次期宰相とまで言われる姉の姿を見ながら、自身の主が学ぶ姿を見つめる。
普段とは違うことが今日は色々とあって、姫様は困惑の色を隠せずに注意力も散漫で完全に姉の講義は耳に入っていなかった。
姉は「今日はここまで」と言って、自身の用事が終わるまで姉の娘であるシルフィリンドと時間を過ごすようにと部屋を出て行く。そこまでは別によかった……シルフィリンドが何やら姫様を睨んでいた程度の話だ。
彼女も少し人と変わっていて、気難しいところがあると、家人には聞いていた。
しかし、目の前で彼女達が交わす会話は二歳児とは思えない会話であった。確かに拙い言葉を一生懸命に喋ろうとしている姿は微笑ましいところもあるが、どう考えても可笑しいのだ。その会話内容も意味不明だ。
「わたしには、もくひょうがあるの。あるひとをすくわないといけない……だから、もっとかしこく、もっとつよくなる。そのためならがまんできるし、ほんねをいえば……さびしいけど、がまんできる。でも、わたしからいろんなものをうばっていくあなたはゆるさない」
そんな姪が不穏なことを口にして、私は急いで主を守る為に彼女の前に身を乗り出す。
しかし、姫様は落ち着いた雰囲気で優しく私に言ったのだ。
「いいの、せーら。たぶん、しるふぃりんどはあたしのことをわかってくれるから……それと、これからいうことは、だれにもいわないで……」
姫様は誰にも言わないで欲しいと私に言う。
何を? 何が? 今日はシルフィリンドが来てから、何から何まで本当に訳が分からない。
「あたしは、めがみらみりあのかごをもち、ぜんせのきおくをもっているの。あなたがあたしのしっている……かのじょであれば、きっと、そのすくいたいひとっていうのはあたしのことじゃないかな?」
「え……う、うそ……あしゅたりあ?」
子供たちの不思議なやり取り……いいえ、どう考えても二歳児の演技や妄言では無い。彼女達は真実を語っている。私にはそうとしか思えない重い空気がそこにあった。
そして、彼女達は私にこれまでの経緯を説明してくれた。
姫様は前世では女神ラミリアの加護を受けた勇者で、この世界にもあるような英雄譚や御伽噺に出てくる魔王を倒す為に幼いころより旅にあけくれ、魔王を倒したらしい――でも、それがきっかけで人々に怖れられ、化物扱いされたそうな。と、いうか……こんな可愛らしい姫様に対してなんて不敬な。
でも、姫様は「あたちがわるかったの……」と、悲しそうに言った。
そのお姿はなんとも儚く、私はあまりの可愛さに抱き付いてしまいたくなるくらいだった。と、いうか抱き付いて撫でまわして、ペロペロしたい! と、まぁ、そんなことは置いておいて。
姫様は女神の加護を返して服毒自殺をして、この世界に転生されることになったらしいが、正直言って、あまりの急展開によく分からなかった。しかし、それも女神様のご配慮というヤツなのだろう。
元々、姫様は二歳児にしては落ち着き過ぎているとは思っていた。
大人しい子供なのだろうと、考えていたけれど剣の扱いにしても妙に上手く変わったクセを持っていたのも勇者として長い時間、剣を振っていたからなのだろう。
あの溢れんばかりの魔力量も世界中の人々が化物と恐れたという力が影響しているのかもしれない。幼くしてそれだけの力を感じるのだ……これから、どんな風にご成長なさるのか想像するだけで、私は涎が……い、いや、そうではありません。楽しみなだけです!
その後も、姫様とリンダは楽しげに話をしていた。
本当にその時はこれぞ、二歳児! と、思ったなんて口が裂けても言えません。
素の姫様があのように楽しそうに大声で笑うなんて、本当に驚きです。
いつも、大人しい雰囲気の彼女とはまるで違う――剣の稽古の時は少しその片鱗はありましたが、本当に魅力的な笑顔で私はずっと心を許されていなかったのかと、少し寂しくもありました。
が、姫様はそんな私の気配を察したのか――
「せーらだけは、はなちてもだいじょうぶだと、おもってたの。だって、もっともしんらいしているもの」
と、仰ったのだ。
ああ、なんて罪深い姫様なのでしょう……もとから一生ついて行く気は満々でしたが、改めて姫様に忠誠を誓いましょう!
そして、姉上が戻って来たとたん、姫様とリンダが部屋を出て行く時とは真逆の状態であったことに目を丸くして驚くのであった。
常に冷静を努めている姉があのような驚き方をするのだと、少し新しい発見に私は心の中でニヤリと笑うのです。誰にも今日の事は話す気はありません……バレると後が恐ろしいですからね。
姉も私の気配に気が付いたのか、キッと冷たい視線を送ってきます。
わかっていますよ、おねえさまと視線を返すと咳払いをひとつして「レディとしてはしたない笑い方をしてはいけません」と、姫様達に注意をするのでした。
姉上達を見送った後、姫様が私のスカートの裾を引っ張るので「どうしたのですか?」と、聞くと悪戯っぽい顔で「ありがと」と、言ってくれたのです。
それはもう! 思いっきり跪きました。
「ああ、我が君。何も言わなくてもセーラは一生姫様の味方ですよ……姫様の敵は全て私が打倒しましょう! いいえ、倒せなくても肉壁には使えるでしょう、存分にお使いください!」
「い、いや、にくかべはいらないでつ……それににくかべになったら、ぶじじゃすまないでつ」
と、心配してくれたのです!
ああっ、なんとも幸せな! これはとりあえずエファリスに自慢せねば、姫様超可愛かったと自慢せねばなりません!!!
「せーら、たのみごと……しても、いいでつか?」
今日の姫様はとても頼み事を沢山してくれます。普段の姫様からすれば、運泥の差です。 当然、私は二つ返事で了承します。
私本人が動くわけには行きませんが、近衛の伝手を使って存分に探りを入れましょう……もしかすると、この国に不和を齎している原因も姫様の心配事に入っているのでしょうから、私はさらなる鍛錬も含めて姫様を守っていけるようにならなくてはなりません。
小母上にも相談しましょう。
剣だけなら――私だって、誰にも負けはしませんよ。
それだけの修業は積んできたのですから、我が主の敵を全て、我が主の不安全てを払ってさしあげましょう。
私は再び心に誓うのでした。
セーラ(脳筋)「さぁ、頑張って超絶肉壁に進化するわっ!」
主人公(脳筋)「私も超絶脳筋に進化するっ!」
リンダ「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ジー(´・ω・)´・ω・)
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