食べてしまうそうですよ」
モーバルというのは角がある草食の動物で乳や肉が美味しい。オークスはモーバルよりも小型の家畜でクセの無い肉が美味しい動物だ。前世では似たような魔物がいたがどちらも人型だったので、私にとっては不思議な話であるが四つ足の生き物らしい――ちなみにまだ本物を見たことは無い。
「コッチをずっとみてまつね……」
「警戒心の強い魔物は特にそうですが、こちらが去るまで安心出来ないのでしょう。ずっと見ていると思いますよ」
「なんだか、かわいそうでつね」
「姫様はお優しいですね。ここらの森ではあまり見かけない魔獣ですから、しっかりと観察するとよいですよ」
セーラはそういうが、フェーバルからすれば溜まったものでは無いだろう。向こうが放つ雰囲気から緊張感が伝わってくる。こちらは近衛騎士が四名、セーラも戦闘能力ではかなり高いだろうし、そんなのにずっと観察されているのだから。
ただ、ひとつ気になっていることもある。
「なんだか、わたちをみているきがしまつ」
そう、ここに来てから魔獣は私に視線を向けている気がしてならないのだ。
私が子供だからなのだろうか? 警戒してジッと観察されているのは私な気がするので、とても不思議な気分だ。
「それは姫様の放つオーラが強いせいでしょう」
と、セーラが落ち着いたように言った。
オーラとはなんぞや? と、私が首を傾げるとセーラは優しく微笑み説明を始める。
主人公(脳筋)「オーラ?」
セーラ「オーラです。オラオラなどではありませんよ」
えっ!?(*‘ω‘ ) (・ω・`)えっ!?
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