一瞬、重力がなくなってしまったのかと思った。
それほどまでに、“何もなかった”。
「何もない」というと、誤解を招くかもしれない。
ただ、そう感じるだけの「奥行き」があった。
自分が今どこにいるのかもわからなくなるほどの高低差。
「広さ」が、空間の隅々まで浸透していた。
「うおッ!」
びっくりして視界が泳ぐ。
(…俺、今、浮いてるのか?
それとも、沈んでる…?!)
重力の慣性さえも見失う認識の“ズレ”。
飛んでいる飛行機から急に投げ出されたような『浮力』。
——それが、瞬く間に意識の内側へとかけ走っていった。
すれ違う暗闇の断片から。
「大丈夫ですよ。じきに到着します」
音ははっきりしていた。
その質感も。
振動も。
水の中に呑み込まれたような空間のうねりが、視界の前方から流れてくる。
渦の中心へと真っ逆さまに落ちていくような「穴」が、その先端にあった。
“亀裂”
空間そのものが歪んだ“裂け目”が、漂流する波の内側にある。
光が泡状に膨れ上がり、破裂する。
圧縮された空間と時間。
その凝集された密度の向こうに、——顕れた。
広大な「世界」が。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!