冒険者ギルドにて、白銀草の採取とゴブリンの討伐を報告した。
そして、昼間に絡んできた2人組の先輩冒険者がまた絡んできた。
「おうおう、ゴブリンの群れを討伐したくらいでいい気になるなよ?」
「ギャハハハハ! 新人がまぐれで活躍することもたまにはある。だが、それがいつまでも長続きすると思うなよ」
ううむ。
いかにも、チンピラといった感じの雰囲気だ。
しかし、言っていることをよく整理すると、意外にスジは通っている。
昼間もそうだった。
ひょっとして、純粋に後輩である俺の身を案じてくれているだけなのか?
「ご忠告ありがとう。せいぜい、気をつけて励むことにするよ」
俺はそう言う。
俺は剣術と火魔法の心得があるし、サリーナという頼りになる仲間(怨霊だけど)もいる。
ちゃんと気をつけていれば、大きな危険に見舞われることもないだろう。
さらなるリスクヘッジのために、パーティメンバーを探してみるのもありだ。
裏切らないパーティメンバーとして、奴隷を購入するのもいい。
今は金がないのでムリだが。
「おうおう、自信過剰な新人はみんなそう言うんだ」
「ギャハハハハ! 俺たちで、今度こそ稽古をつけてやるぜ。来な!」
2人組がニヤニヤ笑って、俺の肩に手を回す。
たぶん悪い人ではないようなのだが……。
ちょっとおせっかいだな。
別に少し付き合うぐらいは構わないが……。
「うふふふふ。また、私のダーリンにベタベタ触れたわね。お前たちに、災いあれ!」
サリーナがそう叫ぶ。
とはいえ、聞こえているのは俺だけのようだが。
「おうおう、ボサッと立ってねえで修練場のほうに行くぜ。……うぐっ!?」
「ど、どうした相棒!? ぐおっ!?」
2人が、それぞれ胸を押さえて倒れ込む。
昼間にも見たような光景だ。
「(サリーナ……。やりやがったな)」
俺は小声で、サリーナを問い詰める。
「だ、だって! こいつら、私のダーリンにベタベタ触るし……」
「(別にここまでする必要はなかっただろ? たぶんそれほど悪い人たちではないし……。むしろ、こっちが悪人になった気分だよ)」
「う、うう……。ひどい……。ダーリンのためにやったのに~! びえーん!!!」
サリーナが泣き崩れる。
少し言い過ぎたか?
彼女がここまでやったのは、嫉妬心だけではなく、俺の身を案じる気持ちもあっただろう。
「(お、落ち着け。な? 俺も言い過ぎたから……)」
「びえーん! うわーん!!!」
俺は彼女をとりなそうとするが、彼女は我を忘れて泣いている。
俺の言葉が届いていない様子だ。
瘴気が増して、ずいぶんと怖い顔つきになってしまっている。
そしてーー。
「うっ!? 何やら寒気が……」
受付嬢がそう言う。
顔色が少し青くなっている。
「がっ!? な、何だこれは……?」
「ぐむっ!」
周囲にいた無関係の冒険者たちも、次々と倒れ込んでいく。
これは……。
サリーナの瘴気が暴走して、無差別に人を襲っているようだ。
サリーナの何とかして落ち着かせないと。
しかし、彼女は我を忘れて泣いており、俺の言葉は届いていない。
かくなる上はーー。
チュッ。
俺はサリーナを抱きしめ、キスをした。
彼女は驚愕し、瞳を大きく見開く。
瘴気によって歪んでいた顔つきが、もとのかわいい顔つきに戻っていく。
俺は彼女が落ち着いたのを確認し、口唇を離す。
「ダ、ダーリン!? いきなりキスするなんて、もう!」
サリーナが体をクネクネさせ、そう言う。
顔が赤くなっている。
照れているようだ。
「サリーナに怖い顔は似合わない。ずっと、そのかわいい顔でいてくれ」
俺はキメ顔でそう言う。
彼女はかわいい。
しかし、嫉妬などによって瘴気が増幅してしまったときは、歪んだ怖い顔つきになる。
何とか、平常時のかわいい顔を維持してもらいたいところだ。
「うふふふふ。わかったわよ、ダーリン。気をつけるわ」
サリーナがそう言う。
ふう。
これにて一件落着だ。
そう思ったがーー。
「…………どうすんだ、これ」
俺は冒険者ギルド内の大惨事を見て、そうつぶやく。
サリーナの瘴気を受けても、幸運なことに死人は出ていないようだ。
しかし、泡を吹いて倒れ込んでいる人、青い顔でうずくまっている人、虚ろな顔でブツブツつぶやいている人などが多数いる。
これはマズイかもしれない。
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