「簡単に説明しますと、オーラとはその者が持つ魔力の強さです」
セーラはどこか楽しげにそう言った。
私はとりあえず首を傾げておく。自身の魔力量が高いというのは家族や乳母のマリアンヌ含め多くの人から言われているので、まぁ、私ってばすごい魔力を持っているのね。程度の認識でしかない。
「陛下……お母様であられるシュッツェリーナ様の髪の毛がキラキラと光るように見えるというのはイリスリーザ様からお聞きになりましたよね?」
「あい、ねぇさまにおしえてもらいまつた」
「溢れる魔力は身体的なところに色々な形で現れるのです。オーラというのは肉体より溢れ出た魔力が作り出すのです。本人には中々理解することが難しいのですが、ある程度の魔力量を持つ者達……特に魔獣たちはそれを強く認識することが出来るそうです。それを総じてオーラと呼ぶのです」
「でも……セーラたちのほうがまりょくおおそうでつけど?」
「それはそうですね……我々はオーラを抑える訓練を積んでおりますので、あの程度の魔獣ではそれに気が付かないのです」
「そんなことができるんでつか?」
私がそう聞くとセーラは優しく「はい」とだけ答えた。
「今現状で言えば私達の中では姫様がもっとも警戒する相手となります」
「ではだれか、ほんきをだしてもらえないでつか?」
「構いませんが、フェーバルが逃げてしまいますよ」
「……えっと、またみれまつか?」
私がそう言うと近衛騎士のエファリスがこちらを向き跪く。
「アイゼンクローネ姫殿下が望むなら私が一頭キチンと馴らしたものを用意しましょう」
「え? いいのでつか?」
「はい、姫殿下が望むならばお任せください――」
「エファリス、献上するにしても陛下にお話を通さねばダメです。あと、キチンと飼えるか分からないのは困ります」
と、エファリスの言をセーラが止める。確かにペットを勝手に飼うのは色々と問題がありそうだと私は気が付き、ちょぴり残念な気持ちになる。前世でも一度もそういったことをしたことが無いけれど、レティシアが飼っていた小鳥をちょっぴり羨んだりしたことがある。
私自身がキチンと世話が出来るのか分からないモノを飼うというのは別の意味でも問題があるかもしれないと思い直す……けれど、キラキラした瞳のエファリスになんと答えればいいのだろうか?
「……わがままをいいました。かうのいまはあきらめまつ」
「諦めなくとも、陛下に直訴いたしましょう」
「エファリス、先ほども言いましたよね? 今回、あなたがどうしても姫様に見せたいと言い出したのですよ?」
「セーラは堅苦しいな……まったく、わかっていると何度も言っているではないですか」
「メイヤ、エファリスがフェーバルを連れ帰って来たのはこれで何度目でしょう?」
「先月と今月を合わせると……だいたい20頭くらい」
「はい?」
私は思わず声を出して目をまるくした。
どうやら、魔獣を捕縛して森に放った犯人はエファリスだったようだ。
彼女の言からフェーバルを捕まえて飼いならすことに随分と情熱を注いでいる――と、いうことはあのモフモフが好きでたまらないといことなのだろう。
「そういえば、姫様はオーラの抑えを解くのを見たいと言ってましたね」
「ちょ、セーラ! やめないか、キミが本気を出すと下手をするとあの子がショック死しかねないっ!」
「お黙りなさい!」
と、言ったセーラから衝撃波のようなものがブワリと周囲に広がり、木々にとまっていた鳥たちが驚いて一斉に飛び立つ。ちなみにフェーバルは凄い表情で固まってポテリと倒れた。
「せ、せーら。ふぇーばるかわいそう……」
「失礼しました。かなり加減したので……し、死んではいないと思うのですが……」
セーラは苦笑しつつそう言ったが、次の瞬間にはエファリスがフェーバルの傍で嘆いていた。
「はぁ、何とか息はある……みたいだ。もう少し加減してくれ、この可愛い子が怪我したり死んじゃったらどうするんだ。もうっ……はぁ、仕方ない……連れて帰るしかないか」
「モールドン侯爵令嬢ですのに、なんでそうなのですか?」
「セーラだって、オースティアス侯爵令嬢なのに暴走令嬢とか言われてたじゃない」
セーラが暴走令嬢? ナニそれ、とっても気になる。
「ぼうそう……きになるでつ」
「ま、気になりますよね。私たちは近衛騎士になったけれど、同世代ではセーラとエファリスは幼馴染で親友というポジションで王立学園では常に大暴れの問題児として有名だったのですよ」
と、傍にいたアーリンがそう言った。
「アーリン、黙っていて貰えないかしら?」
「残念ながら、姫殿下がとても聞きたそうなお顔をされていたので、さすがに私は黙っていることなんて出来ないわね」
そう言ってアーリンは爽やかに笑う。
「もしかみんななかよし、なんでつか?」
「腐れ縁のようなものです。私たちは皆、成人から城勤めになりましたが、昨年までは同じ王立学園に通っていたのです。姫様も十歳になれば、通うことになります」
「セーラ、エファリス、メイヤ、アーリンと共に行動することが多かったせいで、私は婚期を逃しそうで少し困ってますけど、この城でもっともお互いを知っている仲と言えるでしょう」
と、サシュエルがおっとりと雰囲気でそう言った。
仲の良い友達と一緒に通う学園……かぁ、前世では神殿が教育というのを担っていたので、王立の学園が存在すると聞いてテンションが上がっていく。
「で、せーらのぼうそうがきになるでつ」
「姫様、そこはソッとしておいていただけるとありがたいのですが……」
「減るモノじゃない、それくらい話せばいいだろう。放っておいても誰かから聞く羽目になるだろう?」
先ほどまでフェーバルの傍で嘆いていたエファリスが、魔獣を入れているであろうずた袋を持って戻ってくる。
「ちなみにですが、セーラもエファリスも剣鬼の弟子ですから、姫様は妹弟子ということになりますね。学園では剣鬼の教え子というだけで、近衛を目指す騎士たちから幾度も挑戦を受けることになるやもしれません」
「さすがに姫殿下にそんなことをしたら、大ごとになるのではないか?」
「それはどうだろうエファリス。バグスリー公爵家やナインツ男爵家とか超脳筋な子らも通うことになるだろうし」
エファリスが心配そうな声を上げたが、アーリンが即座に不安になるようなことを言いだす。と、いうか超脳筋というのは一体どういうことなのだろう?
「ちょう……のうきんでつか?」
「はい、姫様。エファリスは脳筋なのは間違いないのですが、それを超える脳筋貴族と噂される者達がいまして……バグスリー公爵家の派閥は特に脳筋の中の脳筋とも茶会で噂の者達なのです」
「セーラだって、魔法が苦手な脳筋タイプじゃないか。と、いうか……近衛騎士に入らないとか、驚いたくらいなのに」
近衛騎士というのは基本的に脳筋タイプの人間がなるということなのだろうか?
そう思っていると、メイヤがエファリスの言葉を否定する。
「私は脳筋タイプなんかと違う。特に私は魔法の方が得意だし」
「あら、私も脳筋タイプとは程遠いところに生きているのだけど」
「めいやとさしゅえるはまほうがとくいなんでつね」
「そうですよ。エファリスとセーラが前衛、私は支援でメイヤが後衛なのです」
前世で言えば私とマルキュリオスがエファリスとセーラ、ハンナがサシュエル、バーナンキ老師がメイヤというポジションだと私は考え、納得する。
納得すると同時に懐かしい思い出に少し羨ましく感じる。
私にもそういう友達がこの世界でも出来るだろうか?
主人公(脳筋)「前衛ってことは魔法が苦手なんだよね」
エファリス「苦手といえば苦手ですね」
セーラ「まぁ、そうですね」
主人公(脳筋)「…………」
脳筋が仲間に入れて欲しそうに見ている!?
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