プリンセスは殺し屋

殺すぞ?
平木明日香
平木明日香

第44話

公開日時: 2024年1月30日(火) 21:24
文字数:465




 …消え…た…?



 いや、バカな…


 あり得ない…



 相手の「位置」はそこにある。


 ガラ空きだった右腕。


 地に着いた足。


 視界が揺れるほどの挙動の最中、踏み入れた足の先に伝播する波の「音」があった。


 俺はそれを聞き間違えたことはない。


 例え相手が熟練の剣士であっても、決して逃れることができない「場所」がある。


 踏み入れたのは「境界」だ。


 有効となり得る場所と、——タイミング。


 にもかかわらずだ。


 視界から相手の腕が消えた。




 「どこを見てる?」



 …な



 あり得ない角度からの視線。


 迸る悪寒。


 体育館シューズが摩擦で焦げる。


 ヤンキー野郎は俺の死角にいた。


 すでに間に合わない距離、——竹刀を動かせない領域に。



 ドッ



 ——衝撃。



 胴の上から弾ける破裂音。


 竹刀が“ぶつかる”放物線。


 でも、そんなのはあり得なかった。


 剣道の試合の中で起こるのは、互いの「間」とそのせめぎ合いの中に生じる“接触”だ。


 そしてその接触は、鍔迫り合いのように烈しい摩擦が生じる。


 剣が届くか届かないかに接する間際の攻防。


 だからこそ、その「接点」は著しく繊細だった。


 少なくとも、僅か数ミリの隙間に触れられる程度には。


 

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