「ああっ、なんて……なんて可愛いのでしょう!?」
リザは必死に声を抑えながら、手を震わせながらフェーバルの子供を抱きしめて超ご満悦な表情である。
ん? 私?
当然、頑張ってモフってますよ。触った感じはフワフワで、毛色はレティシアのような綺麗な闇色で私はこの子が気に入って、先からずっと抱きしめてナデナデしまくりなのだ。
「イリスリーザ様、あまり撫でまわすと……ああっ、引っ掛かれないか……不安で仕方ありません。セーラも皆になんとか言ってくれませんか?」
不安そうな瞳を揺らすリザの側近でセーラの従姉妹にあたるユーナの取り乱しようを見て、エファリスが「少し落ち着かないと、逆にフェーバル達が不安で暴れてしまうかもしれないよ」と、ユーナを冷静な視線で見つめる。
落ち着いた雰囲気のエファリスから放たれる圧によってユーナは押し黙りつつも、両手を握り不安なのをアピールするようにリザを見ていた。
「全く、マリアンヌやセーラの落ち着きようを見るとユーナは同じ一族とは思えないわね……ま、いいけど……それにしても、どうしてこのような可愛い生き物が魔獣なのかしら」
「イリスリーザ様ぁ、さすがにそのおっしゃりようは酷いです。私はイリスリーザ様のことを心配して……」
「分かっているわよ。でも、落ち着かないとこの子達が見ているわ」
ユーナはフェーバルの子供達の視線を見てシュンと小さくなってしまう。ソッとセーラが彼女をサポートして宥めているところ、セーラはさすがだな。と、思ったことはリザには内緒だ。
リザも彼女のことをかなり気に入っているようだし、私の側近の方が凄いと自慢するのは子供染みていると思ったのだ。実際、肉体的にはまだ二歳の子供ではあるけれど。
それにしても、警戒心が強いと聞いていたフェーバルはとても大人しくて、魔獣とは思えないほどに可愛い。リザも言うようにこんなに可愛い生き物が魔獣……前世で言えば魔物であるというのは少し不思議な気持ちだ。
前世でも多くの魔物を倒したけれど、どれも血走った瞳にドロドロとした禍々しい姿の生き物であった……深い魔素から生まれた魔物に至ってはゴツゴツとした節を持つ角や牙を持ち、吐く息は腐臭のような吐き気のする匂い。血の色もどす黒く、どこか深く蒼い色をしていた。
それに比べてどうだろう!?
キュルンとした瞳。ピンと立ったお耳。もふっとした口――
「ああっ、かあーいでちゅねぇー」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
私はここの場にいる皆の視線を一人で受け止めていることに気が付く。
どうやら、私の腕の中で大人しく丸まっている子もその視線に気が付き不思議そうに首を傾げるのだった。
「んー? なんでつか?」
「ブフォッ!」
「ちょっ、セーラ!?」
「な、なんでもありません……ちょっと、姫様が可愛すぎただけです」
「さすが、セーラね。よく分かっているわ。私ってば、この瞬間……この子を抱いていなければすかさずクローネを抱きしめたわ」
「いえ、イリスリーザ様も負けないくらい可愛いです! 私は一生ついて行きますからっ!」
「これが王家の結束力というヤツか……なるほど……」
「えふぁりす、かんしんするところちがう」
「まぁ、エファリスも変わり者ですからね。それにしても、本当に魔獣を自ら育てて繁殖までこぎつけるなど……前代未聞でしょう」
確かにその通りだ。特に野生の動物だなんて、人の手で育てられれば森に帰ることなど出来なくなると聞いたことがある。
それにしても、本当に可愛くて思わず赤ちゃん言葉で話しかけてしまうのはどういうことなのだろう?
赤ん坊の頃、皆も私に対してそのように赤ちゃん言葉で話しかけていたけれど、アレは自然とそうなるものなのか……不思議だ。色々と不思議で仕方ない。
「ふふっ、殿下達に気に入られてよかったです。私も趣味でここまでやってきましたが、これからもこの趣味に真っすぐ駆けていけそうです」
「エファリスは走らなくてもいいから。もっとゆっくり周りを見るべきだと思います」
「セーラは酷い……」
「うふふっ、あ……この子、また会える?」
私は腕に抱えていたフェーバルの子をエファリスに見せると、エファリスは優しく微笑んで「はい、会えますよ。それはいつだって……」と、言って一拍置いて言葉を続ける。
「殿下達が気に入ったフェーバルの子を私が献上致しますので、共に暮らせます。なので毎日でも会えるのです」
「いいんでつか?」
「そうですわ。お母様やお父様に許可を……」
「はい、そちらも陛下達からお許しを得ております。なので、今抱いておられる子らをそのままお部屋へお連れ下さい。あと、部屋に帰ってからお名前をお付けになり、数日は共に過ごして必ず殿下達の手から餌を与えるようにして下さい。この子達フェーバルとはとても知能の高い魔獣ですから、キチンと誰が主だと認識します。ただ、気を付けて頂かなくてはいけないこともございます」
そう言ってエファリスは私達が抱いていた子供達以外の子を使用人達が手際よく隔離し部屋から持ち出していく。
「あら、他の子は持って帰ってしまうのね……」
と、残念そうにリザは言う。私も確かに――と、思わなくはないけれど、そんなに沢山のフェーバルを飼うことは出来ないと思うんだけど。
「イリスリーザ様。沢山の魔獣を飼うことは出来ません。ただでさえ、何が起こるかわかりませんのに……た、確かに可愛らしい姿をしておりますが、魔獣なのですから」
「そこはユーナの言う通りです殿下。一匹や二匹であれば人間に飼いならされている魔獣は暴走することもないでしょう。魔獣は非常に頭が良いのです……そして、人を見る。しかし、魔獣達にも理というモノが存在します」
と、エファリスは一匹のフェーバルの子を抱き抱える。
彼女に抱き抱えられたフェーバルは甘えた声を上げて彼女に頭を擦りつける。
「これは親や群れの中でも強い者に対して行う行動です。フェーバルとはそこまで強い魔獣ではありませんが、力を持たぬ者達からすれば脅威となりうる存在です。しかし、我々は彼らより強い力を持っている。魔獣達は本能的に分かるのです、誰が強者なのかを」
そう言いながら彼女は抱き抱えた子を優しく撫で、それに答えるようにゴロゴロと喉を鳴らす。
「姫様方、お気をつけてくださいね。エファリスは貴族達にフェーバルを飼うことを流行らせようと彼是5年以上こんなことをやっているのです。おかげで、仲間内で他の魔獣も人が飼いならせないか研究を始める始末ですから……」
セーラは呆れつつも楽しそうな表情を浮かべる。
しかし、人と共に暮らせる魔獣が増えれば少しは平和になるのではないだろうかと私は考え――ても、あまり良い答えにはなりそうになかったので、考えるのを止めた。
まずは、部屋に戻ってからこの子の名前を決めなくっちゃいけないのだ。
と、いうか既に決まっている――
この闇色の毛、綺麗な翡翠のような瞳。少し悪戯っぽい雰囲気はまさにレティシアそっくりなのだ。まぁ、ハンナみたいにもしもがあったら嫌なので、短くしよう……うん、そうしよう。
「うふふっ、このこは『れてぃ』、『れてぃ』がこのこのなまえなの!」
一気に私に視線が集まる。私は「あ……」と、言って思わず思っている事を口に出していた事実に思わず赤面してしまうのだった。
早く、リンダに見せてあげなきゃ……と、今度は心の中だけで呟くのだった。
セーラ(脳筋)「レティもきっと脳筋ですね」
主人公(脳筋)「魔法だって使えるって聞いてるけど?」
セーラ(脳筋)「脳筋以外どうするんですか?」
えっ?(´・ω・) (・ω・`)脳筋ですって
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