初等魔法の魔女

私はヴァイオレット、旅人です。
花依だんご
花依だんご

配達員のベレー帽

公開日時: 2021年11月25日(木) 17:26
文字数:2,700

ヴァイオレットのおしゃれ度UPです

「こっちは商業エリアだよ。屋台とかじゃなくて、店舗としてのお店が立ち並んでるんだ。他の街と違って、便箋や封筒なんかの紙類を扱う専門店もあるんだ」

「へぇ、流石は文通の街と言ったところでしょうか」


 商業エリアはかなり賑わっているようでした。赤レンガ造りのパン屋さんからは食欲をそそる香りがしますし、雑貨屋には興味をそそられる小物が置いてあります。かなり活気のある街なんじゃないでしょうか。


 まだまだセイルさんの案内は続きます。


「あっちの方は住宅エリアだね。僕の家も向こうさ。旅人向けの宿もいくつかあるから、宿を探す時は住宅エリアに行ってね」


 私が旅人ということを考慮してか、セイルさんは親切にも、いくつかオススメの宿を教えてくれました。


「お陰で宿に目星が付きました。ありがとうございます」

「気にしないでくれ。あと、向こうは貴族エリア。さっき手紙を届けたところだね。貴族様専用のエリアだから、あまり入らない方がいいかもね。他は特にこれといって言うべきことはないかな」


「そして、最後がここ。僕の働いている、中央郵便局だよ!」

「おぉー!」


 明るめの赤を基調とした、長方形の建物。壁に書かれている文字は、『ヒュプノス中央郵便事務局』。略して中央郵便局という訳ですか。白と赤の色使いが、太陽の光を反射していてとても綺麗です。壮観ですね。


「ふふ。ここは文通の街。毎日たくさんの手紙が街中を行き来している。それらを総括しているのが中央郵便局さ。郵便配達員には、分かりやすい目印があるんだ。それがこの赤いベレー帽。郵便関連の仕事をしている人は、みんな被っているよ。まぁ、おしゃれで被ってる人もいるけどね……」

「ほぇ〜」


 ちょうど通りかかった女性を見ると、やはり赤いベレー帽を被っていました。抱えているカバンから紙の端が見えているので、恐らく配達員さんなのでしょう。とても似合っています。


 じっと女性を見つめていると、セイルさんが言いました。


「そんなに気になるなら、一つあげようか?」

「えぇ!? いいんですか?」

「うん。さっきも言ったけど、おしゃれで被る人も結構いるんだ。それに、この帽子、小さくなったのも他にも三つも持ってるから、一つ記念にどうぞ」

「でしたら、ありがたく受け取らせて頂きます」


 と言うわけで、セイルさんが予備で持っていたベレー帽を一つ頂きました。赤いベレー帽を頭に乗っけるようにして被り、鏡代わりの水の膜を作って自分の姿を見てみます。


「おぉー、結構イケてますね」

「いいね。似合ってると思うよ」


 自分の姿に見惚れていると、思い出しました。そういえば、身分証明書を作らなきゃでした。


「あの、最後にもう一つだけお願いが……」

「どうしたんだい?」

「身分証明書って、どこで作れるでしょうか?」

「身分証明書……ふむ。旅人でも扱える証明書なら、ギルドに登録するのがおすすめだよ」


 ふむ、ギルドとな。職業ごとに色んな支部があり、仲介役もこなしてくれると本に書いてありました。


「この街にあるギルドは三つ。一つ、冒険者ギルド。街で傭兵なんかの雇われ仕事をやっている人や旅人なんかが多いね。時々魔物の討伐なんかを請け負ったりしているみたい。

 二つ、商業ギルド。何か物を販売するとき、ギルドに登録しておくと、開店資金なんかの援助をしてくれる。商業ギルド同士の店では割引が発生する、っていう利点もある。

 三つ、これはこの街独特のものなんだけど、郵便ギルド。中央郵便局の別名に当たるってだけだね。おすすめはもちろん冒険者ギルドだよ」

「なるほど。では、冒険者ギルドで作ってみたいと思います。場所を教えて下さい。セイルさんも午後のお仕事があるでしょうし、頼りきりなのも悪いですから」

「分かった。冒険者ギルドはここから南西の方角に向かって歩くと、右手側に見える石レンガの建物だよ。じゃあ、頑張ってね」

「はい、ありがとうございました」


 お礼を言ってセイルさんと別れる。思えば迷惑をかけっぱなしだったので、後でもう一度お礼を言いたいところですね。


-------


「ここですね」


 今度こそ、迷うことなく冒険者ギルドに辿り着くことができました。……何でしょう、この妙な達成感は。


「ごめんくださーい」


 冒険者ギルドの扉を開く。中からは冒険者たちの喧騒が聞こえてきました。ですが、私が入った途端、誰かがゴクリと生唾を呑むような音が聞こえました。みな好奇の視線で私を見つめていました。全員、私の美貌に酔いしれてしまいましたか。私は罪な女ですねぇ……って、いくら私が美少女でも、そんなことはないでしょう。


 そう思いましたが、聞き耳を立てれば、案外間違ってなかったようです。


「なんだあの美少女……」

「すっげー髪綺麗だな……」

「おい、誰か勧誘してこいよ」

「無理だって、俺にはハードルたけぇよ!」


「ふふっ、意外と気分良いもんですね。勧誘はお断りですが」


 足取り軽く受付へと向かいます。


「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「あ、はい。身分証明をするために、ギルドカードを作りたいのですが」

「新規登録の方ですね。少々お待ちください」


 彼女は一度裏方へ引っ込み、書類を片手に、すぐに戻ってきました。手際がいいですね。


「新規登録でしたら、まずはこちらの記入用紙に個人情報をお願いします」

「わかりました」


 私は、受け取った紙に名前、年齢、出身、職業なんかを書き込んでいった。


「これでいいですか?」

「はい。ではカードを作成している間に、こちらをお読みください」


 と言って冊子を一つ渡されました。どうやら冒険者ギルドに関するいろはが書いてあるようです。


 内容を掻い摘んで話すと、基本的に自己責任、依頼はギルドを通して行う、毎年一度はギルドカードを更新する、などなど、あんまり気にする必要のなさそうな内容でした。一人旅なので元々自己責任ですし、依頼を受ける気は特にないです。行く街ごとにギルドはあるでしょうし、更新も問題ないですね。


「お待たせしました。こちらが冒険者ギルドのギルドカードになります」

「おぉ!」


 そうこうしている内に出来上がったギルドカード。よし、これで身分証明書も問題ありません。


「では、ありがとうございました」

「またご利用ください」


 終始お堅い雰囲気の受付さんでしたが、最後は手を振ってお見送りしてくれました。きっと女性客が珍しいんでしょう。


「さてと。そろそろ宿でも探しましょうか」


 日が傾き始め、地面に伸びる影も長くなっていました。私の背も、この影みたいにもう少し伸びてくれると嬉しいんですけどね。


 赤いベレー帽を被り直し、私は住宅エリアへ向かいました。この帽子、結構お気に入りになりそうです。

お気に入り。

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