異世界転移で無双したいっ!

チートなし。少年よ、絶望に染まれ。
朝食ダンゴ
朝食ダンゴ

公開日時: 2020年11月7日(土) 14:41
文字数:7,436

 少し遅めの昼食を終えたカイトは、部屋の窓から見える景色を飽きることなく眺めていた。

 用意された個室は二十畳程度。一人では些か持て余すくらいの広さだ。調度品は最低限で、ベッドとサイドテーブル、食卓にチェスト、それに燭台らしき器具がいくつかあるだけ。板張りの床と青い壁紙の組み合わせは、日本では見慣れない色合いである。壁に設置された暖炉は、寒くなるまでお役御免のようだった。

 窓から見えるデルニエールの街並みは、何から何までカイトがイメージする中世ヨーロッパ風なファンタジーそのままである。

 木造やレンガ造りの建築物が混在し、街路樹を等間隔に置いた街並みは清潔感に溢れている。老若男女が活気よく行き交い、商人が客引きの声を張り上げ、厳めしい衛兵が目を光らせている。街の人々が挨拶を交わし合う様子は、現代日本よりも遥かに温かな世間に思えた。

「やっぱり、珍しいものなんですか?」

「ん、まあね。珍しいっていうか。初めての体験っていうか」

 ヘイスの声で我に返ったカイトは、部屋の中央に鎮座する食卓につく。向かいの席にちょこんと座るヘイスを見ると、不思議と気分が落ち着いた。

 白いブラウスと膝丈のスカート。当たり前だが、ヘイスの装いは戦場で出会った時とは違う。革鎧から一転、素朴な少女らしさを感じさせる服装は、彼女の熟しきらない可憐さを際立たせていた。栗色の瞳と髪。何度見ても、カイトはヘイスに亡き妹の面影を重ねてしまう。

「ひとつ聞きたいんだけど」

「はい! 何でも聞いてくださいっ」

 役に立てることが嬉しいのか、ヘイスは握りこぶしを作って元気のいい声をあげた。

「どうして魔族と戦争を?」

 これはなんとなく思い付いただけの、興味本位の質問だった。

 人間と魔族が争っているということ自体に疑問はない。こう言ってはなんだが、ファンタジーの世界観では人間と魔族の戦争などよくある話だ。けれど、その原因には少なからず好奇心がくすぐられる。

 ヘイスはきょとんとした表情でカイトを見つめてから、思い出したようにぽんと手を合わせた。

「そっか。それもご存じないんですよね」

 テーブルに目を落とし、彼女はうーんと考え込む。

「どこからお話ししましょうか。カイトさまは、灰の乙女についてはお聞きになられましたか?」

「灰の、乙女?」

 慣れない敬称にむず痒い思いをしながら、カイトは腕を組んだ。

 灰の乙女というワードには、思い当たる節がある。

「この世界の調律を司る女神様が、人の身をとって現世に具現された姿です」

「女神だって?」

 半ば無意識のうちに口を開いていた。

 おそらく、いや、十中八九間違いない。灰の乙女とは、カイトが出会ったあの女神のことだ。一面灰色の景色に一人立つ彼女の姿を思い出す。なるほど、確かに灰の乙女と呼ぶに相応しい。

「はい、女神様です。えっと、女神様っていうのは、わかりますよね?」

「……ああ。それはわかるよ。ごめん、続けて」

 とにかく今は最後まで話を聞くべきだ。

「一から説明させて頂きますね」

 そう前置きして、ヘイスはこほんと咳払いを漏らす。

「灰の乙女は、尊いお役目を果たしておられます。灰の巡礼といって、世界のマナのバランスを保つために休むことなく世界中を巡られているんです」

 そう聞くと大変そうな役目に思えるが、女神からすれば世界中を巡るなど容易いのだろう。そうでなければ、休息もなく旅を続けるなんて身も心ももたない。

 そんなカイトの感想は、続くヘイスの言葉によって覆された。

「ですが、乙女はもう何年も旅をせず、王都の神殿で休養をとられています」

「そりゃまた、どうして」

「巡礼中に魔族に襲われたんです。彼女はなんとか助かりましたが、お供の騎士を失ってしまいました。傷付いた乙女は、助けを求めてこの国に辿り着き、それ以来神殿で傷を癒しておられるんです。それが、えっと……たしか五年くらい前の話だったかな?」

「傷を癒す、ねぇ」

 五年も経てば完治しているのではないか。この世界には治癒魔法という医者要らずの便利なものがあるというのに。

 体ではなく、心の傷だろうか。トラウマを持つ女神というのも想像しにくいけど。

「じゃあ、その時から戦争が始まったってわけか」

 乙女の命を狙う魔族と、それを守ろうとする王国の戦い。女神を巡って種族間の争いが勃発したとなれば、十分理解できる話だ。

 わかったような気になったカイトであったが、ヘイスはふるふるを首を横に振った。

「そういうわけではないんです。乙女が保護されてからしばらくは平和でした」

「そうなのか?」

 ヘイスは頷く。

 だったら今までの話は何だったのだろう。灰の乙女が襲われた一件が戦争の直接的な原因ではないとするならば、引き金となったのは一体何なのか。

「戦争が始まったのは、魔王のせいです」

 ヘイスの口から出た言葉に、カイトはさほど驚かない。ファンタジー世界において、それはあまりにも陳腐な単語だった。

「魔王」

「そうです。魔王です」

 語気を強くするヘイス。カイトは顎に手を当てる。

「ちょうど一年くらい前です。魔王は何の前触れもなく、この国に宣戦布告の書状を送りつけてきました。戦争が始まったのは、それからです」

 女神の次は魔王ときたか。カイトにとっては慣れ親しんだ、まさにファンタジーの定番ともいえる役者達。女神の加護を享けた勇者が、人々を苦しめる魔王を討つ。カイトの頭に浮かんだそれは、まさに王道というに相応しいシナリオである。手垢がつきすぎた筋書きとも言えるが、王道が王道である所以は人の心を打つに効果的であるからだ。

 正義の勇者が悪の魔王を打ち倒す。カイト自身、そんなわかりやすいストーリーに憧れた少年の一人である。

「強い魔王が生まれたもんだから、調子に乗って戦争を仕掛けてきたと」

「そう考えるのが自然だと思います。っていうのも、カイトさまが戦ったあの黒い獣。あれは魔王が生み出したものなんです。次から次へと湧いて出てくるあの獣のせいで、ボク達の前線はどんどん後ろに追いやられています。不落の要塞と言われたモルディック砦も落ちてしまいましたし、これから先どう戦えばいいのか」

「そんなにまずい状況なのか?」

「デルニエールが落ちたら、あとはもう王都だけです。他は小さな町や村ばかりで、戦う力はほとんどありませんから」

「それはやばいな……」

 どこか他人事のように呟くカイトであったが、危機感を覚えない理由は異世界人だからというわけではない。

「その割には、街の人達は普通に暮らしてるけど」

 窓の外に目をやって、カイトは眉をハの字にした。

 魔族が目の前まで迫っているというのに、デルニエールの街は平和そのものだ。襲撃を恐れる人もいなければ、戦おうと奮起する者もいない。

「公爵様が緘口令を布かれているんです。むやみに民の不安を煽ることのないように、と」

「誰も知らないってのか」

 カイトの表情が途端に険しくなった。

 なんと無責任な領主だろうか。隠してどうにもなるようなことでもあるまい。ここまで来たら、むしろ事実を公開して民衆を王都に逃がすべきだ。そうすれば、無力な住民の命も救われるし、気骨ある者が街を守ろうと軍に志願するかもしれない。

「その公爵とやら、とんだ大バカ野郎だな」

 名声と権力者というものは、どうしていつもこうなのか。民衆の為と口にしながら、腹の中では自身の保身しか考えていない。

「カイトさま、しーっ!」

 ヘイスが慌てて人差し指を立てたのを見て、カイトは知らず声を大きくしていたことを自覚した。ヒートアップした頭に手を当て、努めて冷静さを取り戻す。

「悪い。口が滑った」

 別に権力者に恨みがあるわけじゃない。でも、こんな状況になってまで何も知らされない人々のことを思うと、不思議と怒りが込み上げてきた。誰かの為に戦うと決めたカイトにとって、誰かとは特定の人物を指すのではない。顔も名も知らないとある一人も含まれるのだから。

 きょろきょろと部屋を見回して、ヘイスは薄い胸に手を当てた。

「びっくりしたぁ……分かってはいましたけど、カイトさま。なんていうか、こわいもの知らずですね」

「気をつける」

 今の発言がまずかったというのは流石のカイトにも理解できる。ともすれば不敬罪に問われるかもしれない。カイトのイメージでは、異世界の貴族とは得てして傲慢な人種であるが故に。

 ともあれ、なんとなく現状は把握できた。

 さしあたってやるべきは、この国を魔王の脅威から救うことだろう。あの女神もそれを望んでいるに違いない。カイトが異世界に召喚されたのは、きっとこの世界を救う為なのだ。

 だが、マナ中毒をどうにかしないことにはそれも叶わない。まずはカイトの脆弱な体質を改善するところから始めなければならない。それについては改めて話をするとリーティアが言っていたが。

 カイトはテーブルをコツコツと叩いて腕を組む。こうやってのんびりしている暇なんてない。今すぐにでも動き出したいもどかしさが、カイトから落ち着きを奪っていた。

「あのさ、ヘイス。灰の乙女に会うことってできるのか?」

「それは」

 口籠ったヘイスは、目を丸くしてカイトの顔を見つめる。

「難しいと思います。乙女への拝謁を許されるのは、王家の方々と最高位の神官だけです。ボクも実際に乙女のお姿を目にしたことはありませんし」

「将軍に頼んでも無理かな? あと、リーティアさんとかさ」

「どうでしょう……? クディカ将軍もフューディメイム卿も立場をお持ちですが、乙女に拝謁を許されたことはないと思います。仮にあったとしても、カイトさまを取り次ぐことは、その、厳しいのではないでしょうか」

 徐々に声を小さくしながら言ったヘイスは、どこか申し訳なさそうな顔をしていた。カイトの望みが叶わないと告げるのが心苦しいのだろう。ヘイスに責任があるわけではないなのだから、気に病むことはあるまいに。

「そう簡単には会えないか」

 召喚しておきながら甚だ無責任だ。女神なんだったら念話の一つでも寄越してほしい。あんな過酷な戦場に放り出されてそのまま放置なんて、流石に薄情過ぎる。

 部屋には沈黙が訪れた。

 テーブルを挟んだカイトとヘイスは、それぞれの様相でじっと時が経つのを待つしかなかった。

 快適な部屋を与えられたのは幸運だ。だが時間を浪費するのは我慢できない。なんせ余命数日なのだ。焦るなという方が無茶な話だろう。

 会話がなくなると、少しずつ焦りと苛立ちが募っていく。それだけではない。死の恐怖は刻一刻と迫っている。

 いくら修羅場を潜り抜けたといっても、カイトは精神的に未熟である。湧き上がる不快な感情をコントロールできるわけもない。

「あのっ、カイトさま。お水、いかがですか?」

 場の空気に耐えられなくなったのだろう。ヘイスがおずおずと、卓上の水差しを手にしてぎこちない笑みを浮かべる。

「いや、いい」

 別に喉は渇いていない。ぶっきらぼうになってしまったことを自省しつつ、カイトの表情は固いままだった。

「はい……すみません」

 目を伏せて水差しを置くヘイス。

 彼女なりに気を利かせてくれたのだろう。けれど今のカイトにそれを受け入れる余裕はなかった。

 つい先ほどまでは生き残ったことや勇者と称えられたことに舞い上がっていたはずなのに、その前向きな感情は見る影もない。

 人の心とはどうしてこうも不安定なのか。その時々の状況や環境に紛動され、投げかけられた言葉に影響され、留まることなく流転する。浮き沈みの激しい自身の心に振り回され、払拭しようのない自己嫌悪に引き摺られていく。

 ふと、テーブルに落としていた目線を上げると、向かいに座っていたヘイスがいなくなっていた。

「あの、カイトさま」

 いつの間にかすぐ傍に立っていたヘイスに些か驚いたが、彼女の不安げな表情を見てすぐに居住まいを正した。

「ボクはカイトさまのお世話を任されました。正式な身分ではありませんが、カイトさまの従者になったつもりです。ですから、なんでもお申し付けください。カイトさまが元気になるなら、ボク、なんでもさせて頂きます!」

 ヘイスはその場に跪き、カイトを見上げる。潤いのある栗色の瞳には、確かな想いが込められていた。

 飾り気のない率直な言葉。だからこそ、カイトの心を強く打つ。

 カイトはヘイスの命を救った。それは見返りを求めたからではない。目の前の一人を命がけで助けることを、自身の戦いの理由としただけだ。

 けれどヘイスにとってそんなことは関係ない。カイトは紛れもなく命の恩人なのだ。

 どちらの想いも純粋であるが故に、ヘイスの想いは真っすぐカイトに伝わった。

「ヘイス」

 カイトは自らを恥じた。強くなると決意した、その舌の渇かぬうちから弱気になっていた。そのことに気付けたからには、気合を入れ直し、改めて決意を固めるしかない。

「ありがとう」

 ヘイスが鏡となって、自身の弱い心を映してくれた。年下の女の子の励まされるのは少しだけ気恥ずかしかったが、それ以上に嬉しさがこみ上げた。ここまで自分なんかのことを考えてくれるなんて、なんていい子なのだろう。ここまで思われる自分は、なんと幸せ者なのだろう。

 栗色の髪に覆われた小さな頭を、カイトは優しく撫でていた。

 そう、ついうっかり。

「あ」

 体に染みついた癖というのは厄介なものだ。無意識の行為であったが、この状況でそれがどんな意味を持つのか、カイトにとっては既知だった。

 ヘイスの顔は真っ赤に染まり、目を丸くして唇を引き結んでいる。

「今度は勘違いじゃ、ありませんよね……」

「いや、あの」

「カイトさまがお望みならっ。ボクも、その……やぶさかではありませんっ」

 俯いたヘイスの視線が、部屋のベッドにちらりと向けられる。

 まずいことになった。非常にまずい展開だ。

 正直、カイトにそんなつもりは毛頭なかった。まさかこんなことになるなんて。

 いや待て。よく考えてみよう。何か問題があるだろうか。

 いいじゃないか。合意の上だし。十二歳だけど、この国ではもう立派なレディーだ。こんなかわいい子がなんでもしてくれるって言ってるんだから、遠慮なんてすることはない。

 けど、妹の面影と重なる子とそういう関係になるのはいかがなものだろうか。

「カイトさま……」

 ヘイスは頭に乗ったカイトの手を取り、その指に口づけをした。

 どうしてこんなに緊張するんだ。まだ剣を取った時の方が気楽だったかもしれない。

 こうなってしまっては、下手にごまかすのもヘイスに失礼だ。というより、カイトの理性が耐えられない。控えめな胸の膨らみや、スカートから伸びる細い脚線。幼げな唇はやけに煽情的だ。今までは気にも留めなかったヘイスの色気の片鱗が、カイトの意識を満たしていく。

 明日も知れない身で無責任かもしれない。けど彼女との関わりが傷んだ心を癒すというのなら、ありがたく好意を受け取りたい。

 カイトはヘイスの腕を掴み、自分と一緒に立ち上がらせる。

 頬を紅潮させたヘイスが、上を向いて目を閉じた。この世界でも、最初はキスから始めるものらしい。

 心臓が割鐘のように鳴り響いている。緊張と興奮で固くなりながら、ヘイスの華奢な肩に手を置き、カイトはゆっくりと唇を近付けた。

 途端。

 視界が白く染まった。平衡感覚が消滅した。

 目の前で明滅する少女の顔。

 ヘイスではない。

 ソーニャ・コワールだ。

 それを認識した時、カイトの感情は瞬時にして反転した。

 蘇る恐怖。痛み。妖艶で残酷は笑みは、カイトの心を攪拌する。

「カイトさま?」

 治ってなんかない。肉体の傷がどれだけ癒えようとも、精神に刻まれた傷痕はあまりにも深い。

 カイトはその場に崩れ落ち、全身を震わせていた。

「カイトさまっ……カイトさま! 大丈夫です! もう大丈夫なんです!」

 ヘイスの細い両腕が、カイトを抱きしめる。

 優しいはずの抱擁。その感触は、この体を握り潰した巨人の手を連想してしまう。

 情けない叫び声をあげ、ヘイスを振りほどく。床に尻もちをついた彼女を気に懸ける余裕もない。容赦なく押し寄せる記憶の波濤が、カイトの精神を削り取っていく。

「何事ですか」

 扉を開いたのはリーティアだ。早足で入室した彼女は、息を荒げてうずくまるカイトを見とめて緋色の目を細くした。

「ヘイス。一体何があったのです?」

「フューディメイム卿。ボク――」

 ヘイスには心当たりがあった。カイトがソーニャに何をされたのか、その一部始終を目撃していたからだ。ヘイスとの関わりが引き金となってカイトの記憶を刺激したのだと、直感的に理解していた。

「何も考えずに、カイトさまに酷いことを」

 動揺したヘイスの様子に、リーティアも察したようだった。

「戦場での記憶が蘇ったのですね。致し方ありません」

 彼女の足下に小さな魔法陣が生まれる。ルーン文字と幾何学模様で描かれた翡翠の輝きから、同色の粒子が浮かび上がり、風に流されるようにしてカイトの体を包んでいった。

 恐慌状態にあったカイトは、粒子に包まれた瞬間、電源が落ちたように気を失い、その場に伏してしまう。

 倒れた彼の姿に異常がないことを確認すると、リーティアは小さな吐息を漏らした。

「効果覿面ですね」

 簡単な入眠魔法で瞬時に寝入ってしまうとは、改めてカイトの魔法に対する脆弱さを思い知る。

「大丈夫、なんですか?」

「ええ。一時的なものですから」

 実のところ、カイトの錯乱についてリーティアはそれほど心配していなかった。戦場の悲惨を経験した兵士が、ふとした拍子にトラウマを思い出す。そんな例は数えきれないほど見てきたのだ。

「さぁ、カイトさんをベッドに運びましょう。ヘイス、手伝って」

「は、はいっ」

 二人に抱え上げられたカイトは、眠りに落ちたままベッドの上に移された。その寝顔を心配そうに見つめるヘイスの肩を、リーティアがぽんと叩く。

「ほら。そんな顔しないで。目が覚める頃にはきっと落ち着いています」

「はい。ありがとうございます」

 尚も悄然と俯くヘイスに、リーティアの眉も下がってしまう。

「ところでヘイス。彼があんな風になった原因は、何だったのです?」

「ええっと、それは」

 ぎくりと肩を震わせ、口籠るヘイス。それでも言わずに済ますことはできないと思った彼女は、何度か口をぱくぱくさせてから、ようやく声を絞り出した。

「その……キス、です」

「キス? 口づけですか」

 リーティアの視線がカイトの唇に向けられる。その瞳はあくまで真剣であり、茶化すような雰囲気は微塵もなかった。

「詳しく聞かせて頂けますか?」

 ヘイスは小さく頷いてから、カイトとソーニャの戦いの顛末を語り始めた。

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