それから数日をかけて、中央広場付近の人はみんな救出しました。中には腕利きの冒険者や衛兵の方がいて、不覚をとった、と悔しがっていました。
お陰様で大聖堂はかなり賑わっています。
私たちは、『彩りパスタ』に集まり、フロストドラゴンに関する会議を開いていました。
「救出した奴らの話を聞く限り、どうやら原因はフロストドラゴンみてぇだな」
「フロストドラゴンについて、解説をお願いできますか?」
「おう。フロストドラゴンは、国が指定するAランクの魔物だ。普段は双子山の兄の方に住んでいて、人里に降りてくることは滅多にないんだがな。この街には過去にフロストドラゴンを倒したことのある奴がいるからな。討伐隊を組むべきだろう」
「フロストドラゴンを討伐すれば、街も元に戻るっすからね」
「……うん、原因はフロストドラゴンで間違いないですよ。占いにもそう出ています」
何やら水晶を見つめながら何やら怪しい動きを始めたエリンさん。と思ったら数秒で動きを止めました。結果が出たのでしょう。
「ドラゴンは何やら怒っているようです。理由まではわかりませんが……人間に対して怒っているようですね……」
「占いって、そんなこともわかるんですか?」
「はい。私の占いは対象の感情や思い、悩みを見抜くのが得意なのですが、相手が相手ですから、感情ぐらいしかわかりませんが……」
「いえ、ありがとうございます」
こうして、腕利きの冒険者たちを集め、フロストドラゴン討伐隊を結成しました。私も、貴重な炎魔法が使える者として、討伐隊に参加することになりました。合計15人ほどの団体で山に向かいます。そのリーダーは……
「レストさんって冒険者だったんですね……」
「はいっす。これでもAランクだったすからね」
レストさんでした。彼は元冒険者だったらしい。しかも、Aランクの。こんな軽そうな雰囲気なのにドラゴン並みに強いなんて、流石に予想外でした。本当にどうしてあのパスタ屋に弟子入りしたんでしょうね。
そして、私のびっくりはこれで終わりませんでした。
「みんな、聞いてくれ。これから双子山に入るが、魔物の生息地帯だ。警戒を怠らないでくれ」
「レストさん……!?」
リーダーを務めているレストさんですが、冒険者さんたちをまとめているときや指示をするときは、口調も声も変わって、誰!? ってなりました。失礼ですけど。
「では、行くぞ」
「は、はい」
私たちは双子山に足を踏み入れました。
双子山は、ガラスを作る材料になる石や、布を作るための糸を出す虫、綿を作る花。などなど素材の宝庫なのだそう。兄山の方が素材が豊富で大量に取れますが、その分危険度も高いらしく、弟山の方が利用される機会が多いそうです。
こうしている今も、複数の魔物と戦っています。噛み付いた箇所を凍らせる狼や、つららを降らせる蝙蝠、踏むと冷気を爆発させる虫、色んな魔物に会いました。どれも初めて見るもので、正直最高にワクワクしています。
「アイシクルバットの群れが見えるな。散らばって各個撃破で行くぞ!」
「はい!」
空を飛び、鋭い針のようなつららを落としてくるアイシクルバット。つららを躱し、各々の攻撃手段で撃ち落として行きました。
私は炎魔法で火炎放射のようにして薙ぎ払っていますが、レストさんは蝙蝠が飛んでいる高さまでジャンプして、直接剣で斬りつけています。双剣使いですから身軽なのはわかりますが、普通あそこまで跳べませんよね!?
倒しても倒してもやってくる蝙蝠を確実に倒して行きます。その時、つららが降ってくるので上に注意がいって、足元に迫るフローズンワームに気づけませんでした。
フローズンワームが冷気を吐き出し、私は不覚にも凍った地面に足を取られてしまいました。追い討ちをかけるように降ってきたつららを、思いっきり身体を横に投げて躱します。
不運はそこで終わりませんでした。私が着地した場所は柔らかい雪だったのですが、急に地面が抜けて、私は小さな、しかし底の見えない深い穴へと落ちて行きました。
「きゃぁあああああああ!?!?」
悲鳴を上げながら落ちていく私。暗い地面にぶつかる直前で、全力の風魔法を地面にぶつけることでなんとか、着地の威力を殺すことに成功しました。
「ふぅ、死ぬかと思いました……」
本当に終わったかと思いました。咄嗟に魔法が出せて良かったです。死の危険なんて初めて感じました……
私は近くに落ちていた赤いベレー帽を拾い、服についた砂を払って立ち上がりました。
「わぁ……!」
見回してみれば、そこは淡く光る水晶でできた洞窟でした。中央に何かがあるみたいですが……
「あれは、たまご……?」
覗いてみれば、凍った枝を寄せ集めて作られた巣でした。その真ん中には、周りの水晶と同じ、淡い水色のたまごがありました。
「一体何のたまごなんでしょうか。フロストドラゴンの…なんて無いですよね」
様子を見ていると、ピキピキ、とたまごにヒビが入りました。もしかして、赤ちゃんが産まれるんでしょうか!?
私はその瞬間をじっと待ちます。
生命の誕生の瞬間……!
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