プリンセスは殺し屋

殺すぞ?
平木明日香
平木明日香

第41話

公開日時: 2024年1月28日(日) 18:17
文字数:529



 「それでは、はじめッ」



 審判の合図が上がり、俺たちは向き合った。


 正式な剣道の試合とは少し勝手が違う。


 なぜなら、陽菜の連れてくる刺客たちは、蹲踞の仕方すら知らない素人が多い。


 めんどくさいから簡単なやり方に変えたんだ。


 中央で向き合って合図を待つ。


 合図が出たら試合開始。


 見る方もその方がわかりやすい。


 とくに、剣道には興味すらないお嬢様の「目」には。



 タンッ


 タンッ



 さて、どっから攻めてやろうか。


 “攻める”って言っても、隙だらけなんだよな…


 剣道で重要なのは「呼吸」だ。


 相手との間合いの中でいかに自分の“息”を継続できるか。


 素人でよくやりがちなのが、相手の動きを目で見ようとすること。


 人間の体の構造を理解していれば、どっから竹刀が飛んでくるのかは考えなくてもわかる。


 素人であればあるほど視線がばらつきがちだ。


 目の動き。


 ステップの位置。


 全ては線として繋がっている。


 時間や空間は常に有限なんだ。


 その「距離」を養うことが、敵の行動を正確に把握するための「アンテナ」になる。


 ジッちゃんは言っていた。


 最小距離の連続。


 「動き」の中にしか、「静」は存在することができない。


 「静」と「動」は常に相対する関係にある。


 だからこそ、常に最短距離への領域に、足を踏み入れていなければならない——


 と。

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