「これが大聖堂ですか……」
「えぇ。この中のステンドグラスが有名よ。この街のガラス細工職人は、いい腕してるからね」
大聖堂は、巨大な建物で、ヒュプノスの中央郵便局が何個いるのか分からないくらい巨大でした。当然、それに比例して入口の門のサイズも巨大でした。
「トホホ……こんなことなら杖を買っておけばよかったです」
杖は魔法使いが魔法の威力や精度を上げるために使う道具です。それなりのお値段がするので、私はお金をケチ……いや、節約して買っていなかったのです。魔力の媒体にするので、魔力との親和性が高いものほど効果も高まります。
「あら? 杖が無いなら作ってあげましょうか?」
「え? ローズさん、杖作れるんですか?」
「えぇ。これでも加工職ですからね。質を期待しないでくれるなら、作れるわ」
「是非お願いしていいですか!? この作業、時間がかかりそうなので効率を上げたいんです」
「分かったわ。ちょっと待っててね」
と言ってローズさんは近くにあった凍った木の枝を一本もぎとりました。
「このくらいの薄さの氷なら……!」
何やら作業をしているようなので、邪魔せずに待っていました。ちなみに、他の皆さんは広場やお店から大聖堂に運び込む物資の準備をしてくれています。
待つこと数分。
「はい、出来たわよ」
「ありがとうございます。へぇ、これが杖……」
ローズさんから受け取った杖は、15センチほどの長さで持ちやすいです。黒っぽい木でできていて、持ち手のところ以外は凍ったままでした。
「それはマツの木よ。魔力親和性は良くはないけど、凍らせたままだから強度はそこそこあるはずよ。試してみて」
「はい!」
人生初の杖が凍った杖という不思議な体験ですが、私は少しウキウキしています。
「じゃあ行きますよ!」
私は扉に向けて炎を放ちました。その炎を見て、私はびっくりしました。今までの私の炎の数倍の大きさの炎が出ていたからです。炎を浴び、一気に氷が溶けていきました。
「ふぇ……?」
「あら、バッチリじゃない。流石は私、即席にしては良くやったわね。あなたの魔法が上手ってのもあるけれど」
す、すごい……杖なんて使ったことなかったですが、こんな威力が出るとは……それにしても、どうして杖先の氷は溶けないんでしょうか?
私は、威力を増した炎魔法を使って、わずか数分足らずで扉の氷を溶かし切りました。杖があるってだけで、結構楽な仕事でしたね。合流してきた他の皆さんも目をまん丸にして驚いていました。
「よし、これで大聖堂が開きました。荷物の運び込みは任せます。私はこれから街の人たちを溶かしに行ってきます」
「おう、任せた。ローズさんはヴァイオレットさんについてやってくれや」
「えぇ、分かったわ」
再び役割を分けて各々作業を開始しました。私はローズさんと共に氷漬けになった人たちを探しました。
「じゃあこの通りにいる人たちから順にやっていきますね」
「頼りにしてるわよ、ヴァイオレットさん」
私は、通りの真ん中にて、空を見上げた体制で凍っている男性の氷を溶かしていきます。大聖堂の門とは違って慎重に行わなければなりません。もし中身の人間を焼いてしまっては行けませんから。正直、こっちの方が大変かもしれません……
足元から順に、杖先の炎を当てて行きます。ゆっくりと氷を溶かし、やがて全身の氷を溶かし切りました。
「……あれ、ここはどこだ?」
「そこのあなた、大丈夫ですか?」
「うわ!? 目の前に美少女が!? これは夢!? それとも僕、死んじゃったのかな!?」
「夢じゃありませんよ。あなたは凍っていたんです」
「凍って……? って、何じゃこりゃぁ!!!」
その男の人は凍って街を見て叫び声を上げました。とても声量が大きいです。直接的に言えばうるさいです。ですが私を美少女と呼んだので許します。
「あぁ、そうか。さっきのドラゴンが……」
「ドラゴン?」
彼が何やら手掛かりになりそうなワードを言ったので聞いてみました。ドラゴン、とはまた物騒なワードですね。
「あぁ。俺は昼飯食べた後の腹ごなしに散歩してたんだが、その時に変な鳴き声が聞こえたんだ。『グゥアアアァア!!』ってな。上から聞こえたから何ごとかと思って空を見上げると、居たんだよ、水色のドラゴンが!! そう思った次の瞬間、俺の意識は途絶えた、って訳だ。街がこうなったのもあいつのせいじゃ無いか?」
「なるほど……」
私たちは彼に大聖堂が避難所だと伝え、次の人を探します。
「ローズさん、ドラゴンって何のことか知ってますか?」
「えぇ。昔から双子山に住んでいると言われている、フロストドラゴンのことね。でも、街まで降りてきたっていう話はあんまり聞いたこと無いわね」
ローズさんも特別詳しい訳ではなく、話が進まなそうだったので作業を続けることにしました。
その後も順調に解凍作業は続き、今日は30人近くの人を助けることができました。まだまだ氷漬けの方々はたくさんいます。もう少し頑張らなきゃですね。
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