「それでは、はじめッ」
審判の合図が上がり、俺たちは向き合った。
正式な剣道の試合とは少し勝手が違う。
なぜなら、陽菜の連れてくる刺客たちは、蹲踞の仕方すら知らない素人が多い。
めんどくさいから簡単なやり方に変えたんだ。
中央で向き合って合図を待つ。
合図が出たら試合開始。
見る方もその方がわかりやすい。
とくに、剣道には興味すらないお嬢様の「目」には。
タンッ
タンッ
さて、どっから攻めてやろうか。
“攻める”って言っても、隙だらけなんだよな…
剣道で重要なのは「呼吸」だ。
相手との間合いの中でいかに自分の“息”を継続できるか。
素人でよくやりがちなのが、相手の動きを目で見ようとすること。
人間の体の構造を理解していれば、どっから竹刀が飛んでくるのかは考えなくてもわかる。
素人であればあるほど視線がばらつきがちだ。
目の動き。
ステップの位置。
全ては線として繋がっている。
時間や空間は常に有限なんだ。
その「距離」を養うことが、敵の行動を正確に把握するための「アンテナ」になる。
ジッちゃんは言っていた。
最小距離の連続。
「動き」の中にしか、「静」は存在することができない。
「静」と「動」は常に相対する関係にある。
だからこそ、常に最短距離への領域に、足を踏み入れていなければならない——
と。
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