とある勇者のやり直し人生 〜転生先が魔王の娘!? って、そりゃないですよ女神様!〜

死ぬことしか許されない運命を受け入れた勇者は女神ラミリアによって別の世界へ転生させられたのだが!?
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お母様の冒険譚 その2

公開日時: 2020年10月1日(木) 17:49
文字数:2,905

「冒険者というのは冒険者ギルドから依頼を受けて、仕事をする者たちのこと。ちなみに冒険者といっても、ほとんどの者達は物語のような壮大な冒険に出るようなことはほとんどないわ。シュバルラントの王都近郊では冒険者がやるような討伐は騎士団が行う為に特に冒険者の数もとても少ないわね……まぁ、確かに組織としての冒険者ギルドというのは都市部の方が巨大で職員も多いし、登録している冒険者の数も多いわ」

「そうなんですのね」


 リザは少し面白くなさそうにそう言った。

 前世でも確かに冒険者といっても、物語に出てくるような冒険をしている者達というのは非常に少ない。多くは傭兵や狩人の真似事みたいなことをして生計を立てていると聞いたことがあるので、どの世界でもその辺りは似たようなモノなのだろう。


「で、冒険者への登録というのは、簡単な試験を受けてその適正があるかどうかを判断されるのよ」

「どんなことをするのですか?」


 私も前世では冒険者としてギルドに登録をする時に試験を受けた記憶がある。ちなみに筆記試験などは無く、先輩冒険者監視の元で簡単な依頼をこなすという内容だった。


「まずは適正を見るための筆記試験ね。それと実技試験。実技に関しては得意な分野の専門家……と、いうか元冒険者の職員が試験官として試験を行うわ」

「お母様はどの分野で試験をお受けになったのかしら?」

「きになりまつ……」

「うふふっ、気になるのね。当然、私は剣術で受けたわよ。ちなみにマリアンヌは魔術で受けたわ」


 この人の自由な雰囲気は流石というところだ。

 たぶん、得意なところで受けるより不得意なところで受けた方がお忍び感という意味でそちらの方が良かったという理由な気がしてならない。ただ、雰囲気としてお母様も剣の腕は相当なものでは無いだろうかと私は思っている。


「お母様は剣もお得意なのですね」

「うふふっ、実はその通りです。ちなみにヴィンとの対戦成績は457戦中432勝18敗7分で私の圧勝です」


 そう言った時の父の微妙な表情は本当になんとも言えないほど寂しい雰囲気です。


「ともかくよ。試験に合格して冒険者ギルドに登録済ませてヴィンを追いかけたのよ」

「お父様に追いつけたのですか?」

「これがね。冒険者ギルドには色々と決まりがあって、すぐには追いかけることが出来なかったのよ……」


 お母様はそう言いながらも表情は楽しそうで、きっと良い思い出なのだろう。

 私も前世でハンナと共に旅だった時、不安はあったけれどワクワク感は確かに良い思い出である。はじめて冒険者として登録した時、万年低級のベテラン冒険者に絡まれたりしたなぁ。


「冒険者には仕事を受けられる範囲を定める為に等級に分けられているの」

「とうきゅう……ですか?」

「ええ、城で働く者たちにも位があるのは知っているでしょう?」

「はい、お母様」

「それと同じように冒険者にも位のようなモノが存在してそれを等級として色で表しているのよ。灰が最も低く、そこから緑、青、黄、茶、赤、銀、金、白銀、白金と上がっていくわ。灰等級の冒険者は新米ノービス扱いだから、危険な依頼は受けることが出来ないの」


 お母様の話を興味深そうに聞いているリザを横目に私は懐かしい話に前世のことを思い出していた。前世でも冒険者はランク分けされ、低ランクだと受けることが出来る仕事が極端に減る。ただ、お母様の話と少し違うのは冒険者の命というのはとても軽いことだ。


 私の知っている世界では最低ランクであっても、かなり危険な討伐任務も受けることが出来る世界だった。


 魔王軍の侵攻のせいで世界の至る所で魔族との戦闘があり、大量の難民と孤児がいたせいもあって余程のことが無い限りは冒険者の命というのは非常に軽くみられていた。


 私は勇者と、女神加護を持っていたので他の冒険者と比べれば随分と贔屓されていたことは否めない……と、いうか最低ランクだった間ってほんの数日だったから、よく分からないんだよね。


「ちなみに、初日は灰等級の仕事受けてみたのだけど、昇級試験に必要な要件を満たすのに随分と時間が掛かることを知ったの。ヴィンがダンジョンに向かって既に二日も経っていたことを考えても、ゆっくりとしている場合じゃなかったから、全力で抗議したわ」

「抗議してどうにかなるのですか?」

「うーん、普通はどうにもならなかったかもしれないわね。とりあえず等級管理の試験官をボコボコにしてヴィンと同じ青等級にしてもらったわ。そして、私とマリアンヌが王都を出たのがその二日後ね」

「おとうたまはだいじょぶだった?」

「大丈夫かどうかを言えば、ここにいるのだから大丈夫だったわよ……まぁ、見つけた時は瀕死だったけど」


 それを大丈夫だったかと言うと大丈夫だった? なのではないだろうかと私は思いつつ、話の続きを聞く。


「城から馬を借りて私とマリアンヌは急ぎウルベルク渓谷まで馬を走らせたわ。大体、渓谷に着くまでは5日くらいの道のりなのだけど、無理に無理を重ねて2日で着いたわ。まぁ、私とマリアンヌだから出来たって感じね。ちなみに、当時はウルベルク渓谷にダンジョンが見つかったという噂はあったのだけど、実際にダンジョンが存在するか不明だったの。これは冒険者達にとってもいい話で、何人もの冒険者が渓谷で『ドゥルバルゥの深淵』と呼ばれることになるダンジョンを探していたの」

「ダンジョンがどこにあるか分かってなかったのですね……」

「ええ、ウルベルク渓谷は多くの岩と多くの洞窟が存在する複雑な地形でその中からダンジョンを見つけるのは非常に難しい場所なのよ」

「みつけることはできたのでつか?」

「それは勿論。途中で盗賊に襲われたり、巨大な魔獣が現れたりとゆったりとは全くさせて貰えなかったけれどね。ちなみに盗賊がヴィンらしき冒険者のことを見かけたことで『ドゥルバルゥの深淵』を見つけることが出来たのよ」

「どぅるばるぅ……って、なんでつか?」


 実は『ドゥルバルゥの深淵』という言葉が出てからずっと気になっていたのだ。雰囲気的に地名とは少し違う感じがしたから気になったのだけど、深淵という組み合わせで何か非常に不吉なイメージを強く感じた。


「クローネは何でも知りたがる知りたがり屋さんね。ドゥルバルゥというのは闇の神で主神である女神ラミリアの末弟で『荒ぶる深淵』とも呼ばれる神のことよ」

「ドゥルバルゥはとても大人しい神様だけど、怒ると闇の霧を吹き出して世界を暗闇にしてしまうって言われている神様なのよ」

「わるいかみさまでつか?」

「いいえ、ドゥルバルゥは闇の神ではあるけれど、守護する星は『家族への愛』という素敵な神様でもあるのよ。愛の神であり、光の神である女神ラミリアの影からひっそりと支え、地深い闇で世界を支えている素敵な神様よ」


 そう言ってお母様は微笑む。


「ちなみに『ドゥルバルゥの深淵』という名は私が特別に付けたのよ。元は『深き闇のダンジョン』とか呼ばれていたのだけど、キチンと管理を始めるときに名前を変えたのよ」

「もしかして、あの話ですか?」


 と、リザが目を光らせる。私は何のことか分からずに首を傾げるとリザが自慢げに微笑んで“あの話”を教えてくれるのだった。

主人公(脳筋)「私もお母様に勝てるようになりますか?」

お母様「うーん、もう少し頭が使えるなら……あ、でも脳筋だものね」


えっ!?(*‘ω‘ ) (‘ω‘ *)えっ?

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