冒険者ギルドで登録を済ませたところ、ガラの悪い2人組に絡まれた。
「おうおう、ガキがいっちょ前に冒険者気取りかよ!」
「ギャハハハハ! お家に帰ってママのおっぱいでも吸っているのがお似合いだぜ!」
俺は声の方向に体を向ける。
2人組がこちらに近づいてくる。
「なんだ、お前らは? 冒険者ギルドはいつからチンピラのたまり場になったんだ?」
俺はそう言う。
冒険者は、やや素行の悪い者が多い傾向がある。
しかし、ここまで露骨なチンピラはさすがにめずらしい。
「おうおう、言ってくれるじゃねえか。ローグイラで俺たちを知らねえやつがいたとはな」
「ギャハハハハ! ガチの素人みたいだな。近隣の農村から出てきたばっかりってところか?」
2人組がそう言う。
「確かに、俺はこの街には昨日着いたばかりだ。しかし、剣術と火魔法の心得はある。心配には及ばない」
「おうおう、口では何とでも言えるわな」
「ギャハハハハ! 俺たちで、いっちょ稽古をつけてやるぜ!」
2人組がニヤニヤ笑って、俺の肩に手を回す。
少し不快だな。
どうあしらおうか。
俺が思考を巡らせているときーー。
「(うふふふふ。私のダーリンに触れていいのは、私だけ……。お前たちに不幸あれ!)」
どこからか少女のささやき声が聞こえた気がした。
「ん? 何か言ったか?」
俺はそう問う。
今の声は、どこかで聞き覚えのある声だ。
確か、昨日の深夜にも聞いたような……。
気のせいか?
「おうおう、だから、稽古をつけてやるって話だよ」
チンピラの1人がそう言う。
この様子だと、先ほどの少女の声は彼には聞こえなかったようだ。
「ギャハハハハ! なあに、悪いようにはしねえさ。……うっ!?」
チンピラのもう片方が、突然胸を押さえて倒れ込んだ。
何やら青い顔をしている。
「ど、どうした相棒!? しっかりしろぉ! ……ぐぅっ!?」
倒れ込んだ相方を案じていた男も、続けて倒れ込む。
彼も同じく青い顔をしている。
「む、どうした? 二日酔いか何かか?」
俺はそう声を掛ける。
苦しそうな様子ではあるが、ただちに命に関わるわけでもなさそうだ。
「(うふふふふ。私のダーリンに触れるからよ。命まで取らなかっただけ、ありがたいと思いなさい……)」
まただ。
また、少女の声が聞こえた。
今度は幻聴じゃない。
……と思う。
いったいなんなんだ?
「もう! アンソニーさんも、グスタフさんも、昨日たくさん飲んでいたからですよ。ちゃんと、お家で寝てください。また奥さんに叱られますよ?」
受付嬢がそう言う。
彼女は、2人組が二日酔いで寝ているように感じているようだ。
おそらく、常習犯なのだろう。
しかし、この口ぶりからするとチンピラどもは結婚済みのようだ。
しかも、意外に家庭では尻に敷かれるタイプか。
見た目と雰囲気はチンピラだが、実際にはいいやつだったりするのかもしれない。
彼らが元気になったら、また話してみるのもいいかもな。
2人組はフラフラと立ち上がり、部屋の隅の椅子に向かっていった。
まだ顔色は青いが、そのうち回復するだろう。
何はともあれ、今は依頼を受注する件だ。
薬草採取か、低級の魔物の討伐か。
ここはーー。
「気を取り直して、さっそくこの薬草採取の依頼を受けたい」
「承知しました。では、処理致しますね」
受付嬢が処理を進めていく。
「念のため確認だが、採取中に魔物と遭遇したら討伐しても構わないのだったな?」
「ええ、もちろんそうです。討伐された魔物によっては素材を買取りますし、討伐証明部位さえあれば討伐報酬が出る魔物もいますよ」
受付嬢がそう答える。
ホーンラビットやファルコンバードなどの肉は、結構うまい。
そこそこの値段で買い取ってくれる。
ただし、人間にとって極端に害のある魔物というわけではないので、討伐報酬は少ない。
逆に、ゴブリンの肉はマズイ。
基本的に買い取ってくれることはない。
ただし、人間にとって明確に害のある魔物なので、討伐報酬はそこそこ多い。
冒険者として食っていくためには、このあたりの差異を理解しつつ、自分の戦闘能力や相性とも相談して方向性を決める必要がある。
まあ、とりあえずは薬草採取をしつつ、低級の魔物と遭遇したら数匹狩ってみる感じでいいだろう。
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