お母様は歌うように古い歴史を語りだす。
――遥か昔、シュバルラント王国は現在の広さになる前の話。
世界で魔法という技術を体系的に作り出したのが古代シュバルラント王国の王族で魔法技術が世界的に広がった後でも我が国は他国に比べて多くの魔法使いを輩出している。
希代の魔法使いと呼ばれる王がいた。
しかし、王はとある事件で長きにわたり眠りにつかざるを得なかった。
それに乗じてレルビアルヘルトの前進となる国、ルービアル王国が周辺国を仲間に引き入れシュバルラント王国の王を魔王として、邪悪なる魔王の国として滅ぼさねばならないと謳い、シュバルラントへ戦いを挑んだ。
ルービアル王国を中心とした周辺国は次々と我が国の領土を攻め、占拠して行く。
王は世界から魔王といわれるほどの実力者であった、その周辺の者達も当然、かなりの磁力者ばかりで戦において負けなしの将軍、軍師としても優秀な宰相。他にも高名な魔導師や魔女が幾人もいた。
しかし、王が眠る間に国は周辺諸国に荒らされ、蹂躙され古くから直轄地としてある三方の学園都市まで敵は攻めてきていた。
「学園都市……王都のすぐ傍まで攻められていたのですね」
リザがお母様の言葉を遮るように驚きの声を上げる。
「そうよ。元々学園都市にある、巨大な学園はその当時の砦を再利用しているのよ」
「この話は学園に入った時にならいました……」
と、ジェーン。
「おうさまはおきたのでつか?」
「ええ、起きたわよ。まさに三方の守りの要である砦が最終防衛線として苦しい闘いを強いられるようになって数か月後にね」
「ボクはそんな時に起きてどうにかなるとは思えないと思いましたよ」
「普通はそうよね。それに部下達に怒りを覚えるわね。どうして、そこまでの侵攻を許したのかってね」
「確かにそうですね……」
確かに不思議なところだ。行軍する敵国に対して、特に魔法を得意とする者達で構成されている軍があるハズだし。いくら周辺国と連携していたとしても、そんなことって普通はありえない。
「起きた王は軍を再編して、打って出るのだけど、彼は部下に対してよくやったと言えども、責めることは一切なかったそうよ。そして、外敵を追い出すことに成功する、この国でも有名な英雄譚のひとつ……でもね、とても不思議でしょう?」
不思議どころか意味が分からない。
攻める方も攻められた土地を取り返す方も、どうしてそうなった? と、しか言えない。
「周辺国は元々、戦が得意な国は少なかったのよ。東の諸国連合も戦上手は沢山いても自らの街を守ることが基礎となる考えの者達で大軍を持って戦うという風習が無かった……と、いうのもあるんだけど、そういう意味で我が国は古くから戦が下手くそな者達に圧倒的な軍事力を持っていた強国になるわね。それでも戦術には優れていたけど、戦略的には微妙な者達が多かった。特に我々のように魔力に秀でていると、そういう傾向になりやすい」
「個が強いからですか……」
「それもひとつね。特に王の事例でみられる、王がいないだけで周辺領地は総崩れ。直轄地は強靭な兵がいたが為に耐えていた。王が戦線に復帰しただけで、一気に戦争が終わるくらいの勢いで領地を取り返しているのよ」
「なんとも極端な話ですよね」
「そうね、古い話だから脚色も多いでしょう。でもね、我が国の者達は古くから、内側から攻められるやり方には弱い傾向がある……これは政があまり得意では無いともいえるわね。少し自虐的な気分にもなるけれど……」
「そ、そうなの……ですか?」
「ええ、ジェーンは賢いからわかると思います。上に建つ者が優秀過ぎてもダメなのです」
と、お母様は超がつくくらいに優秀ですよと言わんばかりにそう言った。
ちなみに前世で老師も言っていたのを思い出す。
――秀でた力、秀でた知識というのは時に周囲に軋轢を生むものだ。
老師の声、姿を今でもはっきりと思い出すことが出来る。
私にその手の話をする時はいつも、あの王子や賢者が会いに来た後に苦笑いを浮かべて言っていた。アレは私に対してのことだと、分かってはいたけれど……今、思えばもう少し意地悪く抵抗してもよかったのではなかろうか?
お母様が言いたいことは王だけが、その組織の一部だけが優秀過ぎても問題が起こると言っているのだ。正直、難しいことはよく分からないけど、凄い人がいるとついつい妬んじゃう人がいるってことだよね。
などと私はそんなことを思いつつ、みんなの様子を伺う。
「結局のところ、現在……我が国は北や東の国に武力を使わない方法で侵略を受けているということですか?」
「ええ、正解よジェーン。ただ、現状は私もお父様もとても優秀なだからこそ――いいえ、いまこの国を支えている者達が優秀だからこそ、ある程度は抑えられている……とも言えるわ」
「ボクは……とんでも無いことをしてしまった……のでしょうか?」
さすがのジェーンもしょんぼりとしている。
気弱な次兄も少し気持ち悪いと思ってしまったけれど、絶対口には出さないでおこう。と、私は心に誓いつつも解決策を考えてみようとするが、こういう話って苦手なんだよね。
と、早々に思考を放棄することに決める。
「ジェーンの婚約者にバグスリー家の次女であるカタレニーニャ公爵令嬢を迎えるのはひとつの方法ではある」
父がどこか冷めた――貴族らしい立ち振る舞いでそう言った。
国内で名を馳せる武人ではあるけれど、それ以上にお母様である女王の王配である父は政治的にも貴族としても有能なのだろう。普段のどこか三枚目な雰囲気はどこかへ放り投げられたようにカッコいい……けれど、言っていることはかなり冷たい。
「彼女も当然候補として名が挙がっていました――色々と問題のある家ではありますが、バグスリー公爵家は古代シュバルラントから続くと言われている古い家ですから、我が子達の誰かがバグスリーと縁を結ぶのも必要な場合もあります」
「そ……そんな……」
次兄は地獄に落とされたように青ざめた表情をして呟く。
ただし、小声で「妹達の傍から離れないといけないなんて……悪夢だ……」と、呟いていたのを私の耳はキチンとキャッチしています。うん、やっぱりキモイのでバグスリーの生贄となるのもやぶさかではないと思う。
「い、いくら気持わる――いいえ、あ、あのジェーンお兄様でも、少し可哀想ではありませんか? 何か他の解決策は無いのですか?」
と、リザがフォローに入る。でも、リザも「気持ち悪い」と言葉にしようとしたわけで、結論はキモイでいいのではないだろうか?
「でしたら、リザが――」
「それはダメだ! ダメだぞぉー、いくらキミの決断でもそれだけはダメだ」
すかさず否定する父、ちょっとカッコいいですけど、なんだか雰囲気がジェーンそっくりで私は微妙に嫌悪感を抱きます。
「分かっています。そこは最終手段……と、いうところです。ただ、ジェーンが学園でおこした事件に関しては何か落としどころを見つけなければ、誰も納得しないでしょう」
「私の王位継承権を剥奪というのでどうにかなりませんか?」
ジェーンは暗い顔でそう言った。
しかし、お母様はすぐさま首を横に振る。
「レミオラオスト伯爵夫人は多少してやったと思うことでしょう。しかし、バグスリーはそこに対しては特に何も思わないでしょう。穏便にすませる事は実はそこまで難しくないのです……ただ、今はかの家に貸しを作ることは他の派閥にいる貴族に対して非常によくないメッセージを送ることになる為にそれは出来ません」
「で……では……」
「なので、よい解決案としてジェーンとカタレニーニャ嬢とのお見合いという名の席を設けることでバグスリーを納得させることとしたいと思います。ただし、レミオラオスト伯爵の件については徹底して相手が悪かったという姿勢を保つつもりです」
お母様はそう言った後、立ち上がり。「今日は皆疲れたでしょう」と、解散となった。
お母様(脳筋)「私ってば、超優秀!」
お父様(脳筋)「自分で言うのはどうなのだ?」
主人公(脳筋)「私も優秀になれるかな?」
両親(脳筋)「…………え?」
えっ?(*‘ω‘ ) (‘ω‘ (‘ω‘ *)えっ!?
読み終わったら、ポイントを付けましょう!