週が明けて、キモイ兄のいない日常が戻ってきた。
少し可哀想だとは思いけれど、私達にはどうすることも出来なかったので口出しすることも出来ず、あっという間にジェーンはしょんぼりと俯き加減で学園都市へ戻って行った。
「いつも思いますが愛の重い人達ですこと……」
と、呟いた兄嫁であるティーニフュルムの言葉が私の頭の片隅に引っかかる。
どこか寂しそうでありながら、愛のある雰囲気の発言だったので特に印象深かったのだ。
兄夫婦も両親同様にかなりのすったもんだがあったのだとセーラから聞いた。
クリスお兄様のティーニフュルムへの愛もかなり重いというか病気レベルな好き好きモーレツアタックで数年それを無下に蹴り続けたティーニフュルムも凄いのだが、彼女がいなければ、その愛がリザと私に向いていたかもしれないとセーラに言われた時はドン引きした。もう、すっごいドン引きした。
ともかくである。
今度、大規模な次兄とバグスリー公爵令嬢とのお見合いパーティーが催される流れになった。ちなみに私とリザはお留守番確定で私はホッとしている。公式のパーティーなどに出席できる年齢が決められているからなのだ。
当日、リザと私には別で何か違うイベントがあるようなことをお母様に言われたが、何か聞こうとしたら「秘密よ♪」と、答えられそれで終わった。ハッキリ言って頑張って聞いても教えてくれそうに無かったからだ。
そして、今日は午前中いつもの剣のお稽古をして、午後からはマリアンヌに新しい勉強を教えて貰う予定になっている。
正直、まだ文字などは簡単な読み書きは別の先生に教えて貰っている。しっかりと読み書きが出来るようになるのはとても楽しいのだけれど――苦手な算術や小難しい勉強をマリアンヌから教わると聞いていることについては非常に複雑である。
「アイゼンクローネ殿下は本日心ここにあらず……ですね。もう少し集中しませんと、型が崩れています」
そう言ってリスティアは仕方ないという風に小さく溜息を吐く。
「でも、わたちはさんじゅつがいやなのでつ……」
「殿下、いけませんよ。算術はとても大事な学問です。特に剣の道でも魔術の道でも必要になる知識です。強くなられたいならば、ある程度は覚える必要がございます」
予想はしていたけれど、リスティアの発言で確信に変わっていく。この世界においては魔法――魔術の術式構成というのはイメージなどでは無く、複雑な理論によって成り立っている。あと、セーラから少し聞いている剣技と呼ばれる魔力を使った技術にも魔法の術式理解というのが必要なようなのだ。
セーラやエファリスが魔法は苦手だと言っていたが、出来ないとは一言も言っていないのがよい証拠なのだ。
「そのような顔をなさってはいけません。ひとつ良いことを教えてあげましょう」
そう言ってリスティアは鉄製の槍を数本取って来て、無造作に訓練場の地面に突き刺していく。
「なにをしてるのでつ?」
「見ていてください。地面に突き立った鉄の槍を剣で簡単に斬る方法です」
彼女はそう言って訓練で使用する剣でひょいと鉄の槍を斬ってしまう。
しかし、ある程度の剣速とコツがあれば、出来るのでは無いかと私は思う。前世の私であれば、正直余裕で出来る自信がある。
「殿下は力があれば、簡単に出来るというお顔をされていますね。これはそうではありません。斬りやすい角度というモノが存在するのです。ある程度の剣速は必要ではありますが、人並みの剣速でも刃を入れる角度さえ分かっていれば――ほら、こうすることが出来るのです」
と、彼女は簡単に鉄の槍を斬り折る。
「これは鎧や人体、魔獣などにも通用します。肉を斬り裂きやすい角度、骨を斬り裂く角度なども存在します。身体でなんとなく覚えているだけと、知識として分かっていて出来るのとでは心構えが変わります」
「な、なるほど……」
「算術など完璧に出来る必要は無いのです。そういうことはマリアンヌのようにそれが得意な者に任せればよいのです。ただ、人並みには出来て当然ということもありますから、そこは上を目指されるのであれば、強くなりたいのであれば頑張る事です」
そう言うリスティアを見ながら私は前世の老師を思い出していた。
私が魔法を覚え始めたころ、魔力の扱いに苦労していた時だ。
イメージ通りに魔法を発動させるためには魔力を巧くコントロールする必要があった。内なる自分の中に蠢く何かを動かすという行為がイマイチつかめなかった……その時に老師は言った。
「強くなりたいのだろう? この世界を救うのだろう? 女神に誓ったのだろう? ならば、強くなるために頑張らねばならぬのでは無いか?」
老師の修業は本当に厳しかった……死にそうな思いをすることも幾度もあった。でも、彼のその言葉があったからこそ、出来たのだと思っている。
今回も似たような気持に私は心を動かされている。
そうだ、完璧じゃなくってもいいハズだ。リスティアは言った――人並みに出来ればよいのだと。
「あり……た、たすかった」
「はい。殿下が私の言葉で救われたのならそれで結構です。では、もう少し身を入れてお稽古をいたしましょう」
「あいっ!」
そして、午前中は楽しく剣の稽古で汗を流したのだった。
昼前に汗を流し、着替えを済ませて昼食を取る。この日、両親は公務で忙しいらしく、長兄夫婦も不在でリザと二人で食べ、広いテーブルに二人しかいないのも何だか寂しいと二人で話していると、リザがジェーンと二人で食事をしていた時もあったと思い出話を披露してくれたりしながら、お昼のひと時を過ごす。
午後となり、マリアンヌが待つ勉強の為に抑えられている部屋へ向かう途中で同じ年くらいの女の子と出会う。
「こんなところで……だれでつか?」
この城のこの区域では普通、これくらいの歳の子供がいることなど普通は無い。そして、この目の前にいる女の子は私を見たとたんに強い嫌悪感を見せて目に涙を溜めはじめる。
私は一体何が起こっているのか分からずに戸惑うが、傍に控えるセーラはあまり驚いた表情はしていなかった――しかし、次の瞬間に驚愕の表情を浮かべることになる。
ペチンッ!
「あなたなんて……だいっきらい!」
私は何が起こったのか全く分からなかった。そして、セーラもあまりの出来事に言葉を失ってパクパクと口を開け広げしている。
「ど……どうちて……」
私は精一杯の言葉を口にする。
でも、目の前の彼女は何も言わずにトテトテと歩き去って行こうとするが、すぐに躓いて転倒してしまう。
「シ、シルフィリンド!? だ、大丈夫!?」
と、声を出したのはセーラだった。
い、いったいどういうことなの? と、私は混乱する一方であった。
主人公(脳筋)「だ、誰なのー!?」
セーラ「シルフィリンドたんでちゅよー」
主人公(脳筋)「だから、だれなのー!」
セーラ「(´・ω・`)」
主人公(脳筋)「そんな顔してもダメー」
えー(´・ω・) (・ω・ )だめでつよ
読み終わったら、ポイントを付けましょう!